第29話 普通の武器だと言うことで(改)

 一階層では、ある程度の小物を狩ると、数分間は魔獣の湧きが止まる。

 辺りに湧きだす小物がないか確かめて、見学している集団へと帰った。


「何なんだ、この猫は。魔獣か! 」


 騒がしいミズリィだ。

 小真希もびっくりしたが、子猫の攻撃魔法くらいで文句を言うなんて。と、無視する肩を掴まれた。


「痛いんですけど。離してくれます? 」


 勝手に触るのは、無神経だ。すぐにホアンが間に入った。


「いい加減にしろ、ミズリィ。女性に対して失礼だ」


 ハッと我に返って、ミズリィは体裁を整える。

 動揺しているのは見え見えで、ちょっと笑えた。


「まずまずか。この程度なら、子供でもできるがな」


 面白くなさそうなミズリィに、小真希は肩をすくめ、セレナは笑いをこらえて視線を逸らした。


「次。あんたたちの番」


 嫌そうに顔をしかめたミズリィからホアンに目線を移し、小首を傾げてみせる。

 空咳をしたホアンは、気まずく目を泳がせた。


「お互いに力量を見せ合うのよね。違った? 」


 なんだか様子がおかしい。

 腰から下げている武器は、探索者ギルドの貸し出し品で、本来の力量は発揮できないのかもしれない。それでも、一階層の討伐を言い出したのはホアンだ。


「使い慣れた武器でなくても、一階層の桁くらい稼げるでしょ? 」


 おおげさなため息を吐くホアン。唇を噛むミズリィ。


「すみません、コマキィ。たかが一階層の小物でも、アレはない」


「は? 」


 意味がわからない小真希とソアラに、ウェドは薄く笑った。


「僕たちはコマキィのように、レアな武器は持っていません。だから、一階層といえども、あなたたちのようにドロップ品は稼げない」


 真面目なウェドの言葉に、タラリと冷や汗が流れる。


(まさか、やり過ぎた? でも、どこが)


『はははっ、物知らずめ。神銀アダマンタイトの武器など、国宝級だ』


 満足げな精霊の大笑いに、小真希は固まった。


「マジで……」


「はい。マジです」


 精霊に言った言葉を捉え、律儀に答えるウェド。

 知らなかったと反省する小真希に、ホアンは軽く頭を下げた。


「すまなかった。あなたたちを侮ったのは、わたしの責任だ。申し訳ないが、一度上がってダンジョンを出て話し合いたい」


 ダンジョンを引き返すあいだ、小真希はいろいろと考えた。

 開拓地の税金は、今のところ払うしかない。けれど、税金分をドロップ品で稼ぐには、武器が貧弱なようだ。

 おまけに指名依頼をこなすのに、中層以上の階層に潜る必要がある。


(詰んだ? )


 小真希ひとりで潜ったほうが、効率はいい。


(でも、精神的に……きつい)


 サバイバル技能スキルを発動すれば、いくらでも誤魔化せる。ただ、無意識で積もってゆく精神的な疲れは、小真希の心を弱らせた。

 このままの状態では、いずれ身体にも歪みが出るだろう。


 ソアラという友達ができた今の生活を、失うのも苦痛だ。

 利害関係であっても、味方的な存在は欲しい。


(……そうだ。自分たちの武器は、壊れたって言ってたっけ。なら、修理できるかな)


『どんな武器でも、修理可能です。なら、付与も完璧です』


 ありがたいアナウンスに、先が見えた気がした。


(でも、修理させてくれるかな? )


 当面の障害は、きっとミズリィだろう。


(なら、ウェドから攻めていけば、できるかも……ん? マスター)


 いつからマスター呼びになったのか、小真希ははっきり覚えていない。


 ダンジョンへ向かう人並みに逆らって、朝食を摂った食堂の個室へ入る。

 四角いテーブルを囲んで、小真希は真っ先に武器の話を振った。


「ちょっと聞きたいのだけど、壊れた武器って、今どこにあるの? 」


 ウェドの顔だけを見て、他には聞いてないとアピールする。


「……ぁ、その。持っています」


 腰のポーチをちらりと見て、言いにくそうだ。


「それ、収納袋インベントリ? 」


 一瞬にして、部屋の空気が冷えた。


「それって、珍しいの? 」


 気配にびっくりしているソアラ以外、警戒心を露わにする皆に向かって、小真希は不思議そうに問いかけた。


「ええ、まぁ……貴重品です。まったく無いわけではありませんが」


 おかしな空気になって、少し気まずい。 


「うん、気にしないわ。わたしも、持ってるから」


 再び空気が張り詰めて、そわそわしたソアラに袖を引っ張られた。


「コマキィ、それ、滅多にないから」


「へ? 」


 それから懇々こんこんと、皆の説教が始まった。


 収納袋インベントリを持っていると知られたら、ぜったいに襲われるとか、危機感が無さすぎるとか、小物でも魔獣を両断できる武器は高価だとか、なんとかかんとか。。


「それにコマキィさん。あなたの武器って、材質は何ですか? 見たところ、たいへん希少な金属だと思うのですが……」


 ウェドの質問に、ギョッとした。

 精霊が言っていた国宝級の神銀アダマンタイトだと、答えられない。


(なんか状況が、思ってたのと違うぅ)


 なぜにやり込められているのだろうと、心が逃げて行く。


「コマキィ。白状しなさい。わたしに貸してくれたメイスと腕輪だけど、材質は何なの? 」


 ソアラが、鬼に見えた。


「えっと……戦略的な秘密? 」


 しらっと、場の音が消えた。


「乙女の恥じらいで……言えない……」


 互いに見交わした後の、集中的な視線の束が、いたたまれない。


「ごめんなさい、嘘です。でも、言えません」


 揃ってため息を吐かれたが、異世界から召喚されて色々あって、大地の精霊を捕らえていた守護者ガーディアンを倒した素材ですなんて、とてもではないが言えない。

 どう転んでも、信じてはもらえないだろうし、せっかくできた友達を失いそうで怖い。


「……話せないなら仕方がないと思うのですが。ホアンさんは、それで良いですか? わたしはコマキィの友達ですから、話せないことをとやかく言いません」


 少々やけっぱちな言い様だが、ソアラの友達発言はうれしい。


「……そうですね。普通の武器だ思っている分には、良いかと……」


 ホアンは無理やりひねり出した結論を、まわりにも自分にも言い聞かせるように締めくくった。


「それで、コマキィさん。なぜ壊れた武器のことを、聞いてきたのですか? 」


 最初に返って、小真希の質問を掘り返したのはウェドだった。

 追求されて忘れていたが、修理目的で聞いたのを思い出す。


『マスターは、鍛冶の技能スキルを持っています。サバイバル技能スキルのひとつです』


 アナウンスはアシストか? 。。


「直せないかと、思って。信じてくれないかもしれないけど、鍛冶の技能スキル持ちなのよ。わたしって」


 またもや空気が凍ったのは、なぜだ。。

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