第44話  反撃の準備をしよう

 探索マップを広げ、目的のシプレン羊型巻毛種・もこもこタイプを集中的に探す。

 単独行動するプルミー大型短毛種・毛布タイプと違い、シプレンは群れを成す。

 二回くらい見つければ、余裕でお布団が行き渡るはずだ。


「できれば九枚。じゃなかった、九頭。居るかな」


 マップの範囲を広げ、断崖の険しい谷間に群れを発見。

 いそいそと足を早める。

 空全体は明るいが、影になる断崖は翳ってきた。

 陽が暮れる前に、ガッツリ狩っていこう。


 ほぼ垂直に近い崖の、わずかな出っ張りを蹴って、移動するシプレン羊型巻毛種・もこもこタイプ

 断崖の上から覗いた感じでは、お布団に最適な大きさと見た。


「雄一頭に七頭の雌ね……三頭はいただきましょう。雌の方がお肉、美味しいし」


 剣帯に装備した肉厚の小剣を抜く。


逆境を生き抜く処世術サバイバルが発動しました。身体能力が上がりました。恐怖耐性、忌避的感情緩和が発動しました。肉体操作マリオネット待機状態です』


「よし。行くわよぉ! 」


 眼前の獲物に向けて、小真希は身を躍らせた。

 急速落下する間に、小剣ナイフを一閃。

 へばり付いた絶壁から落ちるシプレン羊型巻毛種・もこもこタイプを、空中で自動収納する。

 思い切り小剣を崖に突き刺して落下を止め、僅かな突起を蹴って飛翔した。


「次! いっただきまぁす」



******

 すっかり暗くなった開拓地に、焚き火の明かりがポツンと灯っている。

 周りを囲むのは、和気藹々わきあいあいと夕食を楽しむ面々だ。

 中には一部、放心したのか呆れ返ったのか、はたまた諦めたのか、無心に骨つき肉を食べる者がいる。


「ほんっとに、デタラメなんだから。わたしは慣れたけど、そうじゃない人もいるのよ? 加減を覚えようよ。ね? 」


 こんこんと説教を垂れるのはソアラだ。もちろん、無我の境地にいるのは村長とレダ、それと、いつまで経っても慣れないレオン探索者ギルマス

 説教をするソアラを含めて、他の皆は平常運転だった。


 ことの発端は、小真希がお布団……。

 きちんとなめしたシプレン羊型巻毛種・もこもこタイプの毛皮と、部位ごとに仕分けしたお肉。プラス蹄や牙などの錬金触媒。。


 収納インベントリのとんでもない機能がバレたわけで、ソアラが説教発狂を始めた。

 うっかりさんの小真希は笑いで誤魔化そうとして、燃え盛る火ソアエアの怒りに油を注いでしまう。


 ミズリィたちが狩ってきたプルミー大型短毛種・毛布タイプ三頭も解体の収納に突っ込み、皆の前で毛布に仕上げたのが悪かった。

 やらかした後で気付いたが、もはや、やり直しは無効だ。


「まぁ、便利じゃないの? 無害だし、夜は寒いし、うん」


 そんな状況を仕方がないと、面倒臭く放り投げたリム。

 気にしたら負け、とでも言いそうだ。


「よし! ……は後にして、昼間に話せなかった村の事を聞かせてほしい。村長。冒険者ギルドは、ギルマススタンは、どうなってしまったんだ? 」


 ようやく現実に戻ってきたレオンが、気合を入れて問い正した。

 派遣された領兵執行官を手玉に取ったルイーザもそうだが、冒険者ギルドのマスタースタンも共犯者なのかと。


「……共犯だが、最初からではない。あいつスタンとわしは、開拓を始めた時からの仲間だ。ダンジョンが発見された時、無法者に占拠されないよう、冒険者ギルドを誘致してくれたのも、あいつだし」


 二年前までは、冒険者ギルドも順調に活動していた。それが変わったのは、小規模な魔獣氾濫スタンピードで怪我をした村長が、寝込むようになってからだ。


 怪我のせいか魔獣の毒のせいか、身体も口も麻痺した村長の後妻に、ルイーザが納まった。

 違うと言えず、意思の疎通もできない間に、レダは遠ざけられ、まともな世話が受けられなくなった。

 

「ルイーザや見張りの目を盗んで、レダが世話をしてくれた。村の様子も聞いた……開拓民申請の業務をスタン冒険者ギルマスから取り上げたあの女ルイーザは、高ランク冒険者とつるんで好き勝手をしたようだ」


 半年ほど前。

 こっそりと訪ねてきたスタン冒険者ギルマスは、村長に泣いて謝った。

 ギルドにたむろしている高ランク冒険者が、賞金首の盗賊団だった事。

 妻と幼い娘が、盗賊団に拉致された事。

 逆らえば、殺されると。。


「レオンさん。あいつスタンは何度も、あんたに会おうとした。けれど、見張られて隙がなかったそうだ」


 開拓民登録に行った日。

 小真希に諦めてくれと言った男が、ギルドマスターだったのか。

 そう言えば、頭の上に浮かんだ三角が、赤くなかったなと思い出す。


「盗賊団か。それは探索者ギルドに任せてもらおう。王都の本部に掛け合って、殲滅の手配をしよう。だが、どうやってスタンギルマスの家族を探すか」


 冒険者盗賊団の見張りをしようにも、ここにいる皆は顔が割れている。

 追放刑から無事に帰ったとなれば、今度は極刑が待っていそうだ。


『見張りと人探しなら、手伝ってやっても良いぞ。面白そうだし な。ぁはは』


 皆の目が、空中の一点に集中した。


「……なんて言ってるの? その、精霊様は」


 コソコソ耳元で囁くソアラに、小真希は苦笑いを返す。


「うん……なんかね、見張りと人を探すの、手伝ってくれるみたい」


 人間に興味津々な精霊なら、ひつこく……根気よく見張ってくれそうな気がする。


「へぇ〜 そう……頼もしいのね……? 」


 なんと言えば良いか困って、ソアラも愛想笑いした。

 意外だったのは、皆の期待がこもった視線に晒され、精霊のやる気が爆上がりしたことだ。


『ムフフフフ。任せておけ。逐一細かい事まで、映像を送ってやるぞ』 

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