第114話 いつの間に、村長?

 食事が終わって、小真希も暖炉の前に移動した。

 黒竜猫オプトはソアラの膝に乗って、シプレン羊型巻毛種・もこもこタイプ干物ジャーキーをもらっている。

 美味い物好きは、仮親小真希にそっくりだ。


 テーブルでは村長とレオンが、村の今後を話し合っている。

 ソアラやレダも交え、ホアンも開拓地のこれからを話し会おうと、皆で暖炉前に腰を据えたのだが、結局は村長たちの話し合いに耳が持って行かれた。


「村に帰らねばな。それにしても、神官が民を捨てるとは。まぁ、元から生臭なまぐさな神職じゃったが」


 レオンからミトナイ村の神官が失踪していると聞いても、村長ミトナイは驚かなかった。

 普段の行いもよろしくない。酒と女が大好物な神官だったと苦笑した。

 

「村の男衆が正気に返るまで、どれほどかかるかの」


 今のミトナイ村には、女子供と高齢者しかいない。ただ、雪に閉ざされ、孤立していた山の南側の集落が、ダーレンの悪巧みに巻き込まれず、無事だったのは幸いだ。


「しばらくは領主様が兵を派遣してくださるし、王都の「鉄槌」も村の復興に尽力してくれる。探索者ギルドからも、ダンジョンの物資食料を供出しよう。まぁ、冒険者ギルドのスタンが張り切っているから、そうそう悪い状況ではないさ」


 領主から改めて妻子の無事を聞き、スタンは復活した。会えるのは雪解けの後だが、最大の脅威ダーレンは去った。

 ミトナイ村の冒険者ギルドに在籍するのはギルマスのスタンのみだが、今は「鉄槌」のメンバーが拠点を置いている。


「あー、言い忘れていた。この度の報奨で、「鉄槌」は北開拓地の入り口付近の地所を、分けてもらえないか聞いてくれと言ってたな。それほど広い土地はいらないそうだが、どうだろう」


 散々世話になった相手鉄槌だし、頼りになるし、構わないと、満場一致で受け入れた。

 案外と、門番代わりになってくれそうだし。皆んなの思いは一致した。


「雪解けが待ちどうしいの 」


 しみじみ呟く村長に、レオンは無言で肩を竦めた。

 を通っても、素人が越えるには難しい道程だ。

 ダンジョンの二十階層越えは、初めから不可能だし、もちろん、樹海の小屋を抜ける道も、すでに雪で埋まっている。


「まぁ、村長が帰ってくるまで、俺とスタンがなんとかする」


 領主の差配で一部隊が駐屯し、村の生活を維持しながら、本格的にダンジョンの探索を進めるらしい。

 目的は、四十階層の完全回復薬神酒ソーマ若返り薬アムリタだ。


「ミトナイ村は、ダンジョン都市として発展させると、領主様が言っていた。まずは町造りだそうだ。せいぜい頑張ってくれ、村長。いや、町長」


 急速な発展計画に、開いた口が塞がらない村長ミトナイの肩を、レオンは軽く叩いて帰って行った。


 重装備なので、地下道から二十階層を通って帰るつもりだろう。

 元最高ランクの冒険者だったレオンにとって、日頃のストレス発散に、ちょうど良いのかもしれない。


「では、北開拓地の開拓計画を話し合いましょうか」


 場所が空いたテーブルに座り直し、ホアンが口火を切った。

 春までには充分時間はあるが、計画を立てておけば後々楽になる。


「わたしは、父とミトナイ村に帰るわ。父の補佐をしたいの」


 村長と並んで座るレダが、キッパリと言った。

 持ち直したとは言え、老齢の村長が村を立て直すには心許ない。娘が側に居るだけでも、精神的に随分と違うだろう。


「でも、たまにはここ北開拓地に来ても良いわよね? 」


 辛い経験を共にした仲だ。音信不通は堪える。


「そうね。レダの部屋は、そのままにしておく。わたしはここに残るわよ。コマキィをひとりにしたら、何をしでかすか心配だもの」


 ソアラの発言に、反対は出ない。

 小真希も反対ではないが、自分から率先して気は無いので、ちょっとモヤモヤした。


「俺らも、ここに残る。いろいろしたい事あるし、おもしれぇし」


 マリウスの横で、ケイロンも頷いている。

 三男以下のふたりは、いずれミトナイ村から出て、探索者なり他の職なりに着くかして独立する。

 先で決めるより、ここで土地を開拓して自立する方が良い。


「村長。成人の証明をください」


 やる気のケイロンに、村長が頷く。


「良いとも。すぐに証明書を作ろう。北開拓地全般は領主様から下賜された土地じゃから、権利はここにいる者たち全員じゃろ。地所の割り振りは、話し合って決めると良い。自治を認めてくださったのじゃから、文句はおっしゃるまい」


 報奨の確約で決められた期間内に開拓した土地は、個人の地所になる。あまり欲張っても後々の税で困るだろうが、その時はその時だ。


「北開拓地の開拓団の代表は、わたしホアンですが、正式な地権所有者はコマキィです。道を切り開いて造成したのはコマキィですし、この国の戸籍を持っているのもコマキィですから」


「ほぇ? 」


 ホアンに言われて惚ける小真希は、理解していない様子だ。


「そうよねぇ。ミトナイ村がダンジョン都市になるなら、ミトナイの出身者は、ここの地権を持たない方がいいわ」


 ソアラの言っている意味が、理解できない小真希。疑問符が、頭の上を旋回している。


「北開拓地の所有者が、と同じ村の住民なら、統合とか併合とか都合の良い言葉を並べて、吸収占有しようとするかもね……まぁ、有るか無いかわからないけど、用心するに越した事はないって言うことよ」


(取らぬ狸の皮算用? 絵に描いた餅? 棚からぼたもち? で、合ってるのかな。要するに、横取り する される? )


 ちょっとばかりズレているような、いないような、小真希の感想だ。 


「それに、北開拓地の他国よそ者だとしたら、後々面倒くさい言いがかりをかけてくるかもしれないし。わたしたちミトナイ村出身以外で、バードック神星王国の戸籍を持っているのって、コマキィだけでしょ? しっかりね。


「え〜〜〜 面倒くさそう  」


 どんなにゴネても、こればっかりは決定事項だったようだ。

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