第116話 話し合おうよ

 地下道までの道を造りに、除雪で出ていたホアンたちが帰ってくる。結構なドカ雪は、わずかの間に高台を埋め尽くしていた。

 一刻も早くレオンを帰すのに、村長と女子以外は、総出で雪掻きに駆り出され。。


「お疲れ様」


 身体が温まる香辛料の効いた薬草茶を、ソアラが用意して配る。ついでにもらった小真希は、生姜の効いた辛味にチョロリと舌を出した。


「ヒィってなるぅ」


「おー、お子ちゃま舌」


 テーブルを囲んだ面々が、ちょっと呆れてリムから目を逸らす。

 無意識で余計な煽りを言うリムの脇腹に、ウェドの肘鉄が的中した。


「これから起こり得るとすれば、報奨で頂く開拓地の、変更かの」


 目線を下げて話し出した村長に、小真希だけが驚いている。

 愛着のあるが、別の場所と交換なんて。。


「塩が絡むなら当然ですね。どこまで我々に配慮してくれるのか、難しいと思います。ミトナイ村に戸籍のある皆さんや、この国に戸籍のあるコマキィなら優遇もあるでしょうが、我々四人は流れ者ですし……事によれば、簡単に排除の対象になるでしょう」


 両手で木のカップを包み、ホアンが怖いことを言い出した。


「前々から思っていたが、お前さんたちが本当に欲しいのは、開拓地かの? もしも、土地にこだわる必要がないなら、欲しいものを願えば良いと思うが 」


 本当に欲しいものと、小真希も、ふと思う。一番最初に欲しかったのは、なんだったかと。。


 召喚されて、酷いやり方で捨てられて。もう帰れないなら、エリンの代わりに、穏やかな暮らしをしたいと願った。


 手っ取り早くダンジョンで稼ごうとすれば、開拓民の登録が必要で、とんでもない冒険者ギルドで、ぼったくられて。それでも、開拓するのが楽しくなって、なんやかんやしているうちに、離れがたい仲間ができた。


『なおぉぉぉん 』


 膝に飛び上がった黒竜猫オプトが、二の腕に頭突きしてくる。

 ポワポワの毛を指で梳いて、気持ちを落ち着けた。


 絶対にで無くては嫌だ、とは思えない。できればもっとダンジョンに近くて、みんなと離れ離れにならない場所が良い。

 開拓地とかは別に要らない。


 ケイロンやマリウスは、農地がいいだろうけど。。


「わたし、みんなと一緒がいい。ここで無くても、いっぱい土地が無くても、みんなと一緒がいい  」


 気づいたら、小真希の口から思いが溢れ出していた。


「コマキィは、こう言っとるが、皆はどうかの。わしとレダはミトナイ村に帰る。これは決定じゃが」


「俺は、ケイロンと一緒がいい。みんなと一緒の方が、おもしれぇが。どうしてもここじゃなきゃ嫌だって、わけでもねぇし。畑は欲しいぞ」


「俺も、マリウスと組みたいかなぁ。気心知れてるし。でも、このメンバーで居たいとは思うよ。耕せる土地があれば、ありがたい」


 マリウスとケイロンも、この開拓地にこだわりはないようだ。


「わたしは、コマキィと一緒がいいな。だって、放っておいたら何か仕出かしそうで、すっごい心配。村で錬金薬局の店を再開してもいいし。もちろん、コマキィも一緒に住もう」


 ソアラの誘いに、ちょっと半泣きになりそうな小真希だ。


「我々は……話し合ってみます。もしも無条件で戸籍を頂けるなら、嬉しいのですが……開拓地を失ったら、流民には難しい願いでしょう」


「そうか。よぉく考えるがええ」


 村長に頭を下げるホアンたち。

 何を相談するのか小真希には分からない。が、離れ離れは嫌だと思う。リムは腹立つし、ミズリィは……腹立つし。でも。。


「じゃぁ、お昼にしましょう。せっかく雪掻きしたのだから、クヨクヨしてないで、ダンジョンに潜ってくれば? 夕飯は、熱々のご飯を用意しておくから。ね」


 ぱんぱんと手を鳴らしたソアラに追い立てられて、塞ぎ込みそうな空気が霧散する。


「そうですね。行きましょうか、みんな」


******

 スタンが帰って数週間が過ぎた昼。

 極寒の時期を過ぎて、埋もれるほど雪は降らなくなった日に、モルター子爵の使者と、すごくを連れて、厳しい表情のレオンがやって来た。


 使者のお供はモルター領の工兵隊で、お揃いの革鎧を身に付けたお守り騎士隊は、のお供だ。

 どうやら麓を巡る街道を工兵隊が除雪し、わざわざ北開拓地の山道を上がって来たらしい。


 レオンは自由に結界へ入れるし、暇人な精霊がを教えてくれた為、高台の家から下の洞窟住居に移っていた。

 ちなみに黒竜猫オプトは今、精霊とお散歩だ。


「北開拓地の、開拓団代表のホアンです。何もございませんが、熱いお茶をご用意しています」


 キラキラ筋肉貴族とモルター子爵の使者を、ホアンが先に立って案内する。レーンを泊めた客室は独立していて、と繋がっていない。

 現地の状態は、すでにバレバレだろうが、こちらから手の内を晒す必要は無い。


「ホアンとやら。先の討伐に直接加わった者全員を、同行させよ」


 使者の要望で、ホアン以下の面々と小真希が同行する。

 お供の兵士は、鍛治小屋と馬小屋の周りに天幕を設営し始めた。

 何だか殺気すら籠った雰囲気が、怖い。

 お泊まり部屋に入ると同時に、騎士ふたりが入り口を塞いだ。


「さて、こちらはサザンテイル辺境伯家の家宰。アルバン・クライス様だ。今回、辺境伯閣下の代理で来られた」


 やっぱり目の前に立ったキラキラの貴族は、見かけ通り身分の高い貴族だった。


「小娘。お前がコマキィだな。どこから放たれた密偵だ? 痛い目に遭わぬうちに、白状せよ」


「  へ? 」


 突然後ろから羽交い締められ、小真希の頭が真っ白になった。

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