第23話 発見! でも秘密ぅ(改)

 あれやこれやと地所を弄り、やっと満足した小真希は、腰に両手を当てて辺りを見渡した。


「やっちゃるぅ! 」と叫んでから五日。


 元からあった三段の段々畑を造成。ついでに谷底の岸辺まで階段を整備して、漁師小屋と、水流を利用した罠を造り上げた。

 流れの一部をだんだん細くなるように引き込んで、生け簀に入ったら出られないように細工した。


(ありがと、サバイバル逆境を生きる処世術。アリガト、ウル覚えの某番組……)


 澄んだ渓流には、泥臭さのまったく無い川魚が数種類いる。

 うっすらと塩を振った焼き魚は、絶品だった。

 使っている岩塩は、小真希の地所より奥にあるソアラの地所で見つけた。


 自分の畑を開墾する前に、ソアラの地所まで道を造ろうと思い立ち、丸二日がかりで切り開いてみれば、まったく人の手が入っていない岩場だった。


 渓谷の源泉からは大きく逸れて、ダンジョン側に近い山脈の中腹。

 台地になった場所が、ソアラに割り振られた地所で、まったくの未開地。

 確認の調査隊すら入っていないと思われる。それよりも、魔獣の脅威で入れなかった空白地帯だろう。


 草の一本も生えない、荒涼とした水たまりの台地。

 ところどころに顔を出す白い大岩と、白く脆い無数の塊。。


「きっと適当だ。地図に丸を付けた場所。ぅん、嫌がらせよねぇ」


 鑑定してみれば、塩原の文字が出た。


「ぜったい、受付女ぼったくりには、教えてやらない」


 せっかく拓いた道を「時戻し」で元通りの樹海に還し、小真希の地所の奥端に、ソアラの畑を開墾した。

 谷側に石を積み、崖を削って出た土を入れる。

 どうにか拓いた地所は、狭いながらも形がついた。

 きっちり魔除け草モルネリ草を植え、崖を掘って洞窟住居も造っておく。


「水は、まぁ、後でいいか」


 これでもし誰かが来ても、ここから奥へは入れない。

 ひと仕事終えた満足感に小真希の笑顔が黒くても、誰も見ていないから良しとしよう。


「一儲けの、予感? 」

 取らぬ狸が妄想に浸っている間に、焚き火で炙る魚から焦げ臭い匂いが。。


「ぉとと。危ない危ない」


 探索者ギルドで買った塩は、高級品に近い値がした。

 海が無い領地で、岩塩の土地柄でもなかった今まではため、塩は貴重品だ。


「用心して、横取りされないように。口の軽いおバカなは、特に要注意……だよねぇ」


 調子よく笑うマリウスを思い描いて、小真希は苦笑した。

 一昨日で、持ってきた食料が尽き、角鳥や飛び兎を狩って調理している。

 野外での簡単な焚き火料理だが、けっこういい感じだ。

 昨夜も生け簀に入り込んでいた川魚を、塩焼きにした。懐かしい味に、じんわり目が潤んだのは忘れよう。

 贅沢して作った沢蟹のスープは、塩だけでも素材の旨味は絶品で、冷え込む夜には最高だった。


 朝食に焼いた魚も、すごくうまい。

 自慢の早食いで、あっという間に食事が終わる。


「さぁてと、そろそろ帰るかな」


 開拓に手を取られ、思ったより日数を費やした。そろそろギルドに顔を出して、生存証明をしておこう。

 ソアラの洞窟住居の横に、小真希の住居も掘っている。

 だいたい十畳くらいの土間だ。

 今は何もない伽藍堂がらんどうで、自宅を主張するのに、蔦で編んだ扉を立て掛けておいた。

 女ふたりの生活を考えて、隣同士にするほうが安全だと思う。


「盗まれる物なんてないし……ま、いいか」


 おいおいに洞窟を広げ、上の高台に登る隠し階段をつけよう。

 下準備は、充分に整った。……たぶん。。


「さてと。身体強化なしで、ダンジョンまで何日かかるか、きっちり測ろうっと」

 

