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悲鳴というか、喘ぎに近しい声が、微かに聴こえる。魔術師だけが使用できる調合塔、毎度々、聴こえるのはヤバいものばかり。
「今回は注意だけにしとくけど、次は罰もありますからね」
「……はい」
噴水。季節ごとに色とりどりの花が咲く庭園。なぜかそこで説教を受ける俺。つーか俺だけですか、マルテは?
「でも貴方は剣士よね。鏡を使えるのは魔術師だけですし」
寮母は、腰に携えてある剣を見た。常に持っておくように、学園の決まりだしな。
「マルテも共犯です」
「そう、注意しておかないとね。貴方も気を付けること!」
あぁ、そうか、校舎へ戻るのに目と鼻の先だからか。何かあった時に駆け付けられるよう、教師が見れる位置に調合塔は建てられている。
真上から見れば、時計のような構造をしているんだっけか。我が学園は。夕方、傾く陽を背に受け、足元から伸びる自分の影。寮に行くか。
建物に入ると、ルームメイトに囲まれた。
いつでも何処かしら寝癖の男は詰め寄ってきた。「覗きしたんだって?」
「どんな感じだった?」──…椅子に腰掛けていた男は、本へ向けていた目線を徐に上げる。ついでに眼鏡もクイッと上げた。
「だ……、誰のを見た? あ、やっぱりいいや」聞こえてきた方へ、目線を落とした。耳の後ろへ手をまわしたり、挙げ句には、言葉を濁す。彼の頭上へストンッ──と、チョップをお見舞いした。
「なにするんだよー、シオン」
「叩きやすい身長だからだよ」
何故バレてる? というか、一斉に聞くな。寮母が来る直前の騒ぎが広がってしまったと考えるのが必然か。
「湯煙で曇って見えなかった」
またしても一斉に言う。「なんだよ~、つまんねーの」
勝手に聞いといて勝手に落ち込むとか、何なの。
「なぁなぁ、調合塔から戻ってきたら、頼もうぜ」寝癖なんだけど、良い感じに見えるときもあって、なんかズルい。
「欲望を喋るってやつか」レンズの奥、瞳が生き生きしてる。
「ふ、副作用が怖いじゃん」
何の話をしてるんだか。
「シオンは、実験台な」
「状況を知らない俺に何をさせる気だ」
「大丈夫、ドリンクを飲めばいいだけだ。もうすぐ
体の動きから少し遅れて、寝癖が揺れる。目をキラキラとさせられてもな~。
「ちなみに、副作用ってのは?」
「頭痛とか吐き気とか、そんなもんじゃん?」揺れた寝癖。首を傾げるなよ、そこ重要だろ。
「上手くいっても欲を喋るって? デメリットしかないような気がしてきたぞ」
右手、左手、順番に高々と上げて、声を大に言いきる。「メリットばかりの祭りなんぞ誰が楽しいのだ! 予測不可能なのがいいんだよ!」
春祭……か。祭りという言葉はついても、派手に飾られたりはしない。男だけがソワソワして、無駄にソワソワして、何も無ければ勝手に強がるだけ。そういうイベントだ。
まぁでも、何も無いと始めから決めておいて、派手に散っておくのも、良いかもしれないな。
「はぁ~、終わった」
何がどうなれば顔面まっくろになるんだか……。ルームメイト、最後の1人が帰ってきた。
「欲望を喋るドリンク、完成したか!?」楽しみにしているのが現れているようだ、寝癖が一段と、ピョンと揺れる。
「え~? 何がどうなってドリンクの事を知ってるの~? 魔術師だけの秘密だったのに。春祭のときに、驚かせようと準備中だったのに」
準備中……? 説教受けてたときの、聴こえてきたヤバい声の真相がそれなのか?
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