第47話 隠れ屋?

 高台畑の収穫を採ってきたソアラは、帰りがけに、小真希がした家と畑、果樹の林を見て、ぷっつり切れた。

 あんぐりと固まるケイロンをほっぽらかし、自主的に正座した小真希の頭に、怒りの鉄拳チョップを落とす。

 五体投地しても、許す気配は無い。


「なんで あんたって そんなに でたらめなのぉぉぉ……し 心臓が、保たないぃ。このぉ、おばかぁっ。何かする前には、皆んなに、ひとこと、相談しなさいよぉ! 」


 もう半分以上、泣きながらの説教だ。

 ほうれん草報告・連絡・相談? は、確実に。。

 ぐうの音もでない、小真希だった。


「……なんか ごめん……」


 シュンと首を縮める小真希に、両手を腰に当てて、肩も目も怒らせたソアラだったが、クタリと力が抜けた。


「もぉ、だったわ……それで? なんで、座ってんのよ」


「え? えぇ〜と……なんとなく? 」


 叱られるときは正座する。

 習慣ではなかったが、とってもソアラが怖かったから。。


「それで? 家の中を案内してくれるんでしょ? 」


「ぁ、うん。けっこう広いから、みんなで冬籠もりできるよ。きっと」


 表情を緩めたソアラにお説教は終わったと判断して、小真希は元気いっぱいの笑顔で立ち上がった。

 呆れて目の光が消えたソアラだが、両手を握って気合を入れ直す。

「コマキィだったわ」との呟きは、誰の耳にも入らなかった。


 洞窟住居のままでは、冬を越すのに心もとない。

 調子の戻っていない村長や、野宿生活に慣れていないレダもソアラも、体調を崩すのが心配だ。


(男ども? なんとかするよね。自分で……)


 失恋の痛手か、男に関する小真希の評価は、最低ランクだ。


 ひと通りお宅訪問したあと、ホアンたちの帰りを待って、今後の相談をすると決めた。

 家の中を探検して、ウロウロと忙しいケイロンを捕まえ、外回りも確認するのに引っ張り出した。


 拓いた庭は区割りされた畑で、野菜と薬草、穀物が実っていた。

 山脈側の果樹園には、オグニルりんご?マロウ 栗? の実が鈴なりで、スリカ あんず? スキニャ  桃?  も植わっている。


(鑑定って、便利ぃ〜)


 おまけアシストの気配りは、細やかだ。


 少し下った林の中に、汚水を処理する場所があった。

 家から伸びた下水溝も、深い穴を囲った中に繋がっている。


「腐るものを捨てて、肥料にしてたな。ほら、階段も石造りだ。じいちゃんが造ったのと同じだ」


 落ちそうに覗き込むケイロンは、弾んだ声を上げた。


「下に降りたら段々畑と一緒で、三層になってる筈だから、作業は俺とマリウスだな。排気口は……あった」


 ケイロンが指差す方に、細い土管が頭を出して、等間隔に立っている。

 崩れた柵のように、ずっと向こうまで並んでいた。


「排気口が終わった辺りに、運び出しの囲いがある筈だ」


 排気口を辿ってしばらく歩くと、緩い丘の下に洞窟があった。

 出口の周りは、左右に広がる石の段で囲み、掻き出した肥料を両側に積み上げるよう、簡単な区切りを付けた処理場だ。


 ケイロンの祖父は村長より年上だが、ミトナイ村になる前から、開拓に携わった年代だった。

 祖父が元気なうちに仕込まれたケイロンは、ひと通り開拓の手順を知っている。

 マリウスも家具職人の祖父に仕込まれたが、本人は英雄になりたいと、木の枝ばかり振るようになった。


 処理場から、囲った竪穴の場所まで戻る。


 大掛かりに開拓した人々は、やはりルイーザのせいで、いなくなったのだろうか。

 離れざるを得なかった気持ちを思うと、腹が立ってくる。


「これ、魔道具士の付与が刻んである。魔術の使える人が、開拓してたのかもしれないぜ」


 ケイロンが指差す継ぎ目のしっかりした囲いは、岩を組み合わせて造ってあった。

 見えている石壁の内側に、ぐるりと模様が刻み込まれ、並行して螺旋状に下へと続く階段もある。

 縁の上部に突起があり、小さな窪みが五ヶ所あった。そこから模様が始まっていた。

 

「これって、スイッチ? 」


 並んで覗き込んだソアラが、窪みを指でなぞった。


「ここに魔石を入れるみたいね。ゴブリンか、スライムの魔石で動きそうよ」


 素早く魔石を放り込みそうになった小真希の手首を、がっしりとソアラが掴んだ。


「ほんっと、学習しないよね……皆んなに相談してからよ。いい? 」


 ソアラの張り付いた笑顔が、怖い。

 助けを求めたケイロンは、魔法陣に夢中だ。


「はい  ごめんなさい……」


 借りてきた猫状態で、小真希は大人しくなった。

 

 一旦は崖下の洞窟家?まで帰って、結局は興味津々なレダと、まだ歩くのも心許ない村長を連れて、お宅訪問をする。

 家具のないうちにと、ぼろ布雑巾で掃除を始めるレダとソアラに、巻き込まれたケイロンが崖下から水を運び始めた。


 お腹が空いてきた小真希は、調理用の大きな暖炉に火を入れ、小さい毛皮を敷いて先に村長を休ませる。

 万能薬エリクサーで回復したものの、長く寝込んだ身体がすぐに正常なものになるのは難しかったようだ。


「すまんな、お嬢ちゃん。役に立たなくて」


「そんな事ないです。これから皆んなを、纏めてもらえるじゃないですか。あ。私のことは、小真希って呼んでください」


 開拓村を立ち上げた人だ。

 男どもを纏めるくらい、軽いだろう。


「ありがとう、コマキィ。頑張らせてもらうよ」


 やっぱり発音はコマキィなんだと、苦笑する。


「材料と鍋があるから、昼食に何か作りますね」


 石造の調理台に向かい、小真希はナイフで材料を刻み始めた。

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