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もわもわ。湯煙が広がっている。
『あら? どなたかの忘れ物ね。寮母に届けないと』
雪のように白い肌、鎖骨、もう少しで胸が映るところで、何処かへ鏡を置いたらしい。
「今の女子は?」
「ルシファーだよ。僕と同じ魔術師さ」
相手も魔術師なら、鏡に魔法がかけられている事はすぐに分かってしまうんじゃ? まぁいい。経過を見よう。
『それ、ルシファーの鏡ですか? 新調したんですね』
『どなたかの忘れ物みたいなの』
もあもあ。鏡が曇ってしまった。声しか聞こえない。
『寮母に届けないといけませんね。困っている寮生がいるかもしれませんし』
何処かに立て掛けていた鏡を手に取ったらしい。小麦色の肌が微かに映る。声からしてアメリなんだよな。首すじ、濡れた髪がぴとっとついて。
「僕、首から鎖骨までが好きだなぁ」
「ここまで大胆にしておいて、よく言うよ」
「僕自身も、そう思うよ。昨日は街で有意義に過ごせた?」
「アメリと一戦するはめになった」
「嫌そうに聞こえないな。シオンだって決まった時間に行ってるだろ」
「一戦するのは楽しいよ。時間を決めて、約束してするのは、なんか癪なんだ」
人が通りそうなのを察すれば、話題を変える。疎らに行き交う廊下で、女子の入浴を覗き見る俺たち。
『ルシファー、その鏡、魔法がかけられてませんか? 青い光りがわずかに……』
『ほんとだわ、点滅してる』
『魔術師にとって、鏡は大事な物でしょう? それを脱衣室に置き忘れるだなんて』
鏡に魔法を施した張本人、俺の横で震え上がっているマルテ。
「バレたぞ。剣士のアメリが気づくってどういう事だ」
「ルシファーは天然だから。アメリさんが居るとは知らなかっ──…」
何かが割れる音。何も映らず暗いってことは、割られたか。マルテが持っている鏡も、歪な音を立てたかと思うと、破片が俺たちの足へ落ちてきた。
「俺たちの場所は把握してな、……!?」
両足が沈んでいく。石造りの廊下が、ぐにゃり。沼を歩いているかのような、水気を含んできた。
「まぁ!? シオンじゃないですか! そっちの頼みを引き受けて魔法を使っていたんですね、マルテ」
ルシファーの魔法で瞬間移動か。
「控えめな化けの皮を被ってるだけだ、俺とそう変わりない。授業以外で魔法を使うのは禁忌だろう」
「禁忌をしたのはそっちでしょ!! どうやって魔法を施した鏡を脱衣室に置いたんですか」
「マルテが説明するってさ」
「仮の魂を込めれば、物は生き物みたいに動かせるんだ。説明はした。じゃあ僕はこれで──…」
マルテは大きく息を吸い込むと、廊下に潜った。逃げやがったな、同じ
ヘソの辺りまで沈んだところで、停まる。背後から影が差す。寮母さまのお出ましだ。
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