第76話 隠れ家 発見!

 美女が濃厚で、熟成して魔女と化した超威圧マウント微笑に負け、色々と観察するはずが、尻尾を巻いて冒険者ギルドから逃げ出した面々だ。


 平常心を装っていたホアンを筆頭に、もう一度チャレンジする気力もなく、への敵情視察に切り替えた。


 宿屋の前で、出発するレーンが馬車に乗り込み、御者台から頭を下げる。それに応えて、小真希たちも軽く頭を下げた。


「次に会うのは、春だな」


 呟くミズリィに、小真希も頷いた。

 一ヶ月かけて王都まで行商するレーンは、この冬を本店で過ごす。進むごとに南へ移動するから、雪の心配は少なくなるらしい。


 強い風にフードを押さえ、小真希は首をすくめた。ついでに頭上でチョロチョロしている精霊も、視界から追い出す。


『こんな  に、  なんて……わし びっくり』


 話しかけて来たのかと精霊を見ても、あらぬ方を向いて独り言を垂れている。

 普段はものぐさで、浮かんだままゴロゴロしているのに、なんだか挙動不審だ。


「ねぇ、気になって腹立つんだけど。じっとしててくれない? 」


『ふぁっ? 理不尽言うな。我に対して、罰当たりがっ』


「ば、ばちあたりって、なんてこと言うのっ 」


 仰向いて大声を出す小真希に、訝しげな視線が集中した。コソコソと頭を寄せ合う通行人に、お子様たちウェドとリムが他人の顔をする。


「……ふっ。でかい独り言だなぁ、おい」


 精霊が居ると察しているのに、ミズリィの突っ込みは鋭い。

 可哀想な子を見るような、警戒するような周りの目に気づいて、小真希は沸騰しそうな顔を俯けた。


「……行きますよ」


 笑いを堪えたホアンの声がけで、移動を始める。

 あらかじめ頭に入れていた道順通り足を運び、細い路地が増えてきた辺りで、正面に問題の隠れ屋を発見。すぐ二手に分かれた。

 ミズリィとウェド。ホアンとリム。小真希はミズリィに首根っこを掴まれて、路地とも言えない隙間に押し込まれる。


「美少女誘拐かっ」


「……ふぅ」


 一応は抗議したが、返事の無いミズリィのリアクションが、いたたまれない。


「今度は子ども扱い? もぉ」


 子ども扱いと言うよりも、コマキィエリンの身体は十代前半の少女だ。

 とんでもなく無敵なのだが、こればっかりは仕方がない。


 押し込まれた壁と壁の隙間で不貞腐れた小真希だが、ミズリィの脇の下から見える路地を、バッテン付きの赤三角が通り過ぎる。

 思わず息を呑む小真希に、バッテン女は気づかず通り過ぎていった。

 一瞬見えた女は、ほんの少し俯いて寒風に顔を曝け出していた。


『ほぉ、印を付けた女が、隠れ屋から出てきたな。どれどれ』


 興味津々での頭上を旋回した精霊が、にまりと口角を上げる。


『こやつ、どうも気になる。どこで見かけたのか……よし、監視してやろう。ぐふふふふふふふふ ククッ』


 さっきまでの挙動不審はどこへやら。新しい玩具を見つけた幼児の顔で、精霊は付き纏い宣言をした。


「やっぱり、変態精霊だ」


 フヨフヨと離れてゆく精霊に、冴えない悪口を投げかけて、ミズリィとウェドの背中を目で追う。

 壁の間に挟まれた小真希を忘れたように、ふたりは振り向きもしない。


「まぁね。問題ないから良いよ」


 こんな時、無敵だけれど寂しいかもしれないと、気がついて欲しかったりするのだが、天邪鬼の小真希は頬を膨らませただけで気分を変えた。


 女が出て行った目的の隠れ屋は、半壊した家に両側を挟まれている。三軒並んで、廃屋にしか見えない。それを右回りで偵察するホアンとリム。

 左側の路地を目指すウェドとミズリィを追いかけ、小真希も後を追った。


 無人に思える廃屋の中から、微かな気配がする。

 ネズミとか、そういった小さな気配ではない。


「ここら辺はスラムの取っ掛かりらしい。気にするな」


 誰かが入り込んでいても、気にする住民はいないようだ。

 眠りこけた小真希は、昨夜の話を聞いていない。

 細かな事情は知らないが、物理推奨掻っ攫う気満々なので問題はなかった。


「こっちは無理か。よし、向こうに合流するぞ」


 そのままぐるりと裏へ周り、対面から来たふたりホアンとリムと一緒に、そっと隠れ家から離れる。

 向こう隣りの廃屋にも住人がいると、ホアンは思案顔だ。


「ねぇ。気配遮断して、探ってくるよ? パパッと終わらせようよ」


 まどろっこしい事が嫌いな小真希の言い分に、ホアンが首を振る。


「よく聞いてください、コマキィ。騒ぎになったら、困るのです。彼らは誘拐や脅迫をする悪党ですが、証明できるだけの証拠がありません。もしも逆に訴えられでもしたら、私たちの方が罪を問われます」


「ぇえぇぇ。めんどいよぉ」


 気付かれない内に攫ってしまえば良いだろうと言う前に、男四人は隠れ家の裏にある廃屋へ目を向けていた。

 屋根が落ちて、野外と変わらない廃墟だ。こんな所に隠れる隙間もないだろう。


「しばらくは監視して、状況を見極めます」


「うそぉ、まじぃ? もうぉぉぉ」


 ホアンの決定に不満タラタラなのは小真希だけで、廃墟へ侵入する男どもは、心なし楽しそうな顔をしている。


「信じらんない……良いもん、勝手にするもん」


 真夜中に侵入する気満々な小真希は、自分だけ技能スキルを発動して、身の回りの空気を温めた。

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