第66話 手乗りスライム
眠っている先輩の側に、
「ふたりを護ってね。お願い」
手のひらに乗せた
細めた金眼を笑みの形にして軽く飛び跳ね、そのまま
「ありがとう」
『手乗りスライムの王冠に、
ホワンと頭に響くオマケの言いように、ほっこりする。
なんだかんだ言いながらのサポートが、嬉しい。
「イエスで! お願いします」
甘々はオマケの方だろうに、素直じゃない。
この先、何があるか分からないから、こっそりと
「万が一の時に、出してあげて。お願いね」
軽くジャンプするのは、任せてと言っているのだろう。
準備はこれくらいにして、後は成り行きに任せて見守る。
自由にしてあげたいけど、思いつきのお節介が、余計なお世話になるのは嫌だ。
そそくさと遺跡の崩れた壁に隠れ、意識の無い者たちを伺う。もちろん、怪我をした騎士隊員はそのままで放置。
めちゃくちゃ腹立つ
もちろん。小真希が居た形跡を、残すわけにもいかないし。。
この
『ちゃんと隠れたな? 放っておいてもすぐに覚醒するが、面白そうなので、余裕を持たせてやろう。 よし、ふたり限定で【
自然覚醒する前に精霊が目覚めさせたのは、先輩と彼女。まずは
見守るうちに目覚めた
すぐ側に転がった
「スライム? 」
「触るな、雅美。危険だ」
抱き寄せて庇われる彼女の名前が、那賀雅美だったと思い出す。経理課の美人社員。。
物陰から見つめる小真希は、目を閉じてフルフルと頭を振った。
「おとなしそうだわ。きっと、大丈夫よ」
上げた小真希の視線に、手を伸ばす彼女が映る。
見た目に騙されてはダメと思うが、ふたりにとっては最強の味方だと、心の中で囁いた。
「ほら、可愛いわ」
ヒョコンと、差し出した彼女の手に飛び乗る
振動して王冠から振り出した腕輪が、彼女の膝に落ちた。
「スライムが、出したのか? 」
困惑する先輩に、
「そうみたい。せっかくだし、もらいましょうよ」
「 そう だね。魔物なのに、賢いスライムなのかな」
ソワソワぎくしゃくしながら、ふたりは腕輪を手に取った。
「魔導師長に鑑定してもらってから、身につけよう。危険なものだったら、怖いからな」
先輩の慎重さに、小真希の心臓が跳ねる。
『大丈夫です。うっかりさんの
完璧なオマケの解説に、ホッと肩の力が抜けた。
「重ね重ね、ありがと。オマケさま」
ピリッとした感触に、オマケと言うのは止めようと、背筋が伸びる。
「 サポート ありがと です」
「ここから地上まで逃げている間に、捕まるだろうな。そうなったら、生きてはいられないし、ふたりだけで地上まで行くのは無理だ」
先輩の言う通り、逃げ切るには物資も力も足りないだろう。
「酷い目に遭わされるのは、嫌よ」
「それは、そうだが 」
話し合っているうちに、騎士の幾人かが身動きし始めた。
手を取り合って固唾をのむ
弱って濁った目が、ふたりを映して見開かれた。
「おまえ さっさと 癒せ 」
ほとんど動けないくせに、掠れた声は傲慢だ。
険しい表情の先輩が、騎士の側に膝をついた。
「仕事だから、全員の癒しは掛ける。だから、雅美に手を出さないと約束してくれ」
「くくっ 使い捨ての 道具が 生意気 な」
自分の立場がわかっていないと、小真希は物陰で頭を振った。
今すぐ出ていって、ボコってやりたい。
「そうか。なら死ぬ覚悟で、ここを離れる。あんたたちと一緒にいても危険がつき纏うなら、俺たちは何もしないで、ここから離れるよ。どうせ、見殺しにされるんだ。なら、死んでも足掻いてみせるさ」
青白く、血だらけで傷だらけの騎士が目を剥いた。さらに血の気が引いて、白から土気色になる。
「待て 王国に逆らって 生きて いられると 思う のか」
「さっきも殺されかけたからな。死ぬ気で足掻くと言ったろ」
ハクハクと言葉もない口が動く。
このまま捨てていかれたら魔獣の餌だ。それくらいは理解したようだ。
「わかった 何もしない だから 俺を癒せ 」
先輩に頷かれて、彼女が
発光する粒子が宙を舞い、倒れ伏す騎士を包み込んだ。
「助かったぜ。礼をしなきゃなぁ」
起き上がって身体のあちこちを確かめていた騎士たちが、互いに目で合図を交わす。
「きちんと、礼をしてやるよ」
先輩目がけ、後ろから振り下ろした剣は、鍔際でスパッと切れて、刀身が
唖然と動きを止めた騎士の眉間を、
「どうした! 」
駆け寄る騎士も、状況を掴めない騎士も、次々と
「どうなっているんだ? 」
オロオロと周りを見回す先輩。その背中に庇われる彼女の肩へ、緩いジャンプで飛び乗った
「あなたが助けてくれたの? 」
伸び縮みしながら横揺れする金眼は、笑みの形に細まっていた。
「ありがとう。なんて、可愛くて頼もしいの」
呻き声を上げながら起き上がった騎士たちが、何度も頭を振って立ち上がる。
身構えるふたりを見ても、切り掛かる様子はなかった。
刀身を失った剣に首を傾げる騎士も、頭を振っただけで何も言わない。
「おぉ、
何事もなく帰還の準備をする騎士たちに、
「まさか、おまえが? 」
「あなたなの? 」
彼女の肩の上で、伸び縮みと横揺れをする
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます