君だけに、ちょっかいを掛けたいんだ

糸花てと

1

 石で造られた建物は、よく響く。後方から革靴の音、間隔からして大股。堂々と歩いてきたのは、幼馴染みのアメリ。街の中央、広場にある鐘が鳴ってから少し。その時間帯に修練場を訪れるのは、いつもの事をする為だな。


「シオン、一戦交えましょう」

「お手柔らかに、頼むよ」


 アメリは頬をふくらませ、ムッとする。


「シオンはいつも手を抜きますよね。対等にして下さい」

「女性相手に出来るわけないだろう?」

「剣は練習用ですし、本物じゃありませんから。怪我はしないじゃないですか」


 怪我もだけど、本物を使われたら俺の集中も途切れて、目的が果たせなくなるからなぁ。わざとやられる為にも、本物は絶対に使ってはいけないのだ。


「まぁとにかく、一戦交えようか」

「本気でいくので、本気でお願いしますね」


 見据える、アメリの冷えた瞳には、毎度々ゾクゾクするねぇ。それが覆されたとき、最高に気分がいいんだ。


 ぐんっ、と距離を詰めつつ、剣の先端が俺の眉間を捉える。軽く力を込め、剣で振り払った。崩れた体制を戻すには、片足で踏ん張らないといけない。そうなる前に、肩を掴み、上体を地へと抑え──…


 腹部に突き刺す痛み。アメリが持っている剣、いつの間にか先端を俺の方へ向けていた。自分だって倒れるのに、相手にもダメージか。


「…──ぐっ! 本気でやれってことかよ」

「そう言ったはずです」


 アメリは倒れることなく踏ん張り、剣を俺に向ける。押しては引いて。互いに譲らない。俺の目的、達成されるのか? どうやったら派手にやられるんだ、これは。


 息も上がり、アメリも上下に肩が動く。限界が近いじゃないか。剣を振るには足も動く、若干鈍くなってるのが目に映る。


「このっ……!」

「きゃあっ──」


 重心が後ろにあるのに賭けて、足を横から蹴った。するん、と動きアメリは派手に倒れた。……しまった、俺がやられなきゃいけない予定だったのに。やられたあとに見上げれば、純白の、穢れを知らないものがそこには──


 ん?


「アメリって、意外と胸あったんだな。防具で隠れてただけか。小さいと思ってた」


 倒れた衝撃で緩んだ紐、隙間から覗く、ふくよかな胸部。寄せただけにも見えなくはないけど。


「…──っ!? どこ見てるんですか!!」


 派手に倒れたはずだろ、なんで剣を握ったままなんだよ。アメリが剣を振り上げる。位置が丁度よかったんだろう、股座またぐらに当たった。地に這いつくばっていても、どんなに偉い者でも、その一撃をくらえば、しばらくは動けない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る