第30話 いざ、開拓地で下準備です(改)

「コマキィ……鍛治の技能スキルを持っていても、女の細腕で打てるの? それより、場所の確保は無理だわ。たぶん誰も、貸してくれないよ? 」


 面食らったソアラが肩を落とし、淡々と諭してくる。

 確かにダンジョン周りの鍛冶屋で、大切な炉を貸してくれるような奇特な鍛治師はいないだろう。

 鍛治師にとって、鍛治場は神聖な場所だ。


 ミトナイ村にも一軒だけあるのだが、生活雑貨の鍋や包丁が専門で、武器は扱っていないとソアラは言った。

 見知らぬよそ者で、ぽっと出の探索者には、なおさら貸してくれないとも。。


「……開拓地に帰れば、なんとかなる……と思うのだけど」


 サバイバル技能スキル機能? が、できると言うなら、開拓地で鍛冶場を造れば良い。

 まるっきり技能スキル任せの丸投げだが、もともと物作りは好きな小真希だ。


 戦闘系や、ウェブで知り合った仲間と冒険するゲームはしなかったが、ひとりでコツコツする開拓や農園のゲームにハマって、珍しくやり込んでいた。


 実際は違うだろうが、ちまちまと何かを作る根気は人一倍だと思う。

 イベントの会社に勤めたのも、小物や衣装の製作が大好きだったからで。。


「コマキィさん。僕らは開拓地に、入れなかったのです。入り口から地所へ向かうあいだ、とんでもなく荒れ果てていました。道を造るだけで、何ヶ月かかるか……あれを切り開くなんて、無理です」


 努力はしたのですよと言うウェドに、ちょっと言い辛い。

 あの藪の塊に挑戦してダメだったのだ。お疲れ様と労ってあげたくなる。


「コマキィさんは、開拓地に行ったのですか? 」


「ええ、まぁ……」


 小真希の返事に、疑問符を浮かべたホアン。


(整備しましたよ。なんて、ね……言い辛いわ)


「入れなかっただろう。自分たちでも無理だったのだからな」


 どや顔のミズリィにイラッとするが、やんちゃ坊主に見えてくるのはなぜだろう。

 俯いて考え込んでいたウェドが、決意を込めて顔を上げた。


「探索者ギルドの依頼は受けましたが、ちゃんとした武器がなければ、下層には行けない。税を払うのにドロップ品を稼ごうにも、武器がいる。武器を整備するには、開拓地にゆく必要がある。なら、みんなで、行くしかないよね」


「それは……」


 嫌そうなミズリイと、言葉を飲み込んだホアン。


「個人的な好き嫌いなんて、言ってる場合じゃないと思うけど」


 なんだか聞き捨てならないリムの発言は、無視しておこう。


「わかりました。危険は伴いますが、彼女たちにもを共有してもらいましょう」


 秘密を明かす緊張感で深刻なホアンには申し訳ないが、危険な近道はと言いたい。


「えぇっと、危険なんですよね。わたしたち、か弱いんですが」


 小真希の発言に、なんとも言えない顔をする面々。

 懸命に目線で訴えるも、目を逸らされた。

 何故に。。


 部屋に入ってからずっと、小真希の人差し指を咥えて授乳授魔力している猫? も、非難を込めて見上げてきた。


(あれぇ? )


