第26話 とんとんと 話しが決まり……(改)

 銀貨十枚。銅貨で百枚。小真希的には、十万円だ。

 前の世界の月給からこんな高い税金を取られたら、生活できない額だ。


「こんな高い税金を、毎月……めちゃくちゃだわ」


 それでも今の小真希なら、軽く払える実力がある。

 一ヶ月で銀貨十枚十万円。銅貨で百枚十万円

 駆け出しの探索者とか、開拓初心者とかであればキツい税額だ。


 開拓地を発展させて充分な収穫を得るまで、ダンジョンの収入は頼みの綱だが、これではいつまでたっても肝心の開拓は遠い。


 ダンジョンの収入さえあれば、無理に開拓などしなくても生活は安定する。が、ここでは開拓地を確保しないと探索者ギルドの資格がなくなり、この土地を去るか、冒険者ギルドに頼るしかない。


 他所のダンジョンに移るため、開拓地を返上した時点で、探索者の資格を失う。

 領主の救済処置が土地に住民を縛り付ける領法なのか、足枷なのか。。

 一度ルイーザを振ったホアンたちが、取り巻きの冒険者になって尻尾を振るはずもないだろう。


「ここを離れたら、戸籍がなくなるんだった……」


 エリンの身分証明書は、おそらく破棄されている。

 生まれ故郷に帰れば再発行してもらえるが、役所で調べて祈りの乙女になった記録があると、なかなか面倒くさい事態になりそうだ。それに、遠すぎて帰れる気もしなかった。


「かと言って、ぼったくり女のいるギルドなんか論外だし」


 開拓地を返上して、冒険者ギルドに席を置く。。


「……ぜったいに、無理」


 冒険者ギルドのカードがあれば、国内を自由に移動できる。

 高位ランクの冒険者になると、国境を越える資格もあると聞く。


「でも、ルイーザが変な噂を他領のギルドに流したら、きっと生きていけなくなるわ。ほんと、やりかねないよね……」


 小真希にとって、探索者ギルドのカードは、なんとしても失効させたくない物だった。

 ぶつぶつと、ひとりツッコミで遠い目になる小真希だ。


「村長が健在だった頃は、開拓地で収穫した農作物の半分を、収めれば良かったのよ。畑仕事のできない季節にダンジョンへ潜れば、食べていけるだけの収入はあったし……魔獣氾濫スタンピードのあと、ルイーザが村長代理になってから、どんどん要求がむちゃくちゃになって……」


 ソアラの説明で、やっぱり元凶はルイーザかと、誰もが思った。


「開拓当時からいる元々の村人には、ルイーザも強く言わない……南山脈側の開拓民は、従来通りの税率しか適応されていないわ」


 南山脈側の入植者は、高齢の者とその家族、親類縁者が多い。

 まだ若いルイーザには、苦手な長老格が多くいる地域らしい。


「新規の開拓者は、たいていルイーザに嫌気がさして、村を離れるの。居つくのは、たちの悪い者か癖の強い者ね」


 ソアラが言う通り、冒険者ギルドの男たちを思い出せば、なるほどと納得した。


「今のところ、税制を改革させるのは無理だと分かった。なら、当面の対処を考えようと思うのだが……ダンジョンの稼ぎを上げるしかないのか」


 ホアンの発言に、雰囲気が落ち込んだ。

 なぜだろうと見回した小真希は、苦笑するウェドに小首を傾げる。


「なにか変ですか? コマキィさん」


 ホアンやミズリィの体格を見れば、かなり戦えるだろう。


「魔獣と戦う力はありますが、ぼくたちには武器が無いのです。無いというより、手に馴染んだ武器が壊れてしまったので……」


 口に出さない疑問を拾って、ウェドは率直に答えた。


「ホアンとミズリィは剣を、ぼくは風属性の魔法を、リムは水属性の魔法を使えます。あまり威力は期待できませんが……武器は探索者ギルドで貸し出してもらえるとして、どこまで収入を上げられるか。ぼくたちの問題はそこなのです。お察しの通り、ここを離れられない理由が、ぼくたちにはあります」


 部屋にいる全員から見つめられ、小真希は引いた。


「そこでコマキィさん。かれらとパーティーを組んで、下層の攻略依頼を受けてもらえますか。もちろんギルドからの指名依頼です」


 良い笑顔で話しを締め括ったライランが、とっても怖いと思った。


「探索者ギルドとしましても、この度の村長代理が起こした行動は、いささか眼に余ると判断いたしました。皆さまには納税の実績を積んでいただき、無茶な増税額の証拠として、探索者ギルドへ提出していただきたいのです……ご理解、いただけましたでしょうか? 」


 期待のこもった視線が、ザクザクと小真希に刺さる。約一名を除いて。


「よろしくお願いします。コマキィさん」


「なっ! 」


 頭を下げるウェド。足の甲を力一杯踏まれて、呻くミズリィ。素知らぬ風に、ぎちぎちと踏み続けるホアン。とりあえずウェドを見習うリム。

 カオスか。。

 こんな状態は居心地が悪い。

 ぜんぶまとめて放り出したくなる小真希に、留めとばかりソアラが頭を下げた。


「お願い、コマキィ。わたしもメンバーに入れてください」


 厄介ごとは、ごめんこうむりたい。でも。。

 ひとりきりで頑張るのは、心が限界にきていた。


「……わかった……でも、リーダーになるつもりは無いわ」


「当然だろう、小娘。平民がっ」


「黙りなさい、ミズリィ。コマキィさんに無礼は許されません。いいえ、わたしが許しません。控えなさい」


 高飛車に言いつのるミズリィは、ホアンの命令? に姿勢を正した。

 足を踏まれながら毅然としても、小真希は笑いを堪えるだけだ。


「色々と御不審な点はあるでしょうが、不問に付していただければ……」


 ライランとは毛色の違うホアンの押しの強さに、頷くしかできない。


「最年長はホアンさんですし、今回はリーダーをお願いします。それでは、ギルドからの指名依頼が受理されたと、判断してよろしいですね」


 体良くライランにまとめられた気もするが、小真希とてややこしい役回りは遠慮したい。


「では、細かい打ち合わせは明日にして、今日は解散いたしましょう。宿の手配がお済みで無いなら、ギルドの宿泊施設をお使いください。ここで手配いたします」


 にこやかなライランに、小真希が恐れ慄いたのは、内緒だ。

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