第143話 同級生
「失礼。自己紹介をしても良いだろうか。レナルド殿下」
サーシスの後ろから、艶々しい黒髪の男子がふたり、歩み寄ってきた。
「ぇ……」
声がけした男子を二度見した小真希は、慌てて俯く。
とてもよく知る仲間に、そっくりだったから。。
(ウェドは金髪。この人は黒髪。
何もかも似ているのに、違う。別人だけど別人なの? と。。
「もちろん。姉上の
親しそうな割に、
「同じ歳だし、もう名前で呼んでくれても、良いと思うのだが」
なんとなく、気まずい皇子と王太子に温度差を感じて、小真希とリノは目を合わせ、意味もなく笑んだ。
さすが、事なかれ主義の
さっきも思ったが、リノの年齢で先輩夫婦の実子なんてあり得ない。この世界の子供を養子にしたなら、話は違うが。。
リノと会話して、なんとなく懐かしいと感じる感情を、持て余す。
日本人であれば良いなと、埒もなく思う。もしも、二度目に召喚された勇者なら、仲良くなりたい。切実にそう願った。
「わたしはバクス・ロジェ・ジン。ジン皇国の第三皇子だ。この度バードック神星王国に、留学生として迎えてもらった。王家の世話になっている。同級生として五年間、よろしく頼む」
ロジェ皇子に、目で合図されたもうひとりが、頷くように頭を下げた。
「レイモンド・ラスネールです。ロジェ殿下の側近で、幼馴染です。貴族とか平民とか、気にしないので。よろしく」
皇子と同じ黒髪でも、瞳の紫と同じ色が、幾筋か前髪にメッシュで入っている。
本人は身分を気にしないと言っても、動かない表情が怖くて、言葉通りに受け取って良いものか、悩むところだ。
見た目の冷たさが、見た目だけなのか、そのままなのか。。
「あー、平民のリノです。礼節とか、あんまり分からないですけど、学んでいきます。よろしくお願いします」
無難な挨拶をしたリノに、周りは鷹揚に頷いたりして、まずは良い雰囲気だと思われる。
まだ自己紹介をしていない三色頭のうち、濃碧が少しだけ前に出た。
「レックスだ。ゴール伯爵家の嫡男で、王太子殿下とは幼馴染の側近だ。同級生ではあるが、わたしの優先すべきは、王太子殿下だと思っている。分を弁えた行動を望む」
立ち位置はリノと僅かに重なって、三色を受けて立つ構えだ。
小真希の様子を面白そうに観察していた茶髪が、庇われる形になったリノに、笑みを向けて顎を上げる。
「カーター・クレマン。伯爵家嫡男で、レックスとは違い、王太子殿下の側近候補だ。わたしも第一に守るのは、王太子殿下である。同級生と言えど、無礼があったなら容赦はできない。そのつもりで居てくれ」
お仲間ふたりがリノを睨んで自己紹介をした事で、不機嫌さを増した赤銅が、小真希に視線を固定する。
「ジーニス・ランドンです。子爵家嫡男ではありますが、王太子殿下の側近候補です。殿下と、殿下の婚約者であるルイーゼ嬢を、お守りするのが僕の使命です。お分かりですよね、コマキィ嬢」
言わんとする事は、王太子殿下に近づくな。だろう。
そこには、田舎貴族が生意気だぁー。も、入るのか。。
扇子に隠れた小真希の口辺が、ギュギュッと持ち上がった。
(いけないわぁ。普通の顔、ふつう の かおっと)
猫被りで顔を整えてから、サラリと扇子を閉じ、優雅に礼を見せつける。
「最後になりましたわね。わたくしはコマキィ・サザンテイル。皆さまもご存知のように、バードック神星王国の、国境と魔境を、建国より守り続ける辺境から、参りました。ルイーゼ様は、わたくしの姪となる令嬢ですのよ。お分かりですわね、ランドン子爵令息? 」
小真希的には、サザンテイルに喧嘩売って、無事で居られると思っているお坊ちゃん。甘いわー。
仮だけど、ルイーゼの身内であるわたし相手に、弁えろや! である。
(あー、面倒くさいっ。帰りたくなるっちゅうの! )
「ふふっ。逞しい令嬢って、憧れますわ。いっそ、お姉様とお呼びしたいくらいです」
ナスタシア王女殿下の眩しい瞳に、嬉しくなった小真希はデレた。
「王女殿下。よろしければ、コマキィと呼び捨ててください」
「まぁ。では、わたくしの事はターシャと呼んでください。コマキィ」
