第59話 大改○ビ○ォー○○タ○

 酒を飲みたくなったレーンが、お近づきの印だと商品を出してきた。

 もちろん、最初の一樽は無料との事。ただし、一樽で足りる筈がない。

 一口飲んだ男どもの腹の虫が「飲みたい! 」と、騒ぎだす。


 今は逆さに振っても、銅貨一枚たりと出てこない。

 面白いくらい絶望する酒呑みたちと、酒呑みに加わったソアラのために、小真希はが用意してくれたブツを取り出した。


「レーンさん。これ、要ります? 馬車一台分の硬貨メダル型、魔物除け・盗賊避けの魔道具。今なら酒好きひとりに付き一樽ずつで、差し上げます」


 当然、魔物や夜盗の出る地帯も行商の経路にあるレーンが、食い入るように硬貨メダル型魔道具を睨む。


 酒のは、村長、ミズリィ、ホアンと、一滴も飲めない雰囲気のソアラ。

 四樽の酒と、貴重な魔道具の交換なら、比べる必要もない。


 コクリと、レーンの喉が鳴った。


「鑑定具に、掛けさせていただいても? 」


「どうぞ。気のすむまで見て下さいな」


 鑑定具は値の張る魔道具だが、商人にとって必須の魔道具でもある。


 レーンは傍に置いた肩掛け鞄から、両手を合わせた大きさで、長方形の皮袋を取り出した。さらに皮袋から石板を取り出して、そっと敷物へ置いた。


 石板の中央には、七重の同心円で文字と記号が描かれた魔法陣。その上に硬貨型魔道具魔物除け・盗賊避けを置き、隅の起動魔石を押す。


「これは、魔物除け、盗賊避けの魔道具か、否か」


 魔法陣全体から仄かな光が立ち上がり、波打つように高さを変えた。

 簡単な質問に答える魔道具には、あらゆる鑑定対象の情報が網羅されていて、正確な判断を行う。


 何度か光の色が変わり、石板の余白が金色に発光した。


「なっ! ぇ? 」


 驚いて身を乗り出す様に、そうだろう、そうだろうと、自慢げな小真希。

 ガバッと顔を上げたレーンが、引き攣った笑みを浮かべ、両手で小真希の手を取った。ブンブンと、力強い握手も込みだ。


「ありがとうございます! 向こう一年。お邪魔させていただく毎に、酒樽四つでよろしいですね! 」


「ぁ、はい」


 思わず返事をして、いいのか? と思う。

 見やった村長とソアラが、笑顔で頷いた。男どもは、少々……いや、かなり残念そうだが。。

 

 その晩は、手酌で自分専用の酒を煽りながら、平和に過ぎていった。

 酔っ払ってぐだぐだのソアラを置いても行けず、小真希とレダも洞窟住居で一夜を明かそうと決めた。


 ソアラに想いを寄せている少年ふたりウェドとリムが、ちょっとだけ闇を背負っていて、小真希的には笑える。


 明けて早朝。

 二日酔いで座り込みそうなソアラを、レダと小真希は両側から支える。そうやって、全員でレーンを見送った。

 若干、酒の後遺症が残っている村長以外、男二名は元気溌剌だ。


「お世話になりました。貴重な魔道具まで譲って頂いて、感謝いたします。末長くアカルパ商会のレーンを、ご贔屓くださいますよう、お願い申し上げます」


「はい。こちらこそ、有意義な取引を、させて頂きましたな」


 心ばかりのお弁当パンと肉の塩焼きを受け取ったレーンが深々と頭を下げ、幌馬車に乗り込む。


 村道を下って行く馬車の周りに、たくさんの妖精が纏わりついて、視える者が視たら、さぞかし仰天しそうな様相だった。


「危険物避けの効果って、ああ言うのよね」


『ニャワォン』


 合いの手を入れた鳴き声が、なんかおかしい。


「あんた、それって猫の鳴き声じゃないでしょって、猫じゃなかったか」

 

 黒竜猫オプトは、黒竜のはずだった。たぶん? 。。


「ちょっとだけ、休むわ。ごめん」


 弱々しいソアラに呆れた視線が集中し、皆それぞれに切り替えて、朝の支度を始めた。


 まだ本調子でない村長と二日酔いのソアラは、高台住居で静養。ふたりにはレダが付き添う。

 ホアンたちはダンジョンへ。興味津々でついて行くのは黒竜猫オプト

 安全面を考えたら、オプトがダンジョンに同行するのは正解に思える。


 マリウスとケイロンは、川辺に造った簡単な燻製釜で魚を燻すらしい。


「じゃぁ、わたしは階段の続きでいいか」


 差し迫ってする事がない小真希は、男部屋への通路と、川辺までの階段を造る事にした。


「確か高台住居には屋根裏があったっけ。時間が余ったら、梯子を退けて階段でも造ろうかな。天井は低いけど、まぁまぁ広かったし? 」


 何かする前には相談しろと言われたが、すっぽりと抜け落ちた小真希の頭には、物作りの楽しさしか、残っていなかった。


 それぞれが、思い思いに一日を過ごし。ダンジョンで泥だらけになった男組は、鍛冶場の風呂に追い立てられて地下室の階段を降りていった。


 ようやく起きられるようになったソアラが、女子用に割り当てられた部屋を出た途端、見慣れない階段に眉を顰める。


 物置部屋男子寝室寝室女子用の間は、広めの廊下で対面していた。それは廊下の奥に地下への階段と、屋根裏への梯子はしごが掛かっていたはずで。。


「梯子はどこに行った? いつの間に、上り階段? 」


 寝室を女子が独占しているのは、正直心苦しかった。できれば、もう一部屋あればと、思っていた。が。。


「コマキィ!? 相談はぁ! 」


 発覚するのは、川辺までの地下階段とか、男部屋への延長廊下とか。。

 このあと連続して、ソアラの雄叫びは続いた。


「階段 造ってって 言ったじゃん。むぅぅぅぅ」


「拡大解釈、すんなぁ」

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