第119話 とりあえず、掃除しよう
最悪な気持ちで、小真希は
「ん あれ? 」
『簡易鑑定の常時発動を再開しました』
「ほへ? 」
そう言えば、いつの間にか見えなくなっていた
今
(この人、微妙? )
『マスターへ向ける威圧、殺気、不快指数を総合し、平均値を色別で表示しています。悪意察知を中心に、魔力探知、鑑定などの
「なるほど? 」
「何か、質問かね? 」
取り説との受け答えが、知らぬ間に口から零れていた。
受ける厳つい印象とは違い、小真希に対する悪意は少ないと分かって、急に大胆になる。
「ちょっと聞きたいんですが、わたしって、犯罪者ですか。召喚って言う誘拐に遭ったのに、罪人扱いされてますよね。 最悪」
上から目線で笑っていた顔が、慌て出す。もう、面白いほどに。。
「なっ いや、そんな事は。犯罪者などと、我は思ってもいないが。貴殿の被害妄想であろう」
黄色みを帯びたオレンジが、赤さを増した。
目の前の顔は笑っているのに、腹の底は怒っているなんて、随分と器用だ。
「同じ質問を繰り返すのは、罪人への拷問。真実を知りたいんじゃなくて、心を折りたいやり方では? いっそ、奴隷にしたいとか? 」
奴隷発言に、
困惑する表情と共に、どんどん緑へ変わっていく。
「とんでもないっ。何故そう思われたかは知らないが、誤解だ。確かに犯罪奴隷や借金奴隷はいるが、貴殿を奴隷にするつもりなど、さらさら無い。無実の者を奴隷にすれば、我れが重罪に問われる。ただ、主人に正確な情報を伝えねばと、性急だったのは否めない。申し訳なかった」
最初の印象通り、冗談の効かない生真面目な顔が表面に出て、頭上三角は緑色で安定した。
「なら、同じ質問は無し。これ以上続けたら、頭が爆発して暴れます」
「むっ 」
昼の休憩まで続いた気まずい沈黙は、午後の行軍から騎乗した
初めはホッとして、清々しく揺れていた馬車の中。だんだんとやらかしたかもしれない不安に落ち込むも、後の祭りだった。
「言い過ぎたかな……おぉぅ ソアラに叱られる案件 」
目を三角にして腕を組むソアラが、脳内で鼻息を吐いた。
反省しつつも粛々と馬車は進み、少々日数を要して辺境領へ到着した。
領主への挨拶は未定で、それまでここで待機だと言い渡される。
「主人の都合がつき次第、面会の場を設ける。それまでは、この宮で過ごすように。しばらくは宮の内から出さないよう、通達されている」
少々威圧のこもった注意事項に、微笑むしかない。出歩かずに大人しくしておけ、と言う意味だろう。
ちなみにこの騎士、基本的に黄緑三角だった。
無言で渡された鍵を小真希が受け取ると、ニコリともせずに領城へ帰って行った。
馬車を見送り、人影のない玄関で佇む。
二階建ての小さな屋敷は、雪の積もる野原の真ん中に、ポツンと建っていた。
傷みの目立つ汚れた外壁に、所々めくれた玄関扉は、元の色が分からないくらい老朽化してる。
「 幽霊屋敷でないなら、まぁ、いいか 」
『
的確な取り説の解説に、頷く小真希。立っていても冷えるだけで、出迎えは無さそうだ。
「お宅訪問〜 なんちゃって 」
軋む鍵を回して重厚な扉を開ける。外は晴天の冬空で、鎧戸を締め切った室内は、薄暗い上に湿気てカビ臭い。
一歩踏み出した
「うわぁぁぁぁ……さ・い・あ・く・ぅ? 」
ポツポツと足形を残して、階段下の正面扉まで歩く。
両脇から中央へ向けて登る階段は、どこぞの宮殿に似ていた。
上部が円形の両開き扉は、なぜか片方しか動かない。その上全開しないで、細い隙間分だけ動いて止まる。
エリンの身体は細いから良いが、これが小真希のままだったら。。
入り込んだ先は幅広い廊下で、左の扉を開けば居間らしき部屋。廊下を挟んで右扉に、石畳の厨房を見つけた。
厨房の隣りに、結構な広さの部屋がある。中には大きな寝台がひとつだけあり、半開きの金庫らしき分厚い扉が奥に見える。
「広いキッチンと、執事の部屋かな。あの金庫って、
陽の高いうちに風を通そうと、手当たり次第に窓を開けてゆく。
一階は暖炉のある居間と
大部屋の両壁に、狭いベッドの枠が三台ずつ並んでいた。
「とりあえず台所と執事の部屋くらい、住めるようにしたいわ。あ、トイレとお風呂も」
『了解です。厨房、執事部屋、化粧室、浴場の整備を始めます。マスター、移動してください』
開拓地の道路整備をした時と同じで、ゆっくり歩く小真希に合わせて、部屋が修復してゆく。
ただし、新しくなった形跡は無い。古いままで、手入れがされた古民家風洋館な仕上がりだ。
厨房の隅にある裏口から
幸い差掛け屋根は健在で、薪は乾いている。
「んーーー。落ち着いた」
崩れ始めた天候に戸締りをし、調理用の窯に火を入れ、少し緩まった室内にホッとする。
一階の居間や二階は、面倒臭いのでそのまま放置した。
綺麗になった執事部屋の寝台に、
『マスター。接近する馬車を探知しました』
「わかった〜 ありがと」
スッキリ綺麗になった
『ソアラさんに叱られないよう、ほどほどに』
「う はぃ」
今度はやらかさないように、気をつけよう。
正面玄関を開けて、小真希は大型の馬車が近づくのを眺めた。
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