第118話 プッツン!
目が眩むほどの煌めきが収まって小真希が顔を上げると、腕組みした
「ひぇ〜 こわっ 」
思わず椅子の上で、身体が固まる。転げ落ちなくて良かった。
「いま一度、問う。エリン ではないコマキィは、教会に召喚された者。
小真希は固まったまま仰け反り返って、細かく頷く。
(地雷踏んだぉ⁉︎ ころ 殺しゃれるのー⁈ )
怖くてポロリと零れた涙が、速攻で
「なんという事を。議会にもかけず、我々の了承も得ず、教会の独断で、勇者召喚を行ったのか。教会は王の意向を、完全に無視したのかっ! 」
何に怒っているのか分からない小真希は、怯えて縮こまった。もう、漏れてはいけない乙女の恥じらいが、決壊しそう。。
しばらく独り言を言い続けていた
「コマキィ 。いや貴殿は、召喚された勇者殿か? 」
「ひゃい……」
何やら
「しょ 召喚に巻き込まれた……けど、たぶん勇者じゃないです。一緒に召喚されたせんぱぃ 男の人と女の人が、勇者だと思いますけど……」
「けど? 何か? 」
小真希はダンジョンの四十階層を思い出していた。
「ダンジョンに潜っている時、勇者の人を見かけたんですが。嫌な感じの騎士みたいな人たちと一緒に居て、奴隷みたいに扱われていて。嫌な騎士みたいな人が、どっかの国の人を殺してこいだとか、新しく召喚した勇者がすごいから、お前たちは要らないとか。聞こえました」
小真希から視線を外した
それからの沈黙が居た堪れなくて、
なんとかしてぇ!
使者の人は目を剥いて仰け反ると、高速で首を横に振った。
当てにはならないようだ。。
「一度ならずも、二度も勇者を召喚しただと? 許せん」
長い沈黙の末。
「
「ええっ! うそ〜」
「いや、誠だ。それにコマキィ殿の話は、内密に。他に漏れて危害を受けるのは、貴殿の仲間だと心得て貰おう」
どこまでも厳格真面目な、
方針が決まれば、行動は迅速だ。
開拓地で野営一泊。翌日には身の回りの荷物と共に、開拓民全員の移動が始まる。
領主街へ行く時に改装した馬車へ乗り込んで、除雪する工兵隊の後を進んで行く。
馬車内は、雪道と思えない快適具合だ。
「何が何だか分からないけど、コマキィの疑いが晴れて、良かったわ。一時はどうなるか、気が気じゃなかったもの」
もふもふの毛皮絨毯に、ふかふかのクッション。ソアラの機嫌はとっても良好だ。
「ほんと、心配したわ」
ソアラの隣りでレダも寛いでいる。
乗員が十人で、ものすごく窮屈だが、一晩くらい座って寝ても、雪中行軍するよりマシだ。
本当のところ、全員を纏めたのは、逃亡防止の処置だと思う。
御者も辺境伯家の騎士だし。。
粛々と行軍し、休憩場で一泊する。翌日の昼過ぎには、ミトナイ村へ到着した。
ここから
工兵隊の三部隊を動員し、翌日の早朝に辺境伯領への行軍が始まった。
勿論。小真希以外の同行は許されず、ひとりで連行……護送? される事を拒否できない。
「いい事? 何かあったら、逃げなさい。あんたならできる」
迎えの馬車に乗る前、ソアラが耳元で囁いた。
出発するまでの間、ずっと
「もうね、目を離した隙にやらかしそうで、心配よぉ」
ソアラの妄想の中では、小真希がやらかすのは確定事項みたいだ。。
ごめん、おかん(仮)。でも、他の心配はないの⁇ 。
「 あー 行ってきます。やらかさないように、気を付ける 」
馬車に乗り込んで扉が閉まると、訳もなく緊張してきた。いや、訳はあるのだが、誰にも言えない訳で気持ちが重たい。
「一言言っておくが、我が
対面して座った
それって、貴族として高貴な人には高潔でも、平民に対しては傲慢かも知れないじゃん。とは、口にできない小真希。
「貴殿の身の安全は、このアルバン・クライスが保証する」
「 はい。ありがとう ございます」
チラチラと、雰囲気で感じる上から目線。たぶん平民以下の小真希を本気で守ろうなんて、サービストークにしか思えない。
モルター子爵領の領主街まで二日。そこからサザンテイル辺境伯領まで、十日はかかる見込み。
雪道でなかったら、半分の日程で行けるらしい。
(ずっと、この人とふたりっきりって、なんの拷問よーぉー)
小真希の胸中は、限界を越えそうなほど沈み込んだ。
その日から、馬車内で繰り返される身元調査。
毎日果てしなく繰り返される、同じ質問。質問。質問。。。
小真希の話に齟齬はないか。どこがに嘘はないか。心眼石に指を触れて答えていく。
これ、犯罪者に対する、拷問じゃね? 。。
「勇者召喚が真実であるなら、是非にも疑惑を晴らし、御身の潔白を証明する為にも、協力をお願いする」
取ってつけたごもっともな言い分を、そっちの都合が良いように、正当化してんじゃね? 。。
積もり積もった苛立ちとマイナス思考。
頭の中で、ブチブチと堪忍袋の緒が千切れ。。
『マスターの精神が限界値に達した為、
小真希の中で、何かがプッツンする寸前。
取り説のアナウンスが、頭の中で響き渡った。
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