第67話 土龍 再び

「行ったね」


『ふむ。あ奴手乗りスライムは中々良い仕事をする。これからが楽しみだのぅ クククク カッカカカ 』


 相変わらず精霊の笑い声は、悪霊化していないか? 。


「守ってくれそうで、よかった」


 見えなくなった一行に、嬉しいのか悲しいのか。複雑な思いだ。


『ふむ。闇精霊手乗りスライムを通して、監視してやっても良い。あ奴らの周りが  ククッ 面白そうだ かはははは 』


 新しい娯楽が増えたようで、何よりだ。しばらくはずっと、覗き見……監視する気と見た。


「程々にプラベートは、遠慮してねっ」


『良き良き ぐふふふ 』


『フナァァ』


 黒竜猫オプトののんびりした鳴き声が、「やれやれ」と聞こえる。

 精霊に人間の感情を理解せよなんて、無理な話だと分かってきた。

 考ええてモヤモヤするだけ、損な気がする。


「もぅ帰ろ。みんなに事情を話さなさなくっちゃ。もしも二十階層で出会ったら、面倒くさい事に巻き込まれそうだし。回避よ、回避」


 騎士隊が愚連隊だなんて、笑えない。

 どのくらいの時間で二十階層に上がって来るのか分からないが、先輩たちが無事に地上へ帰れるよう祈る。


 あれこれ堂々巡りに悩みながらも、逆境を生き抜く処世術サバイバルに助けられて、危なげなく登って行く。狭い岩の出っ張りも、軽快に伝って移動した。

 

 二十階層へ到着と同時に、【探索】でホアンたちを捉えると、湖の縁をゆっくり移動している。

 レーンが喜びそうな薬草スライムを、狩っているのかな。


「オプト。行くわよ」


 相変わらず肘枕で漂う精霊は放っておいて、走り出した。

 途中で襲ってくる槍兎や森狼は、すれ違いざまに瞬殺だ。もれなく自動回収してくれるサポートに、しっかり感謝する。


「ぁ、居た」


 狩り取った薬草スライムの核を、回収しているホアンたち。向こうも小真希に気づいて、手を止めた。


「随分と早かったですね。下はどんな具合でした? 」


 ホアンの問いに、斥候の役目も言いつかっていたと、ふと思い出す。

 転移陣の部屋の事。狭すぎる出っ張りの降り道の事などを、かいつまんで話す。

 見張りのミズリィがドロップ品を増やし、ブツブツ言いながらリムとウェドは魔石や角を回収中だ。


鉄槌王都パーティーが心配していた魔術師ふたりは、無事だったよ。使が強くて、自衛できると思うわ」


 さらに騎士隊の悪辣さを話している間に、あらかた薬草スライムの核の回収も終わった。


「そろそろ我々も撤退しよう。抜け道の土龍が、いつ復活してもおかしく無い時期だ」


 ウェドとリムが過剰攻撃オーバーキルで殲滅した土龍は、まだ復活していない。

 もしも遭遇するなら、余力があるうちに当たりたい。

 転移陣に近づいた帰り道で、小真希の【探索】に反応があった。


「くっ。退治しても退治しても、なんで減らないのっ。【殲滅】! 」


「待てっ  ぁぁ、もう」


 リムが止めるより早く広範囲魔法爆雷が炸裂し、生き残ったクローチの大移動が始まる。

 湖のあちこちで宝石魚がジャンプし、なかなかの見応えだ。


「クローチの核は、結構いい値で売れるんだ。ソアラに内緒で集めよう」


 小真希にも内緒にしてほしかった事を、さらりとウェドが零す。

 クローチGの核を根こそぎ拾い集めるまで、小真希は知らん顔を決め込んだ。

 見ただけで身震いする形など、触りたくもない。


「向こうに着いても、飛び出すなよ。いいな」


 転移陣へ入る前に、ミズリィが釘を刺してくる。

 何の事やらと首を傾げる小真希は、胡乱な目で睨まれた。


「もしかすれば、土龍が、復活してるかも知れないと、さっき、言ったよな? 」


 忘れていた小真希は、可愛らしく見えるように笑い返して誤魔化す。


「ミズリィ。きっと、復活した土龍の方がかわいそう……」


 ニヤッと目線をやれば、途中で口を噤んだリムが言葉を飲んだ。


「さ、行こうぜ」


 わざとらしく話を逸らしたリムを先頭に、一行は転移陣を抜けた。

 臭いを我慢して壁の裂け目から覗けば、復活した土龍の群れが蠢いている。


「過剰に殲滅したら、ダメだからね。ドロップ品まで粉砕しないように、上手にやってね」


 意地悪く言う小真希に、リムとウェドが落ち着きなく空咳をした。


「四十階層を目指すのです。陣形フォーメーションの訓練をしましょう」


 確か四十階層に発生ポップするのは、オーガ、サイクロプス、地龍だった。

 地龍は抜け道に出る土龍の上位種で、魔石ではなく宝石を残す。

 魔法攻撃と物理攻撃を交えて狩れば、ランダムで魔力を内包した宝石を落とすらしい。


「じゃぁ、俺からだ」


「僕も、ですよ」


「自分は三番手で」


「効率よく、魔力は使う事。考え無しの一方的な殲滅は、後々命取りになります。良いですね」


 嬉々として前へ出るリムとウェド。いそいそと続くミズリィに、冷静なホアンが釘を刺した。


「……はい」


 揃った返事に頷いたホアンが、小真希へ顔を向ける。


「わたしの指示があるまで、参加しないように。良いですか? 」


「……はい」


 逆境を生き抜く処世術サバイバルを発動すれば、一瞬で決着がつく。それではいけないと言われて、内心は納得できない。

 

「コマキィが、いらないわけでは無いのです。頼りすぎては、皆が自立できない。だから、危ない時だけ、頼らせてください」


「はい! 」


 開けた場所にいる土龍は五頭。遠巻きに散らばるスライムは、まだそれほど多くない。

 土龍に気を取られ、足元まで来たスライムに気付けないと、装備や剣を溶かされる。先に鬱陶しいスライムを片付ける作戦だ。


「【∽§◇∂∽∽∂∽§〻風結界】」


 ウェドが皆の守りを固める。


「【⁑∴※≧∽§≦≦∽※≧‖※∽≧氷棺拘束】」


 リムが短杖を土龍に向けた。

 ズンと気温が下がり、土龍の周りに立ち込めた霧が、一気に氷結して収束する。

 降り注ぐ白いモノが透明化した時、土龍の足元が凍りついていた。

 驚いた土龍は咆哮をあげて騒ぎ出すが、もう遅い。


「【‰≧≧√〻≦≦風刃】」


「【⁑∴※≧√∂‥≧氷裂】」


 細かな風の刃ウェドがスライムを裂き、氷の礫リムが土龍の鱗を掠って砕ける。

 砕けた氷の礫リムは付着し、鱗と鱗の隙間に微細な氷柱つららを伸ばして、食い込みながら地肌を裂いた。


「よしっ、行くぞ」


 走り出すホアンの両手で、魔力を帯びた双剣が光を増す。

 後を追うミズリィは、大剣ロングソードはすに構えて合図を待つ体勢だ。


「いっけぇぇ! 」


 応援しかできない小真希は、精一杯声を張り上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る