第58話 できる《《おまけ》》? の通行手形

 ホアンの案内で、レーンが川辺に降りた。

 釣りや投網でなく、罠で魚を獲るのが珍しいと言っていた。

 流水を利用した生簀いけすの話しにも、興味津々だった。

 しばらくは、帰ってこないだろう。


「あ〜……ここから緩い階段をつければ良いか」


 女子専用の洞窟住居から階段を造ろうと、【探索】を発動すれば、高台住居と一部が重なるような位置で、上下になっていた。


「棚でもこさえて、隠すようにする? 」


「当面は箱を積んで、後ろに隙間を作れば良いと思うわ。入り口から直接見えなければ、誤魔化せそうよ」


 作業を始めた小真希の後ろで、レダとソアラが相談している。

 確かに、女性の住処をジロジロ見たりはしないだろう。


「じゃぁ、コマキィは階段をよろしくね。わたしとレダは、適当な箱を見繕って、棚に見せかけるから」


「分かった〜」


 目立たない方が良いかなと、入り口は屈んで入る高さにする。

 一歩入った辺りで一気に高さを変え、大柄なミズリィが通っても、余裕で立てるアーチ天井にした。

 後で男部屋からも行けるように、横へ分岐する廊下の幅だけ、奥に向かって平たく掘る。


「ここら辺から ね」


 ピッタリ地下室の隅に出られるよう、階段をつけ始める。

 途中を踊り場にして、折り返す形だ。


「後で川への階段も造ろう。真冬でも、魚は獲れると思うし。そうしようっと。おっさかな、おっ魚」


 小真希的には、塩焼きより醤油と味醂みりんで、あっさり煮た魚の方が好きだ。

 どこかで醤油らしき調味料を見つけたら、爆買い一直線で。。


 食いしん坊な妄想の間に、高台住居の地下室へ到着する。

 まだ何も置いていない地下室は、肌寒くてだだっ広い。

 石積みの壁に塗った漆喰が所々剥がれていて、やけに気になる。


「【修復リペア】しとこう」


『了解しました。防水と強化もしますか? Y/N 』


「イエース! 」


『……了解です』


 なんだか返事までに、間があったような気がする。

 の体調が悪いのか? 。


 いつも見慣れたふうに、欠けたりひびの走った床や壁が綺麗に繋がってゆく。

 壁から上へと漆喰が広がり、天井の中心に集まったあと、新品の地下室に変貌した。


「良い感じ! ぁ、買った荷物。運んじゃおうっと」


 下に降りれば、階段の入り口を隠すように、程よい間隔を空けて、木の箱が積み上がっていた。

 目線より、頭ひとつぶん高い。


 部屋側は蓋の無い部分を揃えて、うまい具合に棚になっていた。

 何も置かないのは寂しいので、収納インベントリに突っ込んで忘れかけていた木の皿、コップ、何かのあまり布いわゆるガラクタ等々を並べる。

 大切そうな物に見えると良いなぁ。。


「できたね。じゃぁ、行こうか」


 ソアラは服を纏めたシーツを、肩に担ぐ。

 ポイと渡されたシーツの大きい包みは、小真希のらしい。


「とりあえず、上の部屋に置きましょ」


 サンタよろしくを担いで、レダもソアラに続いた。

 後ろ姿のふたりは、腰が引けている。

 出来立てホヤホヤの階段が、怖いってかぁ? 。

 なんか現実に戻って、ため息をつかないでほしい。。


『おまえ、結界内に侵入してきた人間に、印をつけてやれよ』


 地下室に上がった途端、浮遊精霊が出現する湧き出す

 みんな慣れたので驚かないが、唐突さに磨きがかかってないかな? 。


「印って? 」


 さも呆れ返ったように首を振る精霊。煽られてプンスカ怒る小真希。


『お・ま・え・が、張った結界に、ふつう余所者は、入れないんだ! 通過許可の印を持たせてやらないと、毎回、黒竜猫オプトが迎えに行かなきゃ、あの人間は樹海で迷うぞ』


「あ〜 そうだった。ありがと、何か考える」


 あっさりと礼を言われ、精霊は拍子抜けした顔をする。

 もう少し、遊んで欲しかったのだろうか。。


 女子部屋に荷物を放り込んで、洞窟住居へ急ぐ。

 あれやこれやは、明日に回し、それでもって、夕飯の用意だ。


 焚き火の燃え残りを掻き出して、長方形の鉄格子を乗せている。

 薪を足した方には、レーンから買った寸胴鍋を置き、熾火の方に乗っているのは鉄板だ。


「捌いておいた」


 ほんのり得意げなウェドと、やってやった感がダダ漏れのリムに、軽く頷くソアラ。

 それだけでデレるに、レダと小真希は生ぬるく笑った。


 まな板代わりの切り株で、ウェドとリムが切り分けたのは、プルミー大型短毛種・毛布タイプの胸肉だ。

 脂身が少なく臭みもない部位は、豪快な塩焼きが一番美味しい。


「こっちは、まあまあだ」


 昼の残りのスープを寸胴鍋に移し、根菜にんじん? 蕪?やら野草やらを足して、マリウスがかき混ぜている。

 ケイロンは細く切った干し肉を、鍋にパラパラしていた。


 調理が終わり、辺りも薄暗くなった頃、レーンとホアンが帰ってきた。

 レーンの懐でぬくぬくしている黒竜猫オプトが、滞在許可の印なのか。。

 姿の見えなかった村長とミズリィが、男子用洞窟住居から顔を出す。


「寒いので、こちらで食事に致しましょう。どうぞ、レーンさん」


 料理の皿を持って入ると、中は綺麗に片付いて、敷物が敷いてある。

 真ん中に塩焼きの大皿と平たいパンの盛り籠、寸胴鍋を据えて各自のカトラリーを配った。

 人の多さと料理の熱で、洞窟内が温まってくる。


「歓待に感謝します。では、遠慮なくいただきますね」


 ちゃっかりと村長の胡座に移り、美味しいとこ取りで肉の切り身をもらう黒竜猫オプト

 あざとくて可愛いところが、猫! 。小真希は撫で繰り回したくて、両手の指をワキワキさせた。


『健忘症の主人あるじに代わって、魔物除け効果を付与した、通行・滞在許可の認識板メダルを、作製しました』


「えぇっ! むぅぅぅ」(言い方! 酷くない? )

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