第147話 相棒。使い魔

 王立学院の生徒は、使い魔と契約を結べる確率が高い。

 召喚の魔法陣から出て来る魔物や妖精と、を問う儀式ではなく、の可否を判ずる儀式を行うからだ。


 世間一般の使い魔に対する常識は、人に使役される物。あるいは道具的な物だ。そして、そんな契約のほとんどが、失敗する。


 使い魔に対する認識の違いが、契約成就の可否を左右するのだが、一般人で理解している者など殆どいないし、自分たちの常識を変えられるほど、思考の柔軟さも持ち合わせていない。


 先ず持って、相棒となる使い魔と、うまく目見まみえるだけの強運を、本人が持っていなければ、出会いすら無いのだが。。


 学院内では召喚の陣を、相性の陣とも呼んでいた。


「日程は違うけど、他校の生徒も一般の冒険者も、試しに来るって聞いたわ」


「そうなんだ。一般人でもチャレンジできるんだ」


 小真希が渡したお手拭きで、リノは口元を拭った。ついでにと渡したお茶は冷めていて、一気飲みするリノが子供に見える。


 夕食代わりのパンを食べ終え、二杯目のお茶で喉を潤しながら、小真希は習った注意点をつらつらと話した。


 王立学院は国営だが、学院の周りには、財団やギルドが設立した学校がある。


 魔力量が規定以下でも、剣技に優れた者が通う騎士団付属校。

 魔力量も剣技も今ひとつだが、知略に長けた者が通う文官養成校。

 その他諸々の技術養成校や、技能スキル特化の塾。新人冒険者の教習所が、密集していた。


「魔塔は王家の所有だけど、他校にも一般にも、便宜は計っているみたい。国民に不公平があってはならない。みたいなものかな? 」


 ミセス・エバンズから詳しく習うほど、伯爵家シンプソンに居なかった小真希。知識に曖昧なところが多かった。


「一回で契約できなくても、訓練次第で魔力量は増えるから、毎年チャレンジする学院生はいるみたい。自分の魔力量によって、相棒にできる召喚獣の強さが変わるらしいの」


 魔力量には困らないリノ。もしもドラゴンなんかが出てきたら、餌代だけで破産すると呟いた。


「もっと強い従魔が欲しいから、欲張って契約を結ばなかった人が、一生契約できなかったって事もあるみたい」


「ザマァだわぁ」と笑う小真希に、リノがハッと顔を上げた。


「だいたいの人は一体? 一頭? と、契約できれば上出来だって。だから、よく考えて、相棒を選ぶようにって、言われてる」


 ニコニコとお茶で喉を潤す小真希に、リノは唇を舐めた。これから重大な質問をするのに、喉が乾いた様子で。。


「あのさ、コマキィ嬢。さっきザマァって言ったよね。それって 」


『長らく待たせたなぁ。ぐふ ぐふふふ。小娘ぇ、元気でやっているかぁ? ぁあ? あはははははははは! 』


 ポンと。突然ポンと。

 目の前に、幼い子供が降ってきた。 ポン。。


 ここは中庭のベンチで、軽食を摘んでいただけ。。

 ふたりの前に降ってきた五歳くらいの男の子が、腰に両手を当てて、ふんぞり返っている。


 だれだ? コレ。。


 ぽかんとするリノと小真希に、子供らしくないの大笑い。


 ほんと、だれだ? コレ。。


『明日は、使い魔との相性を試すのか。むふふふふ。面白い』


 この話し方。この雰囲気。えぇぇぇ。。


『お前。小娘の知り合いみたいだな。良い良い、目をかけてやろうぞ。ふははははははは』


 吃驚して引いたリノの顔に、幼児は鼻を突きつけて迫った。


「はぁ。あんまり、おかしな事はしないでよね。で? 何か用? 」


 淡白な小真希に呆けた顔をする幼児。


『せっかく器が完成したから、見せに来てやったと言うに。もっと驚け。ほらほら、小娘』


「あぁ〜器 って、なんで子供? え? なんで男の子? 」


 小真希の身体を器にするのは、渋々だが了承した。了承したけど、ここまで変えるとは思ってもいなかった。


『魅惑のじゃろ。おおいに褒めるが良い』


「……可愛い乙女の身体を〜〜〜 何してくれるんじゃぁ! 」


 元のままで使うとは思っていなかったが、あまりの変容に、小真希は半泣きだ。


『むぅ。泣くほど感激したか。かっかかかか げほっ けほっ』


 自慢しすぎて仰け反った精霊が、喉を詰まらせた。


「コマキィ嬢、これって? いや、この子って、誰? 急に空中から、出てきたよね」


 うっかりしていたが、リノの存在を忘れていた。


「えぇっと、精霊の友達? 」


 精霊が友達って、何を言っているんだか。。

 リノの匂いを嗅いでいた精霊は、黒〜い笑みを浮かべた。


「お前、小娘と同じ匂いがする。気に入った。我れが良い使い魔を造ってやろう。小娘、神酒ソーマと髪と血をよこせ。小僧、お前もだ。髪と血をよこせ。明日が楽しみじゃのぉぉ」


「いてっ! 」


「痛ぁっ 」


 ぶちぶちと数本の毛が抜け、チクリとした人差し指の先から、直径一センチくらいの血球が抜け出た。


「無断強要、はんたーい。もぅぅぅ、いつもいつもぉ! 」


 くるりと旋回した精霊が、片手を出して煽る。


『ほれ、早く神酒ソーマを出せ』


 何を言っても聞かないだろう精霊に、小真希は神酒ソーマを渡した。


『クククク、期待して待っておるが良い』


 やりたい放題、言いたい放題の精霊が、スルッと空間に消えた。


「ほんと、何がしたかったのよ。もぅ」


「あの、コマキィ嬢? 」


 疑問符だらけのリノに、小真希はヘラりと笑った。


「ごめん。悪い精霊じゃないんだけど、面倒臭いのに、気に入られたみたいね。あー  大丈夫だよ。たぶん」


「  たぶん、なんだ」


 すっかり聞きたい事を忘れたリノは、明日の不安に苦笑を漏らした。



******

『よしよし、コレで良い。あとは。 おい、出てこい』


 モヤモヤとした異空間で、精霊は髪と血と神酒ソーマを取り出して、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。


『あの小僧の魔力を、我によこせ』


『わがままな精霊ですねぇ。召喚者から採集した、純粋な魔力マナですよ。何に使うつもりですかー』


 空間が凝縮して人型が現れた。

 はっきりしない光の塊のようなものだ。


『小娘の仲間になりそうな小僧に、最強の召喚獣を造ってやる』


『ああ、魔力マナの持ち主ですか。なら、良いでしょう』


 プカリと現れた金色の球体を、精霊が掴んで捏ね回す。

 小真希とリノの髪、血液、精霊の手からも、闇色の力が滲み出す。


『大地の精霊のマナも、すこーし 提供しましょうかね』


 精霊に似た悪戯な声で、が笑った。


『くくく 好きなだけ 無双するが良い  くははっはは』

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