第77話 何がどうなってるのかな?
三方を壁に囲まれた廃墟は、瓦礫やら投げ入れたゴミやらに囲まれていた。
まばらに残った屋根もすぐに崩れそうだが、頭上に無いので問題ない。はず。。
(でもねぇ……くっさい。真冬なのに、ゴミが臭っ)
フリーズ状態のはずが、とても臭う。
文句を言いかけた小真希の口を塞いで、人差し指を立てたホアンは、静かにしろと眉を寄せた。
「聞こえますか? 」
ちょっとドギマギするんですけど。。
大きくもない亀裂は、かなり深かった。そこから微かに、声らしき音が聞こえる。
「うん。声だね」
「もう少し
斜めに入った亀裂の底が薄っすらと明るく、時折チラチラと影になった。まるで壁の向こう側で、誰かが動いているように。
「暗くなれば、もっと見えるようにしておく? 」
このくらいチョチョイと【
頷くホアンに黒い笑みを返し、小真希の指が亀裂の底を撫でた。
(ついでに細工しよう。向こう側は変化なしで、隙間をちょっとばかり広げて、こっち側を透明化っと……うっし。わたしってば、いい仕事するぅ)
さっきから漏れ聞こえていた声は、弱々しい子供の泣き声だった。
「やかましいっ。黙らせろ! 」
酒焼けした喚き声に、跳ね上がる子供の悲鳴。
ミトナイ村の冒険者ギルドで聞いたかもしれない濁声に、小真希の眉間が寄った。
壁にぶち当たった何かが割れ、濃厚な酒の匂いが漂ってくる。
「やめてください。お願いしますっ」
絞り出す女性の悲鳴が、震えていた。
黙ったまま立ち上がり、目元を歪めた小真希は、への字に結んでいた口を開く。
「ねぇ、潰して良い? 今すぐ」
「いやいや ちょっと待って ね? 」
丁寧語が崩れたホアンの襟首を、小真希は締め上げた。そのまま耳元に口を寄せ、一語一句を区切って、なおかつ唸り声を上げる。
「か弱い、女性を、見捨てる、のっ。ぁあ゛? 」
背中に龍を背負ってそうな勢いで、目から光線は出ないけど、眼光は鋭い。
瞬間的に仰け反ったホアンが息を吐き、小さく首を振った。
「分かりました。分かりましたとも。もう、好きにしてください」
「よし」
清々しい顔を上げ、壁をぶち破ろうと小真希が拳を固めた瞬間。向こう側で何か不穏な音がした。
ガッとか、グジャとかが、最適な表現の。音だけで痛いやつ。。
「バカなの? ぁあ、バカよね。待てもできない駄犬どもがっ」
可愛らしい声にしては、言ってる内容が過激だ。
壁の亀裂からこっそり覗いた正面に、開け放った扉が見え、ついでに顎をそっくり返した女も視界に入る。
(あれぇ? さっき出て行った よね? )
壁に挟まれ、ホアンの脇の下から見た女だ。
覗き込む小真希の頭に顎を乗せ、覆い被さる格好のホアンも、隙間の向こうを覗いて固まっている。
かろうじて見える床に悶絶する男。扉脇の壁にビッタリ張り付いたもう一人は、目も口もパカリと開いている。
「お前たち、今すぐ出て行けっ! 逆らったら、分かっているよね」
腕組みした女の横を、悶絶していた男が這いずって行く。当分のあいだ、真っ直ぐに身体を起こすのは無理みたい。
壁に張り付いていた男が、ふたり分の荷物を抱えて逃げ出した。
「二度と来んな。馬鹿野郎! 」
思いっきり扉を閉めた女が、吐き捨てた。
壁一枚隔てたこちら側で、
「ある意味、こっちよりも、無敵だったりして」
「一度、ここを離れましょう。追い出された奴らの動きが気になります」
ホアンの合図で、そっと瓦礫の間を抜けて出る。
気になる女に違和感を持つが、出鼻をくじかれた形の小真希は、おとなしく後をついて行った。
『気になるか? ぜひにとお前が頼むなら、監視してやっても良いぞ』
空中でそっくりかえる精霊に、ほんのちょっと頭が痛くなる。
お願いをされたいらしい。
「ああ、そうね。お願いしてもいい かも? 」
『なんじゃ、その頼み方は。精霊のわしを敬え んっとに。最近の人間は』
不貞腐れると面倒になるので、小真希は笑顔を貼り付ける。
「ああっと、オネガイシマス? いやぁ、親切な精霊だなぁっと」
『わし、なんだか納得しにくいが。面倒だから、まぁ 良いわ』
ぶちぶち言いながら隠れ家の壁を抜けて行く精霊に、小真希もため息を落とした。
用心して回り込んだ路地には、まだ男たちがいた。
ようやく痛みが引いたのか、マントを羽織って荷物を背負うところだ。
このまま領主街を出て行くまで、尾行する。街に残るなら、印を付けておかねば。
「おとなしく出て行けば良いな」
そこにいるだけで邪魔だなんて、
無意識に駆除したくなる小真希の頭を、ごつい手が掴み上げる。脱力した小真希をぷらぷらさせながら、涼しい顔で歩くミズリィ。
ある意味、こいつが無敵では。。
「どうやら、素直に出て行きそうですね。よほど、あの女が怖いとか」
「よく分かんないね、あの女。コマキィと、どこが違うんだろ」
どこかホッとするホアンの横を歩きながら、リムが無意識に
「リム? いつか後悔しても、知らないからね」
ウェドの指摘に、疑問符だらけのリムが首を傾げた。
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