第60話 小真希は狩人に。マリウスは家具職人になる。

 いつもと同じ朝食芋スープに固パン、塩焼きの肉を終えて、ソアラは冬に備えた錬金薬液ポーションを作る。

 回復錬金薬液ポーションを、薬草が尽きるまで調薬すると燃えていた。


 レダは村長のリハビリがてら、簡単な昼食を教えてもらうと言った。かなり嫌そうで、落ち込んでいるのが丸わかりだ。


(昼食って、モノだよね? )


 そこはかとなく不安だが、村長を信じよう。


 狩人男組ホアン、ミズリー、ウェド、リムは、早朝からダンジョンに潜って、すでに居ない。

 黒竜猫オプトも見当たらない。着いて行ったか。。


 小真希は朝から張り切ってベッドの準備を。と、思っていたら、マリウスがケイロンを助手に板を切り出していた。


「簡単なベッドくらい、造ってやる。は、家具職人だったからな」


「うん。見習いな」


 見栄を張ったマリウスを、ケイロンが混ぜっ返す。


「板がこれだけしかない。ベッドの枠しか造れないから、コマキィはカゥルゥ中型無毛種・幌、敷物タイプの調達を頼むわ。藁束より、ピンと張ったカゥルゥのマットの方が、寝心地良いんだ。お前ってば無敵だろ? なんとかしてくれ」


 小山になっている板材を顎で示して、マリウスが注文を出してくる。これは、レーンから買い取ったらしい。

 なんでも持っているレーン。さすが行商人。


「いいよ。行ってくる」


 お気軽に返事して、小真希は走り出した。

 まずは樹海にいる魔獣を探索して、難しい顔になる。


「いっぱい居過ぎて、どれがカゥルゥ中型無毛種・幌、敷物タイプか分かんない。なんとかしてぇ、◯◯○おまけもーん」


『ふぅっ……【探索】に【鑑定】を組み込みました。はっぁぁぁ』


 投げやりな応答に、冗談が過ぎたと反省。心から謝った。


 大小様々な赤点が消えてゆき、河の対岸に点々と赤の集団が残る。

 全体で見れば大きな群れだ。河下に向かって移動している。


 個別に固まった群れの数は多くない。数頭のコロニーで形成され、それぞれが独立した形で、大きな集団になっている。


「もしかして一頭を狙ったら、全体が反応する? 」


 走りながら【鑑定・探索】で俯瞰ふかんしていると、コロニーのひとつが乱れて移動速度が速くなる。そこから全体へと広がるように、群れがほどけて行った。


「襲われてる? 」


 対象が目まぐるしく動き始め、小真希も混乱してくる。


「なんか、チラチラするっ。えぇっと、カゥルゥ中型無毛種・幌、敷物タイプをオレンジ色。襲ってる奴を黒に変更して。よろしくお願いします』

 

『了解しました』


 今度はすんなりと色が変わる。オレンジの群れの三方向から、黒の単体が五頭ほど動き回って撹乱している。

 鑑定では、ラドゥ猫科大型短毛種・ラグタイプと出ていた。


「チャンスかも。どっちも、いっただきまーす」


 小真希に、猪突猛進のスイッチが入った。。


 双剣を抜き放ち、フルで逆境を生き抜く処世術サバイバルを発動。河幅もなんのその、真っ直ぐ群れへと突っ込む。

 襲われるカゥルゥ中型無毛種・幌、敷物タイプにとっても、捕食側のラドゥ猫科大型短毛種・ラグタイプにとっても、迷惑な大災厄だ。


『ククク。やり過ぎて、彼奴ソアラに説教されるがいい。ヒャハハハ』


 精霊も絶好調で、眼下の狩りを見下ろしていた。



******

「で? これは、なに? こんなに必要だったの? 」


「えっとぉ  はい。 ぃや、ちが  ごめん なさい」


 背中を丸めてモジモジする小真希に、眉間の縦皺プラス斜めに首を傾げたソアラが、腕を組んだ。


「程々を、覚えようね。来年の分も、残そうよ」


 抑制の効かない子供に、母親が言い含める感じだ。もはや、怒るのに疲れたか? 深淵からの怒りは感じるけれども。。


「ごめん わかった 」


 いつものより、心に堪える小真希だ。

 悪魔の笑いを響かせて、空中を舞う精霊が憎たらしい。


(ちょっとくらい、止めてよね。もぅぅ、まった怒られたじゃん) 


 ソアラの怒りは、あまり伝わっていない。 かもしれなかった。


「終わったかぁ? 昼飯食ったら、手伝ってくれー」


 マリウスの呼びかけに助けられて、元男子部屋洞窟へ行く。

 背後で肩を落とすソアラは、そっとしておこう。


 村長監修の昼食は、焼いた魚をベースにしたスープ。それに、ビスケットのようなサクサクパン。

 頑張ったレダは、腰掛けて放心していた。

 料理って、体育会系だったのだろうか。お疲れ様です。


「コマキィ。カゥルゥの皮な。湿らせて、薄ぅく延ばせるか? そこまでできるんなら、今日中に、みんなのベッドが完成すんだよ」


 マリウスが言うには、カゥルゥの皮をなめし、湿っている間に引き伸ばしてベッドの型枠に皮の端を打ち付け、木枠で挟み込むようにしてから乾燥させると、ピンと張って丈夫なシートになる。


 幌にするなら表面を撥水加工し、四角く整えるのだが、これはベッド。撥水加工はしない。

 小真希なら収納の中で加工すれば、鞣す工程も省ける。


「わかった。やってみる」


 型枠は、人数分出来上がっていた。残った造りかけは客室のだ。

 レーンが来ても、野生的な部屋ではなくなる。


『加工完了。一枚づつ取り出し可能です』


(さすがです。ありがと)


 夕方まで手伝って出来上がったベッドを、程よく乾燥させる。


「ぁ。ベッド三台は、屋根裏へ持っていくね。私たちの部屋にするから」


 ソアラもレダも、屋根裏を気に入ってくれた。

 今は無理だが、布で間仕切れば個室風になるのが味噌だ。

 元の女子部屋へは、村長とマリウス、ケイロンが移る。

 納戸部屋も、四人なら広くなるだろう。


「今度レーンさんが来た時に、壁の板材を買って、みんな個室にする予定だ。任せとけ」


 なんだかんだ言って、マリウスは木工が大好きだなと思った。

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