第43話 お布団《代用品》を狩ろう

 途中で休憩を挟んだ時に、すっかり忘れていたと謝るレオンは、ギルドに預けた手荷物と武器を返してくれた。


 どうやらルイーザが、被害者への賠償金代わりに、罪人の持ち物を渡せと言ってきたらしい。

 いったい誰が被害者で、何が賠償金だ。厚かましい。


「あのアマ……すまん。あの女が領主の派遣した執行官を巻き込んで、正当化してきたからな。だが、手元に預かっていなければ、差し出すいわれもない」


 どこまでも、欲の皮が突っ張った女だ。

 これで領主までに着いたら、最悪の結果につながる。


 休憩を切り上げてしばらく進むと、後ろに付いて来る荷馬車で、疲れの取れない村長が目を閉じ、レダやマリウス、ケイロンも横になるのが見てとれた。


 多少、揺れはマシになっているだろうが、早く休ませてあげたい。


「ねぇ、ホアン。開拓地に着いたら、お布団の材料になる魔獣を、狩ってきてほしいな」


「はぃ? 」


 お布団魔獣では、分かり難かっただろうか。。

 眉間に皺が寄るホアンに、なんと説明すれば良いだろう。


「え〜とね。だからさ。ふかふかの毛皮をした魔獣を、人数分。狩ってきてくれれば、嬉しいかなっと……これから寒いし、地面にはキツいから。ぁ、料理が済んだら、わたしも参加するよ? 」


 しばし目を瞑って考えるホアンの横で、ミズリィが大あくびを披露し、ウェドは船を漕いでいる。

 心の中で、あんたミズリィもだからね。と、言っておく。


「…………了解した」


 なんとなく言わんとする事を、理解したのだろう。

 難しい顔を維持して、ホアンは頷いた。


 開拓地の入り口に差し掛かった頃に、起き出した村長たちが、目も口も開けっぱなしで、整備された景色に驚いている。

 村長は、息をしているのかさえ怪しい。


「そんな……南山脈側でも……ありえん……いったい 何が」


 凍りついているかと思えば、急にブツブツ呟き出して、危険な人に。。

 それに対してマリウスとケイロンは、目をキラキラさせて身を乗り出した。

 元々が農家の倅で、子沢山の末っ子なふたり。

 未開墾の土地を見ると、たぎる性格らしい。


「もうすぐです」


 どんどん奥に進み、やっと鍛治小屋や厩が見えてきたのは、昼を遥かに回った時間だった。


「これは 」


 石積みの鍛治小屋に言葉をなくし、快適な厩に夢中な皆を、崖に掘った洞窟住居へ案内する。

 もちろん、ホアンたち男子用の洞窟だ。

 踏み込んだ村長は呆気に取られて立ち止まり、レオンは綺麗に掘った壁やら天井やらを調べ始める。


「とにかく、村長さんたちに休んでもらいましょう」


 小真希は隣りの洞窟へ行き、赤熊の毛皮を取ってきた。

 風の当たらない隅に敷き、かけ布団がわりに分厚めのローブを渡す。

 地面に寝るより、身体は楽だろう。


「わたしとソアラは料理担当。ホアンたちは狩りをお願い。レオンさん。狩に付き合ってください。もふもふの魔獣を狩ってきてくれたら、美味しい料理をご馳走します。他のみんなは、休んでいて」


 レオンは片眉を上げただけで、出て行くホアンについて行った。

 ミズリィも、手元に戻った大剣ロングソードを撫でながら後に続く。

 いそいそと付いて行く精霊が、口角を上げて悪い顔をしている。


 ウェドとリムは、仕掛けた籠に魚が掛かっていないか、川まで降りて見に行く係だ。

 川へ降りるふたりに、黒竜猫オプトもついて行く。

 新鮮な小魚が目当てかな。

 やっぱり猫だ。


 気を遣って手伝おうとするレダを、ソアラが説得して止めた。

 今は大丈夫でも、痛めつけられた跡が完治している保証はない。

 ソアラが作った回復錬金薬液ポーションと精霊水を皆に配って、もう一度休むように勧めた。


 外で火を熾し、夕食の用意をする。

 ソアラと手分けして、大鍋ふたつに刻んだ野菜を入れ、水筒の精霊水で満たす。

 焚き火の側に二箇所ブロックを積み、その間に熾火おきびの欠片をかき集め、鍛治で作った鉄の格子を渡した。

 大鍋を乗せれば、簡易釜戸の出来上がりだ。


 ちょうど魚の籠を持って帰ったウェドとリムに串を渡し、ソアラに火の番を頼んで、小真希は森に分け入った。

 黒竜猫オプトは魚にくっついたままで、ちょっと寂しい。


  探索マップを広げ、張り巡らした結界の外まで確認する。

 方向感覚を狂わされた薄紅三角が、開拓地の入り口付近で、ふらふらと彷徨っていた。


「懲りないなぁ。諦めの悪い」


『最接近したもの薄紅赤三角から、順次ダンジョン裏側の樹海へ、強制転送しますか? Y/N」


 久々の二択に、小真希はニヤリと口角を上げ、力強くYをタップした。


Gを一匹見つけたら、三十匹は居るもんね。ヤダヤダ。殲滅ぅ)


 G薄紅三角の始末を決めて、お布団……魔獣の探索を開始する。

 目指すは大型の短毛種毛布タイプか、羊型の巻毛種もこもこタイプだ。


  しばらく前、ソアラの地所を探して分け入った奥の森には、羊型巻毛種もこもこタイプのシプレンが居た。

 大型短毛種毛布タイプのプルミーより小さいが、暖かさは上だと思う。

 プルミーは肉食系だが、宿り木の甘葛あまずらが好きなシプレンは草食系だ。


(ついでに甘葛も採集しよ。長いこと、甘い物を食べてない。頑張りまっしょう! )


 乙女に必須なアイテム甘味を思い、顔がにやける小真希だった。

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