第45話 視覚の共有

『ナォォォォ〜ン』


 ぐったりと横たわる小真希の頬を、黒竜猫オプトが舐める。

 ヒクヒクする身体は、明らかに痙攣だ。


 精霊と視覚を共有する違和感が半端なくて、小真希は泣きを入れた。

 勝手に視界がグルグルして、乗り物酔いの酷いのが襲ってくる。


『軟弱者めが、情けない。全くもって不甲斐ないやつだ。まぁ、ヘタレだとは、最初っから分かっていたが、それにしても根性の無い。ハァァ』


 煽りまくる精霊。

 突っ伏して吐き気を堪えるのが精一杯の小真希に、反撃は無理だ。


「ぅっぷ……気持ち悪 い ぃ」


『緊急処置を発動します。支援技能スキルより、精神安定、心身回復が起動しました。干渉技能スキルより、並列思考を発動。所持者の補助として、新技能スキルの外部重複閲覧を立ち上げました。視覚化しますか? Y/N』


 速やかに気持ち悪さが消え、頭がスッキリする。

 なんとなく理解した知識が鮮明になり、小真希の指はYをタップした。

 程よい距離で小型スクリーンが展開し、精霊の目にした景色が映し出される。


「おぉぉ! 立体映像。 うん……わたしの頭の天辺 」


 目の前に展開したスクリーンが、三分割した。

 映っているのは小真希の頭と、見覚えのある部屋の中。それに、深い森の景色。。


 小真希の頭は、目の前にいる精霊の視覚だろう。だったら、見覚えのある部屋は? 。


「あ、もしかして冒険者ギルド……おぉ、あれって、ルイーザが座ってたカウンターだ。誰も居ないね。夜中だし……で? 森の中は、ぁ〜 薄紅三角だっけ? 」


 確かに、半裸状態でフラフラ彷徨っている男たちは、休憩地で襲ってきた薄紅三角だった。

 立ち上げた探索マップには、ダンジョン山脈と北山脈に挟まれた高台の樹海で、彷徨う薄紅三角が確認できる。

 随分と奥まで入り込んでいるが、帰って来れるのか。。


「一応、マークを入れよう。知らない間に接近されたら、危険だし? ついでに接近警告アラームも、ポチッとな」


 お気軽な小真希のは、限りなく増えてゆく。。


「で? 三カ所が映っているのは、なんで? 」


『育てた小精霊大地の精霊の眷属を、わしが使役しているのでなぁ ぁは ぁはは ぁははははっ くくっ ぅくくく』


 人を観察するのが大好きな、変態精霊だ。

 役に立つ。 


「んじゃぁ、動きがあったら教えてね」


『うむ、良いとも。ククッ ゥカカッ クゥッ ゥヒャヒャヒャ』


 精霊と言うより、悪霊じゃなかろうか……。

 気色悪い笑いを漏らしながら、大層ご満悦な精霊は消えていった。

 どこかで見張りをしてくれるのだろう。……たぶん。。


黒竜猫オプト、寝るよ」


 時刻は夜半を回っている。

 傍にはソアラとレダが、それぞれもこもこシプレン羊型巻毛種・もこもこタイプの毛皮に包まって眠っていた。  

 隣りの洞窟住居は満杯で、キツキツの雑魚寝だが、こちらは女子三人。広々として、ちょっと寒いかも。。


「越冬の住宅事情を、先に改善かな。凍死したくないし……まぁ、明日考えようっと」


 シプレン羊型巻毛種・もこもこタイプの毛皮にマルッと包まって、小真希も横になる。

 首元から潜り込んできた黒竜猫オプトは、小真希のお腹辺りに落ち着いて丸くなった。


「おやすみ、オプト」



 あっさりと、夜が明ける。

 いささか寝不足の小真希は、半分以上眠っている状態だ。

 食欲、睡眠欲、好奇心。

 それだけあれば元気一杯の小真希だが、一番ウェートの高い睡眠が、足りていない。

 

「起きて〜 コマキィ。ご・は・んっ ほらぁ、起きろぉ」


 耳元で叫ぶソアラに、ようやく片目が開いた。


「……おはよ  クゥ‥‥」


「寝るなぁっ! 」


 朝から漫才じみた掛け合いに、レダのぬるい視線が。。

 やっとの事で焚き火を囲んだ小真希に、リムが野草スープを手渡してくれる。


「ありがと 」


 身体が温まるにつれ、眠気を追い払う小真希。ようやくマトモな話ができる状態で、ホアンが口火を切った。


「ここから高台へ登れるように、階段を付けてもらえるだろうか。できれば、極秘の近道を通って、ダンジョンへ潜ろうと思うのだが……」


 ダンジョン裏の、山脈に挟まれた高台の樹海には、未踏の山脈を潜って北山脈側の開拓地北側の高台へ抜ける地下道があるらしい。

 どうやらそれ地下道はダンジョンの一部らしく、ある程度のドロップ品を稼げると言う。


「昨日。ギルマスレオンに、ドロップ品の買取りをしてもらえるよう、話をつけた」


 山の天辺から見下ろした開拓地側の高台には、興味がある。

 屋台の商人が開墾している場所もあったはずだが、結界を区切って近寄れないよにすればいい。


『……お気楽n……了解しました。対処します』


 おまけアシストの愚痴みたいな気もするが、まあいいかと流す小真希。


「いいよ。わたしも、登ってみたかったし。ご飯食べたら、行こうか」


「助かる。収穫も、気になっていたしな」


 ホアンたちが育てていた芋類があれば、栄養の偏りもマシになる。 

 そろそろ野草のスープに飽きた小真希だ。

 当分は大丈夫なくらい肉はある。シプレンに感謝。

 魚の塩焼きとシプレンの塩焼きで、満腹になる。


「いっちょう行きますか」


 崖沿いに少し山奥へ入る。

 女子三人の洞窟住居より、少しだけ奥へ入った辺りだ。

 鍛治小屋からも見える場所で、崖が迂回して死角になっている。


「ここからにするね」


 ゾロゾロと付いてきたホアンたちは、しっかりと武装していた。

 このまま地下道へ行くつもりだろう。


(えーと。螺旋階段にしよう。アシストおまけよろしく! )


『…………了解しました。逆境を生き抜く処世術サバイバル。【開拓】を発動します……』


 なんか、拗ねてます? えぇっ、怒ってますぅ? 呆れた? とか。。


『【開拓】  開始 しま す』


 えぇぇっ!

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