「光栄ですわ、ターシャさま」
ものすごく嬉しくて、被った猫が剥がれそうになっている。
「いずれわたくしは臣下に嫁ぎ、王籍を離れます。迷惑でなければ、ずっとお友達で居てくれますか? 」
「はい。喜んで〜」
どこかで聞いたフレーズに、リノが驚いて目を見張った。
「失礼致しますわ! 」
扉が開き、噂のルイーゼが踏み込んでくる。後ろにはミンツと、初めて見る女生徒がひとり居た。
「殿下、お迎えにあがりました。昼食の用意は、高位の皆さまの分も、特別室で予約致しましたので、ご安心ください」
器用なルイーゼは、小真希の前へ割り込んで、王太子殿下に微笑みかける。
高位の皆さまに、小真希とリノが入っていないのは明白だ。
そのまま肩越しに振り返り、得意げに嗤った。
「おばさま、あなたのお転婆に巻き込んで、殿下にお怪我など負わせないよう心して下さいませ。わたくしどもの使用人や、淑女の鏡ミセス・エバンズを、心底困らせたあなただから、わたくしは心配で注意をしているのですよ。まさか嫌がらせなどと、卑しい誤解はなさらないで下さいませね」
(うん。誤解じゃなくて、嫌がらせだわ。必死だね〜。ご苦労様です。ははっ、どんな噂を流したいのかね)
笑って黙っている小真希に、ルイーゼは調子に乗った。
「もう放課後ですから、いつまでも殿下を煩わせないで、離れてくださいませ。馴れ馴れしくなさるのは、不敬です。王女殿下とも、親しくなれる身分ではありませんでしょう? 弁えてくださらなければ、シンプソン伯爵家が恥を被りましてよ」
言いたいのは、つまり。
平民上がりの偽貴族が、王族に取り入るのは生意気だ。
大人しく、隅っこで畏れ。かな? 。あとは、王太子妃の座は、あんたなんかに渡さない! くらい? 。
「ほほっ、我が姪の元気なこと、何よりね。今の言葉、一言一句間違いなく、
にこやかに言い切った小真希に、音がするほどルイーゼは硬直する。
顔だけ振り返ったまま、得意げな笑顔まで凍っていた。
扉の横で、真っ赤になって睨みつけるミンツにも、小真希は微笑んで見せた。
「リノ。わたくしたちも、お昼ね。食堂にご一緒しましょう。では皆さま。ご機嫌よう」
荷物もない事だし、身軽に出て行こう。
「わかった。ありがとう、コマキィ嬢」
小真希に続いて教室を出ようとするリノに、ルイーゼと共に来た女子が、突き刺さるような声で話しかけた。
「お前、高位の方々に、近づいてはなりません。弁えなさい」
酷く冷たく、ゴミでも見るように眉を顰めている。
「……分かっています」
俯いたリノは、何の感情もなく機械的に答えた。
粘りつくように追って来る女子の視線に、廊下の角を曲がる時、小真希は威圧を込めて笑い返しておく。
(
リノを連れたまま、学舎の
待っていた
訪れた学舎の食堂はサロン風で広いが、父兄を交えた新入生が多くて混雑している。
「寮の食堂へ行きましょうか」
男子寮と女子寮は別棟だが、間にある一階の広間は広々した食堂だ。
これから朝晩の食事をいただく場所の端に、中庭のテラスへ出る空間があった。
「ここ、気に入ったわ。リノはどう? 」
「うん。いいね」
厨房のカウンターで好きな料理の皿を取り、四角いトレイに乗せて運ぶ。ここにいるのは、だいたいが平民枠の新入生だ。
上の学年は休日扱いらしく、あまり見かけない。
円テーブルにトレイを乗せ、リノは彩りの良いサラダに取り掛かった。
「ねえ、リノを呼び止めた彼女と、どういう関係か聞いても良いかしら。その、とても感じ悪いなって、思ったから」
「あー。僕を後見してくれる司教のお嬢さん。あんまり喋らないけど、口をきくと辛辣な人だよ」
パンを千切るリノの顔が曇る。あまり親しい後見人では、なさそうな雰囲気だ。
「そう、司教なの」
「うん。サー・ガイツ・バードック司教。前王さまの妾妃の息子だって。それくらいしか、知らない」
ここにも王家繋がりが居た。
今日の一切合切は、漏れなく報告だなと、小真希も
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