第48話 拠点!

 ズルして【清浄】を掛けた台所はピカピカになり、使い勝手の良い配置にウキウキする。

 埃まみれだった床置きの大水瓶も綺麗にして、欠けた所はこっそり【加工・強化】しておく。

 水汲み係りのケイロンに頼んで、水も満杯だ。


 あちこち鑑定しながら作業すれば、暖炉横に放置された大振りの壺が、スープだと分かった。

 自然の釉薬が滲み出した素焼きの壺は、案外と重くて脆そう。

 持ち出すには重すぎて置いて行かれたようなので、コレまた【清浄・強化】。

 新品になったスープ壷を、小真希は軽々と持ち上げた。


 暖炉の縁。火の側に壷を置く窪みがある。

 適当に水を入れたスープ鍋をセットし、甘芋を放り込む。

 それだけでは寂しいと、庭の畑から幾つか野菜を抜いたり採ったり。。

 あれやこれやも、ほぼ丸ごとのまま追加した。

 薄紅甘いも緋色にんじん?焦茶手のひら大の緑鞘付き豆?と、賑やかなゴロゴロスープだ。

 味付けは、ソアラの地所にある塩湖の塩を、パラパラ。


「おぉぉ、いい匂い」


 食べるのが大好きな小真希は、小学生時代から料理好きの女の子。

 あれこれ舌の赴くまま、ガッツリ系からあっさり系まで、料理をしまくってきた。

 足りない食材でなんとかするのは、得意技だ。


「もうちょっとですからね、待っててください」


 共稼ぎの鍵っ子自宅警備児童は、けっこう逞しいのだ。

 ゆったりと座った村長に味見などしてもらいながら、木の枝を削った串に、塩を振ったシプレンの肉を刺して暖炉で炙る。


「コマキィは、良い奥さんになる。レダも見習ってくれたらと思うよ」


 なんだかんだ煽てられ、調子づいてくる小真希。

 拭き掃除をしながらチラチラ視線を寄越すレダは、急に聞こえない顔でそっぽを向き、吹き出すのを我慢したソアラは、生ぬるい視線でレダをからかう。


 何度目かの水汲みで帰ってきたケイロンの後ろに、マリウスやらホアンがくっついてきて、小真希は初めて夕方も遅い時間だと気がついた。


 秘密の抜け道でドロップを稼いだミズリィとリムは、ストレスを解消したのか肌艶が良い。

 難しい顔をしたホアンとは、大違いだ。

 ウェドはかなりお疲れで、長杖を杖代わりにしている。きっと調子に乗って、魔法を連発したに違いない。


 何もない居間の床に端材の板を置き、倒れないようグルグルと厚布で覆ったスープ壷を置く。

 配膳している間に、洞窟生活で使っていた雑貨と寝具を、ホアンたちに回収してきてもらった。


 オグニルリンゴもどきを生野菜の代わりに採集しようと外へ出れば、思いのほか厳しい寒さで身体が震える。

 昨日よりグンと気温が下がって、早過ぎる変化にため息が溢れた。


「ソアラには怒られたけど、ここが見つかって良かったよ」


 戻った室内は暖かく、ホッとする。

 いつの間にか村長の膝で、ご飯をもらっている黒竜猫オプト

 主人保護者が誰か、忘れてはいないだろうか。。


 足りなくなりそうな薪を収納インベントリから出して、玄関の二重扉の小部屋に積み上げた。

 胡乱な目付きで睨むソアラと目が合った途端、なんだか、小真希の背中がゾクゾクする。

 風邪ではない。絶対。。


 夕食の間に風呂を沸かし、満腹した女子組から、広めに造られた良い感じの浴槽に浸かる。木の香りに癒される一時だ。

 食事の間も入浴中も、冷めたソアラの視線を警戒するが、拭き掃除で疲れが溜まったせいか、何も言わず大人しく眠ってくれた。

 ヒヤヒヤと小さくなっていた小真希は、肩の荷が下りて一安心だ。


 少しばかり狭い寝室は、小真希たち女性陣に譲られ、村長を含む男性陣は、向かい側の物置と、居間の床が差し当たりの寝床になった。


******

「何故ここが、修復されたのか。コマキィの事だから、細かい事情は聞かなくて良いです……聞いたら、頭痛が酷くなるだけですから……ただ、ここ以外ではください? 良いですね」


「ほぇ? 」


 朝食が終わって車座になったところで、敬語のホアンが難しい顔のまま話し始め、終わったと安心していた小真希は、目と口をまん丸にした。

  

「……実際に凍えなくて助かったから、俺は気にしない」


 短杖磨きに余念がないリムは、小真希の引き起こすに無関心だ。

 それはウェドも同じらしく、リムの隣で黙って長杖を磨いている。

 時々浮かべる謎のニヤケ顔が、美少年のイメージを崩した。


「前よりも、自分の手に馴染む……」


 角度を変え、舐めるように大剣ロングソードの調整を確認するミズリィは、皆の話を聞いているのだろうか? 。

 今日のドロップ品予想に、全神経を持って行かれているような。。


「……まぁまぁホアンさん。コマキィは善意で動いただけでしょう。今回のことは、外に漏れる心配など無いと、わしは思いますよ。レオンギルマスさんの言っていたが来られる前に、本来の開拓地を、それらしく見えるように開墾しましょう」


 庇ってくれる村長が眩しく見えて、小真希はへらりと笑み崩れた。


「……分かりました。村長がおっしゃるなら、その通りに」


 今日は全員で、崖下の開拓地をそれらしく整えると決まった。

 作付けは来年の春からとして、ある程度掘り返した畑はこのままで良い。

 あとは洞窟住居の入り口に扉をつけ、隅に布団代わりの毛皮を積み上げたり、屋内の厨房を整えて換気口を開けるくらいだ。


しゃぁねぇ仕方ないなぁ。扉くらい俺が付けてやらぁ」


 意外にも器用なマリウスが、端材と毛皮で頑丈な扉を作り、かたやケイロンは、小真希の設置した浄化槽まで排水溝を掘ってゆく。

 開拓に向いた技能を発揮するふたりに開拓地の偽装を任せ、小真希を含めた面々で、秘密の通路からダンジョンに降りる算段がついた。


 一日中開墾に精を出し、泥だらけになった夕方。

 湯上がりのソアラが真剣に話し出す。


「レダは村長の手助けをしてあげて。わたしもダンジョンに行くわ」


 冬越えの食糧を買うにはお金が要る。

 手っ取り早くドロップ品を集めて、稼ぎを取ろう。

 頑張る宣言のソアラに、皆の視線が生ぬるい。


『喜べ、人間ども。なにやら怪しい奴が、動き出したぞ。ゥヒャヒャヒャヒャ……ッカカカ』


『ナオォォォン』


 テンション高く現れた精霊は楽しそうに舞い踊り、相槌を打つ黒竜猫オプトがのんびりと吠えた。

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