第68話 動き出す
太い尾が
「ウェド! 」
ホアンの声が上がる。
「【
錐揉みし、放電しながら飛ぶ半透明な竜巻が、血を流す傷口に触れた途端、轟音を上げて眩く爆ぜた。
ふわりと舞った土龍の体表を、バチバチと稲妻が舐める。そのまま地面で二転三転したあと、ビクリとも動かない。
強固な鱗で物理も魔法も跳ね返す土龍でも、傷口から侵入した稲妻で、内臓をやれば倒せる。
「よし! この調子です」
次々と双剣を振るうホアン。的確にホアンの剣筋をなぞるミズリィ。
留めにウェドの【
「【
振り切った土龍の爪を避け、飛び退いたホアンの頭上へ、スライムが落下し、リムが飛ばした氷の礫に弾かれる。
「リム、すごいっ」
ワクワクしながら戦闘を見ていた小真希が、はしゃいだ歓声を上げた。
精霊と変わらないお気楽さだと、本人は気づいていない。
足元で顔を洗う
褒められても訝しい目つきのリムは、口元が緩むのを我慢しているように見える。
【
洞窟の床に溶けた土龍は、傷のない小振りの魔石と、手のひら大の鱗を残した。
今回はワンパターンの組み立てだが、状況に合わせて幾つか訓練しよう。そう言いながら、皆で
ふわふわと漂う精霊に指差され、
前足を交互に振って転がす様が遊んでいるようで、めちゃくちゃ可愛い。
「腹減った」
思い出したように、小真希のお腹もいい音を立てた。
そう言えば、昼食抜きだった。
「ぁあっ、ソアラのお弁当、食べ損ねたっ! 」
叫んだ小真希に、吹き出す男ども。。
「少し歩けば拠点です。今日は帰りましょう」
口の端をヒクヒクさせ、ちょっと笑い気味のホアンが恨めしい。
ほんと、乙女に対して失礼だよね。
乙女。。うん。
******
なんやかんや言い合いながら、二十階層で狩りをすること一ヶ月余り。
開拓地に、遅い初雪が降った。
ダンジョンでは、帰還する騎士隊との遭遇を無事に回避。
上の階に登るのを見届けた後は、穏やかな日々を過ごした。
もうそろそろ行商人のレーンが訪れるだろうと、洞窟住居に移って生活を始めている。
「
まったりお茶を楽しみながら、
マグを両手に包み込んで、熱い香草茶に頬を上気させるレダ。
暖房対策をした洞窟の中は、思った以上に快適だった。
「住みやすくなるよう、頑張ったんだよ? 」
ストーブに薪を足す小真希が、ちょっと自慢げだ。
鍛治の手を生かして作り上げた
客室のストーブは、試験的に一回だけしか点火していないが。。
村長たちが使っていた洞窟住居の奥隣りに、新しく女子用の洞窟を掘り、小真希たちは引っ越しをした。
レーンは大丈夫と思うが、外部の人が出入りするようになった時、色々と支障があるかもしれない。
基本、客用洞窟へ内部の廊下は設置しないが、もしもがあるかもしれない。転ばぬ先の杖? 的な。。
女子が使っていた洞窟に、大型のストーブと井戸を掘ったので、共有スペースらしき食堂兼居間もどきができた。ホアンたち四人の洞窟住居は、そのままだ。
一番
マリウスが造った部屋の仕切りは中々で、ストーブのある居間から個別の寝室へ、暖かい空気が循環するように工夫されていた。
ベッドと衣装棚だけの狭小部屋だが、かえって落ち着ける。
個室とは反対側の壁際にストーブを設置し、その前の床に
ごろ寝しても快適です。
ストーブに掛けた薬缶が沸いて、良い感じ。。
「思ったより暖かいわ」
すっかり元気になったレダも開拓地の環境に馴染んで、ソアラから薬学を習ったり、不得手な料理に挑戦している。
味は、まぁまぁ? 。
「はぁ〜まったりする」
ゴロゴロする小真希の側で、
『おーい、動き出したぞっ。クックックック』
お気楽精霊が誰にでも見える状態で出現し、まだ慣れないレダが悲鳴をあげる。
「なぁに? 騒がしいったら」
『いや、見張れと頼んだのはお前だろうに。まぁ良い。これを見よ』
精霊が映しだしたスクリーンに、むさ苦しい男がふたり。寒風に震えながら馬に乗っていた。
『冒険者ギルドの下っ端だ。人質にした母子の様子を見に行けと、ルイーザが怒鳴っておったわ。ククッ、
「食堂に行って、みんなで見よう」
洞窟内を繋ぐ廊下へ飛び出したレダが、村長たちの部屋の扉を叩いた。
レダより先に飛び出したソアラが、ホアンたちの
「よしよしよしっ。やってやるわぁ! 」
少々鬱憤が溜まっていたからか、今から腕が鳴る小真希だ。
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