*****

 早朝に地所を発ち、街道の途中で野営して、遅い昼にダンジョン横の探索者ギルドまで帰ってきた。


(一日半? まぁ二日ってところかな)


 身体強化をしなくても、平地を走るのは案外楽だった。

 もう少し余裕をとっても良いが、二日で片道は遠いと思う。

 久しぶりのギルドに入った途端、聞きなれた悲鳴? 怒声? に、顔が引きつる。


 受付カウンター前の開けた場所で、マリウスがコアラ状態で叫んでいた。

 ごっつい、汚い冒険者が抱える鞄に、根性でしがみつくマリウス。


「何やってんだか……ん? 」


 男が抱える大きな鞄には、見覚えがある。


「あれって、ソアラの……」


 思った時には身体が動いていた。

 マリウスを振り払おうと鞄を振り回す冒険者の膝裏を、ちょんと蹴ってやる。

 小真希の思い通りに体勢を崩して鞄を放り投げた男は、凄まじい表情で振り返った。


「なにしやがるっ! 」


「いやぁーん。こわぁぁい」


 掴みかかってきた腕を取り、足払いと共に綺麗に回転させて、腰から床へ落とす。 


(ポイッとな。手加減はいたしませーん)


 首から落とさないだけ、感謝してもらいたい。


 耳障りな濁音でうめき声をあげた冒険者に、お仲間が駆け寄った。

 こっちもえらく汚い。風呂に入れと言いたい。


「てめぇ! 慰謝料だっ。白金貨一枚だっ! 」


 幼子の手のひらくらいの白金貨は、だいたい百万円相当で。。


「やだぁ、暴力ふるったのは、そっちよぉ。怖かった慰謝料に、払ってよね。白金貨二枚! 」


「ぐっ くっそあま ふざけんな! 」


「ふざけているのは、おまえだ」


 響き渡る落ち着いた声に、人垣が割れた。


「探索者ギルド内で起こした騒ぎは、ギルマスの管轄だ。捕縛して叩けば、いろいろ面白い埃が出そうだな」


 虚無な笑顔が怖いギルドマスターレオンに、が食ってかかる。


「こいつが暴力をふるったんだ! 落とし前をつけろっ」


 小真希と男を見比べて、レオンギルマスは肩をすくめる。


「傍観していたお前ら。のは、どっちだ? 」


 先に足を出したのは小真希だが、先に手を出したのは冒険者の男だ。

 周りを囲んだ探索者は、いっせいに冒険者を指差した。


「てめぇら! くそったれがっ」


 腕を組んで立ちはだかったレオンは、面倒くさそうに鼻を鳴らす。


「で? 何の用だ」


 床に転がっていた男も、腰を押さえながら立ち上がる。


「そいつの納税額が不足してるんで、ブツを押収しに来た」


 腰を押さえる男が指差したのは、ソアラだ。


「北山脈側の開拓者は、納税額が変わった。今までは月に銀貨五枚だったが、今月からは銀貨十枚だ。ゴブリンの魔石なら、四百個で勘弁してやる」


「銀貨十枚って、金貨一枚じゃないか」


 誰かがポツリとこぼした言葉に、どよめきが広がった。


「ダンジョン産のゴブリン魔石は銅貨一枚。百個あれば金貨一枚だ。四百はぼったくりだろう」


 レオンに突っ込まれて、首を傾げる冒険者

 計算できない馬鹿かと言いたい小真希だが、あの受付女ぼったくりならふっかけそうだと思う。


「とにかく、そいつのブツは押収する。銀貨五枚分にまけてやるんだ。さっさと渡せ」


 勢いよく突き出した手に、小真希は銀貨五枚を押し付けた。


「銀貨五枚。領収書ちょうだい」


「はぁ? なっ! 」


 手の中の銀貨と小真希を交互に見比べる冒険者に、追い打ちをかける。


「領収書。受け取りましたって、書いて。拇印ぼいん押して」

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