第84話 丸投げ〜

 精霊と逆境を生き抜く処世術オマケに、盛大なため息をもらって、小真希は首を傾げる。

 ふたり? の言いなりになって動いたのだから、最後まで面倒は見てほしい。


『……分かりました。いぇ、こういう主人あるじだったのは、分かってたつもりでしたよ、


(果てしなく疲れたイメージを、頭に送るのは、やめて? なんだか知らないけど、悪かったわよ)


『なんだか知らんのかい! はぁぁ。ワシでも、コレオマケの苦労が身に染みるわ。不憫なオマケじゃの』


 混ぜっ返す精霊を、スルッと無視する小真希。いつもの事だ。


『ではマスター。この男を、宿まで連れて帰りましょう。あとはに任せてしまえば良いのです。そうしましょう』


(まさかの丸投げっ? )


 何らかの方法をもらえると思っていた小真希は、上げそうになった声を噛み砕いた。


『適材適所とも言いますので』


 最初っから言いなりに動くつもりだった小真希に負けず、はしれっと言い切った。

 どう考えても、行き当たりばったりな気がする。


「やっぱり、どうにもならんだろう。良いんだお嬢さん。これは大人の、私の問題だからね。だが、聞いてくれてありがとうね」


 黙りこくって百面相する小真希に、アルノールは薄く笑った。もう何もかも諦めた表情をしている。

 あれこれと話した時間は、思ったよりも長かった。


「私はずっと見張られているのだよ。今更だが、関わればお嬢さんもろくな目に遭わない。早く私から離れて、お家に帰りなさい」


 時刻を報せる聖教会の鐘が鳴った。それで現実に戻ったのか、気弱で人の良さそうな弱々しい笑みを浮かべる。


(あ、これは無い。見過ごしたら、後悔するヤツパターンやん)


 やっぱり放って置けない。ムックリと反抗心が湧き起こる。

「ふふん」と、向こう見ずな高揚感が、不適な笑いになった。


「大丈夫よ、おじさん。人生諦めないで、チャンスは強引にとっ捕まえればいいのよ。だって、幸運の女神様には、前髪しかないんだもん! 躊躇ったら負け。何でも良いからガッツリ掴んで、後の事は、後でじっくり考えればいい。と言うわけで、さっさと行きましょ」


「はぁ? 」


 ほらほらと手を引き、小真希は歩き出した。


『認識阻害。気配遮断。不可侵結界を張りました。幻影を発動。うろつくドブネ……不審者を、誘導します。ぅふっ』


(はは、 ありがと)


 この頃とみに、人間臭くなってきた逆境を生き抜く処世術サバイバルのオマケ。


『くくくっ、面白そうになってきたわい。ワシも参加してやらなくもなぃぞ。カカカッカカ! 』


 何気に張り切り出した闇の精霊。悪霊にならなければ良いが。。


 何年もずっとアルノールに纏わりついていた不審者は、追いかけても追いかけても追いつかない幻影に振り回されて、明日まで彷徨えば良いんだ。

 まぁ、自業自得? とも言う。うん。


 挙動不審なアルノールを強引に引っ張って。逃がさないよう身体強化でガッツリ手首を掴んで。小真希は一路、宿を目指した。

 

「任せなさい。に! 」


 頼りになるのか、ならないのか、アルノールには納得し難いセリフだろう。


「や、やはり、悪魔の 囁き だったのか? 」


 及び腰で引きずられながら、アルノールは今囚われている絶望より、もっと深い絶望の淵を覗き込んだように青ざめていた。


 時間はかかったが、歩いた距離は長くない。

 懺悔じみた独り言を呟くアルノールが、もっとさっさと歩いてくれたなら、あっと言う間の距離だ。


「ここよ、おじさん」


 ものすごく良い笑顔を浮かべた小真希は、容赦無く、酷い顔色のアルノールを引っ張り込む。

 受付カウンターの前で、仁王立ちするホアン以下ミズリィ・ウェド・リムと目が合うまでは、確かに良い笑顔だった。


「おまえは。外出するなと言われたの、覚えてねぇな 」


「心配し過ぎて、腹が立ってきたのは、なぜだと思います? 」


「いくらでも、大胆じゃない? 」


「謝るなら今のうちだよ、コマキィ」


 それぞれが真面まともな言葉だけに、反論は無い。


「あー ごめん。でもさ、領主代行を連れてきたから、話しを聞いてあげてほしいの。一挙に解決しそうだなって……ね? 」


 かわい子アピールで、あざとく上目遣いしてみる。


「あ゛? 」


 代表して声を上げたミズリィに、頷くみんな。これって、ひどくないだろうか。。


「あ ぁの……申し訳ありません。私は失礼しますので」


 ミズリィに怯んで逃げ腰になるアルノールの腕を、小真希はガッツリと抱き抱えた。


「この人、本物の領主代行だから。ね、話し聞いたげて。ね? 」


 宿のロビーは目立つ。

 仕方がないと言った様子で、顎で来いと示すミズリィ。と、仲間たち。

 ため息しか落とさないアルノールを強引に引きずって、小真希は階段を登った。

 

「んで? あんたは何者なにもんだ」


 案内された角部屋に入った途端、ミズリィが凄んだ。

 小真希は綺麗に整えられた部屋を、珍しそうに眺めている。ここはウェドとリムの部屋で、他の部屋より大きく、ソファーとテーブルがあった。


「待ちなさい、ミズリィ。この方が何者でも、失礼ですよ」


 止めたホアンがソファーを勧め、付属の椅子を対面に置く。

 ミズリィはホアンの後ろで、護衛のように直立した。

 ウェドとリムは、少し離れたベッドに腰掛ける。


「コマキィは、その方を連れてきたのですから、そちらに」


「ぅ はい」


 少し隙間を空けて、アルノールの隣りに腰掛ける。なんだか説教される雰囲気で、少々落ち込んだ。


「挨拶もしないのは、失礼に当たりますね。この場の代表者として、ご挨拶いたします。ミトナイ村の冒険者、ホアンと申します。我々は、冤罪で追放された者です。あなたが本当に領主代行なら、嘆願したい旨がございます」


 ミトナイ村と聞いて身を竦ませたアルノールは、思わずといった反応で小真希とホアンに視線を彷徨わせた。

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