第50話 攻撃魔法は、用法容量を守って使いましょう

「前方、敵影ターゲット五。発生ポップ


「心得た」


「おっしゃ」


 弾んだいらえで走り出したのは、ミズリィ。

 独り占めさせるものかと、追従したのはリム。

 さっきから魔獣の発生ポップを知らせるたび、ふたりが競って狩ってしまう。

 負けじと追いかけたソアラが、恨めしげに地団駄を踏んだ。


「……まったくっ わたしの練習に、ならないじゃない! 」


 何度も何度も先を越され、警戒心を超えた怒りに火がつく。

 結果、大声を出せば発生ポップを誘発する訳で。。


「のぉわぁ! 」


「増えたっ」


 壁からゾロゾロと湧き出る魔物スライムに、先陣争いをしていたふたりが奇声をあげる。


「ぁ〜……まぁ、ソアラは無理せず、好きなだけって構わない。あいつらは自業自得だから……」


 片手で眉間を揉みほぐしながら、乱れる前衛から抜けてきたスライムを、ホアンはきっちり薙ぎ払った。

 最後尾に下がったウェドの長杖が魔力を纏い、細かな気流を生み出す。


「守れ【∽§◇∂∽∽∂∽§〻風結界】」


 それは薄衣を形成し、ふんわりとソアラを包み込んだ。


「風の防御をかけた。気にせず好きなだけ獲物を狩って良いよ」


 なんだかんだと、ソアラに甘い連中だと思う。

 本当に困ったものだと思うその中に、小真希も入っている。

 まぁ、それはそれ、これはこれだ。

 何が? と言われても困るのだが。。


 重心の乗ったメイス攻撃に、スライムが爆散する。

 ソアラがポクポクと狩るあいだに、小真希はこぼれ落ちるドロップ品を拾い集めた。

 今までで、一番簡単なお仕事だ。


 ほぼ一本道。

 所々に浅い枝道はあるが、もう少し洞窟は続く。

 袋小路の枝道にも、しょっちゅう小物の魔獣は湧くので、後ろを取られないよう、リムはこまめに【‖≧〻☆§≦≦水弾】を打ち込んでいた。


「さっきから発音が難しい単語呪文ワードを使うよね」


 逆境を生き抜く処世術サバイバル技能スキル無しでは、聞き取りにくい音の響きだ。


 ミズリィとリムを後退させたホアンが先頭に立って間引き、適量に減ったスライムをソアラが狩る。

 程よい間隔で天の恵みが降り注ぎ、ソアラの経験値レベルは上がっていった。


 前方が大きく開け、天井の高い空洞に差し掛かる頃、ダンジョンの雰囲気がガラリと変わる。


「そろそろね」


「そろそろなの? わかったわ」


 小真希の警告に、ソアラは素直に下がる。

 前衛にホアンとミズリィ。中衛にリムとウェドが出た。

 後衛まで下がったソアラの背後に、小真希が詰める。


逆境を生き抜く処世術サバイバル。発動します』


(ん? なんだこれ)


 突然に発生ポップした巨大な赤点の群れ。

 無意識に身体が反応し、小真希は強固な障壁を前方に展開する。

 とんでもない殺意と威圧を感じ取って、肉体操作マリオネットも発動していた。


「下がって! 伏せ! 」


 警告を発したと同時に、巡らした障壁シールドが振動した。

 続け様に地面も揺れ動き、危なく転げそうになる。

 障壁を振動させて襲うのは、岩石混じりの土石流だ。


「くっそぅ、土龍か! 」


 雪崩かかる攻撃は止んだが、胸の位置まで積み上がった土砂は、物理的な重量で障壁を押し潰す。

 さっきから細かなひびが、徐々に広がっていた。

 積み上がった土砂の向こうに、見上げるほど巨大で手足の短い、オオトカゲに似た魔獣が群れをなしている。


「よし、吹っ飛ばす」


「当然」


 前に出たリムとウェドが、詠唱を始めた。


「どれくらい保つ? 」


 ソアラを庇って前衛が後退し、傍に来たミズリィが大剣ロングソードを構えて茶化すように聞いてきた。

 何気にイラッとする小真希は、余裕の笑みを返す。


「準備ができるまで、保たせてみせるわよ。当然でしょ」


 詠唱呪文スペルを完成させたウェドが、高く長杖を掲げた。

 発動の兆しに杖頭の魔石が輝く。

 続いてリムが短杖を振り切った。


「来たれ【‰≧∬§∽≧√§≦≦風爆嵐】」


「逆巻け【⁑§‖§〻√∴≧破砕流】」


 消した障壁シールドを越え、雪崩落ちる土石流を、【‰≧∬§∽≧√§≦≦風爆嵐】が巻き上げ、土龍の群れに投下する。

 追い討ちをかけたリムの【⁑§‖§〻√∴≧破砕流】が、土砂に埋まる土龍を押し流し、押し潰した。


 完全に、過剰攻撃だ。


「何やってんだか……」


 こんな無茶を仕出かすから、前回はヘトヘトヘロヘロだったのか。。

 まるで新しい玩具に興奮する子供ではないか。。

 あまりのお子様ぶりに呆れ、小真希の視線が斜め上に彷徨う。


「あんたたち、馬鹿? ……ねぇ、バカでしょ」


 最後尾に避難していたソアラも、半眼で呟いていた。

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