 近道が安全なら良いが、森を迂回する街道を徒歩で行っても、小真希の地所まで一日半で到着できる。

 森とは違い、手強い魔獣に遭遇する危険もないし、念の為と思い、街道も途中の野営地跡も、出来るだけ目立たないよう綺麗に整備しておいた。


 安心安全をモットーとする小真希は、たとえ近道でも、危険の中で野営するかもしれないルートは遠慮したい。


「魔獣の危険はありますが、近道を行けば一日もかからず到着します」


 ホアンが開示した近道は、小真希が辿った森林地帯の獣道と重複した。

 あの時に見かけた魔物除けモルネリ草に覆われた小屋が、山脈越えのダンジョンに降りる入り口だそうな。。

 自慢げなホアンに希望的観測と、突っ込みを入れたくなる。


「うまくすれば一日で、開拓地側の高台に出られます」


 行程が一日なら、ダンジョンで過ごすのは半日くらい。

 うまくすれば一日で、下手を打てばダンジョン内でもっと掛かるだろうに、言葉を濁しているのが胡散臭い。


「あの……」


 遠慮がちに手を挙げたソアラが、恐る恐る声を上げる。


「ギルドで荷馬車を借りるのは、ダメですか? 街道を使えば、半日もかからず開拓地に着ける距離ですけど……」


「それ。賛成で一票! 」


 大きく手を上げた小真希に、皆が目を向ける。


「貸し荷馬車代は持ちます。できるだけ生活用品を揃えて、行きましょう! 荷物の運搬には必須です」


 収納袋インベントリがあるだろうと言われる前に、言い募る。

 ものすごく勝手な言い分だが、徹底的に危険は避けたい。


 次の納税まで、約二週間。

 今日明日に、小真希が食料やら雑貨を仕入れているうちに、ソアラはギルドの個室を借りて、体力回復の錬金薬液ポーションを作ることになった。

 ケイロンとマリウスに頼んで、レダ村長の娘に渡してもらう算段だ。


「無いよりマシでしょ。村長に何かあったら、みんなが困るしね。頑張るわ」


 自力で錬金薬局を経営していたソアラは、とてもとても前向きな女の子だった。


******

「……もの凄く街道が、きれいなんだが……」


 非常に胡散臭いと、ミズリィがつぶやく。


「まさかとは思いますが、最近の工事でしょうか……」


 疑問で仕方がないホアンの呟き。小真希をまじまじと見つめるリムの視線を、痛いほど感じる。

 無視できずに目が合った小真希は、ちょっと肩をすくめて見せた。


 探索者ギルドで借りた荷馬車をソアラがぎょして、あとのメンバーは荷馬車の両脇を、徒競走並の速度で進んでいた。

 元々が農耕馬だった馬は、走るより歩くのが得意らしい。。

 均一に慣らされた街道を軽快に


 全く整備されず凸凹でこぼこだった北山脈側への街道を、小真希はきれいに整えながら村に帰った。なので、バレないかと冷や汗をかいていた。

 それでもできる限り涼しい顔を装って、皆の疑問を無視する。

 内心は、やり過ぎたと反省してやまない。


「この分だと、もうすぐ開拓地の入り口に着けそうね」


 お尻への衝撃が少ない分、ソアラは細かい事に目を瞑ると割り切ったようだった。


 天頂の太陽が心地良く空気を緩めて、いい気候だ。

 開拓地への入り口が見え始めたところで、止まっている一台の馬車が目に入る。

 頑丈な大型の幌馬車だ。

 御者台の男が、乗り出すように山奥へと続く道を覗いている。 

 横切って奥へ入ろうとする小真希たちに、慌てて声をかけてきた。


「突然に、ご無礼いたします。わたくし、パレイのアカルパ商会の者で、レーンと申します。お尋ねいたしますが、この先に村でも開かれましたのでしょうか」


 パレイは、ジン皇国との国境にある辺境伯の領城街だ。

 アカルパ商会は老舗で、希少な薬草を売買するソアラが知っていた。


「北山脈側の、新しい開拓地です。今から開拓にかかるので、まだ人はいませんよ」


 当たり障りのない挨拶はソアラに任せる。

 レーンは王都への行商の帰りに、一度下見をしに開拓地へ寄ると約束した。


「誰かが地所にいる時は、入り口の看板に旗を立てておきますので、目印にしてください」


 ソアラの提案で、一番最初に作るのが、開拓地の目印になる看板と決まった。

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