第133話 護衛騎士 バルト・ユミナルと、専属侍女 スーザン・ユミナルの場合

 護衛騎士バルト・ユミナルの場合。


 俺はサザンテイル辺境伯領で、御大辺境伯の警護を務めていた。

 田舎と呼ばれる雪深い土地だが、御大辺境伯のおおざっぱ……もとい、おおらかさが領民に感染……影響を与えて、概ねサバサバした土地柄だと思う。


 積雪の厄介な時期に、開拓村で大掛かりな討伐があったと、辺境の一領地から、報告の使者が来た。

 御大の五番目の嬢さん。末姫シンシアさんが輿入れした、モルター領だ。


 賊は国を跨いでの賞金首で、御大には国王陛下からお褒めの言葉があったらしい。めでたい。


 そんなこんなで上の方は忙しく動いていたが、雪解け近い頃に辺境伯家家宰様アルバン・クライスが、開拓村へ派遣された。

 サザンテイル家の一切を管理する筋肉派のおっさ……財務管理筆頭が、派閥の一領地へ出向くなんて、滅多にない事だ。


 一月足らずで帰ってきた家宰アルバン様は、敷地の端にあるボロ屋敷へ平民の少女を押し込め、俺と妹に世話を命じた。

 どうやら俺に、専属護衛の仕事を振ってくれるようだ。


 食料運搬の仕事は寒さが半端なかったし、専属侍女に指名された俺の妹の機嫌を取るのも、難儀なお勤めになった。

 春になれば王都へ赴任できるから、内心はホクホクだったが。。


 コマキィ嬢さんは、シンプソン伯爵家へ養女に入る。

 俺と妹は、嬢さんが学院生の間だけ専属を務めたら、嬢さんの卒院と共に任務を終えて、辺境伯領へ帰るようにと命を受けた。


 嬢さんが学院生の間だけ、シンプソン伯爵家へ出向する形だった。

 よく分からんが、コマキィ嬢さんに剣術を指南せよとも言われている。

 なんで伯爵令嬢に剣術? とは思わんでもないが、家宰おっさんの命令には従わんとな。


 一介の騎士に理由わけは分からんが、命令だ。まずは素振り百本でもやらせとくか。。


 かなりできると聞いてたが、眉唾だしな。まぁ、死なないように鍛えるが、こんな細っこい子供には、無理だろうなぁ。

 気の毒に、なんでうちの家宰おっさんに目を付けられたんだか。。


 三日は経ったが、毎日素振りばっかりさせてる。なんて、シンプソン家の使用人にチクられるのは、まずいか。

 よし、今日から打ち込みでもさせるかぁ。


 退屈してた? は? 実践と聞いて、キラキラし出したぞ? ええ⁉︎

 いや、なんだよ。剣を持つ姿が、めちゃくちゃ様になってるんだが⁈

 は、早ぁっ。ぐっ、堪える。


「嘘だろ⁉︎ なんだよ、くっそ重てぇ! こんなの、受け切れるかよっ! 化け物か‼︎ 」


 めっちゃ痛ぇ‼︎ 数回剣を打ち合っただけで、手首、折れた⁉︎ なんだよ、子供に俺が負けるって⁇

 いてぇぇぇ。。ほんと、折れてる。


「ごめんなさい。すぐ直します! 」


 慌てたコマキィ嬢さんが、そっとそっと俺の折れた手首を撫で。て?

 なんだ、今度は。痛く な い?


「はぁっ⁉︎ なんで回復魔法、使えるんだよ! 」


 まさか、聖女ぉ⁈ だめだ、おっさん家宰に報告だ! 心がもたねぇっ‼︎


******

 専属侍女スーザン・ユミナルの場合。


 なんでこの子、こんなに意地悪なの⁈

 都会の子って、みんなこんなに酷いことするの⁈


 辺境伯様のところで、新参者だからって、山育ちのコマキィを押し付けられた時より、ずっと酷いやり方じゃん! 悔しい! なんで、こんな子が次期家政婦長なのっ。おかしいよ!


 田舎は大っ嫌いだったのに、帰りたい。帰りたいよぉ。。。

 なんでこんな惨めな思いしなきゃなんないの。もうやだよぉ。帰る。


 兄貴のやつ、絶対に許さないんだから。

 兄貴に嫁が来そうになったら、邪魔しまくって破談にしてやるんだから! ああもう、耐えられないよぉ  辛いよう。。

 明日も、こんな思い、しなきゃいけないのぉ?


「元気ねぇ、。感心するよ」


「わたしは、ミ・ン・ツ! 記憶力もありませんのぉ? これだから、辺境の方は。。ルイーゼお嬢様なら、こーんな、みっともない事などされませんのに。ヤダヤダ、恥ずかしいですわぁ」


、そんなに恥ずかしいなら、家政婦長に言ってあげるよ。ルイーゼさんとこに、行きたいのよね」


「ミ ン ツです! 家政婦長を盾に取るなんて、馬鹿のひとつ覚えですか。同じ事しか言えないくらい、記憶力がありませんの? 全くこれだから、は嫌なんです」


「うん。嫌われてるのに、覚えておく意味、ある? 」


「常識よね。どうして嫌われてる相手に、仲良くしてもらわなきゃなんないの。無駄で一方的な努力を、なんで、わたしがしなきゃなんないの。あんたさぁ、一緒に居るのも苦痛なんだよね? 平民の田舎者に仕えるって、あんたのプライドが折れそうなんでしょ。お互いに疲れるよね〜」


 なんか言い合ってて、あれぇ? コマキィお嬢様が、貴族様に見える。わたし、やっぱ疲れてるんだ。これ、幻覚。。


「下がって良いわ、ミンツ 」


「…… おやすみ なさいませ  」


 ずっしり落ち込んだ耳に、コマキィお嬢さまとミンツの声が聞こえていたけど、こんだけ幻覚が見えるんだから、きっとわたし、病気だわ。。

 明日から、どうすれば、虐められないのかなぁ、もう、わかんないよ。



「ん? 」


 目が覚めたら、ベッドの中だった。

 いつの間に? あ、早く起きないと、またミンツに虐められる。


 慌てて起きて、コマキィお嬢さまのお世話をする。よかった、間に合った。あれ? ミンツが来ない。


「おはようございます。突然で申し訳ございません。新しくコマキィお嬢様の専属となりました、サーラ・マーリュと申します。よろしくお願い致します」


 ノックと一緒に入って来たこの人、誰? 新しい専属侍女? って。

 サーラ さん……


「よろしくお願いしますね、スーザンさん。これからは協力して、コマキィお嬢様のお世話をさせていただきます」


 お嬢さまのお世話の仕方を、率先して見せてくれる。

 わたしがお世話する番には、身体を動かして見せてくれながら、手も添えて誘導してくれる。


 なんで? なんでこんなに優しいんだろ。上手くできた時なんか、後でいっぱい褒めてくれる。


 ちゃんとやって見せてくれるから、すごく分かる。

 なんだ、簡単じゃない。これならわたしでもできるよ。


 え? 午後のお茶で残ったお菓子 くれるの? 美味しいよぉ。

 好きー サーラさんー 大好きぃ〜。

 こんな優しいお姉さん、兄貴の嫁に来ないかなぁ。あ、でも意地悪兄貴なんかには、もったいないかもー。


 ふふふ。王都のお屋敷も、いいな。

 ずっとこのお屋敷に、居たいかも。ううん、ここが良いわぁ。

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