第22話 辿り着いた 拠点(改)

「洞窟? 」


 崖下に道を造りながら、山奥を目指す。

 整地して最適な状態を保つには、ぶらぶらと散歩程度の速度が良いらしい。


 今日で二日。

 五つ目の地番に辿り着いて、強化を掛けていた崖に、人工的な洞窟を見つけた。

 用心して中を改めたが、生活の痕跡はあるものの、分厚い埃に塗れ、長い間放置されているようだった。

 岩に刻まれた地番は小真希の地所の隣りで、少し登れば目的地に着くのだが。。


「んー、今日はここまでかな」


 山脈のこちら側は、日暮れが早い。昼はとうに過ぎて、夕方が近かった。

 無理に進めば、途中の山道で日が暮れる。

 地番の刻まれた崖がある場所は、どこもわずかに整地されていて、野営するには都合が良い。


「あー お風呂に入りたい」


 洞窟内に散らばる小岩で釜戸を組み、歩きながら拾った枯れ枝に火をつける。

 水筒から新鮮な水を小鍋に入れて、釜戸に置いた。

 今夜も丸パンに野菜と削ぎ肉を挟んだ、サンドパンだ。

 水が沸騰するのを待っている間に、濡れタオルで顔と手を拭う。


「全身くまなく【洗浄クリーン】」


 洗浄魔法を使うなら、べつにタオルで顔を拭う必要はない。そんな事を精霊に言われたが、気持ちの問題だ。


 道を造りながら歩くだけの小真希に付き合って、居眠り精霊は器用についてくる。

 今も仰向けに寝転んだまま、ふよふよと浮いていた。


「ここには、どんな人が居たのかな。諦める時は辛かったよね、きっと」


 沸騰したら火から下ろし、そのまま小鍋に安い茶葉を振り入れる。

 踊っていた葉が落ち着いて上澄みを移したマグのお茶は、結構良い感じの味がした。


「おいしい……それにしても、しつこいな……まったくう」


 常時展開しているマップに、移動する赤三角が三つ。。


「諦めの悪いのがいるねぇ」


 展開したそれマップには、森の中を彷徨う赤三角がある。

 探索者ギルドを出た時点から、ずっと追跡されていた。

 道の造成を見られたくない小真希は、精霊の眷属を使役して、ダンジョン側の迷いの森へ誘導してもらった。

 村へ帰ろうとするなら、迷わず街道に行き着きくはずが、いまだに迷っているから、諦めずに小真希を探しているのだろう。


(ほんと、始末に終えない)


「いい加減に諦めて、ミトナイ村に帰らないかな……めんどくさい」


『了解しました。眷属の妖精に命じて、即刻追い返s……帰還を促します』


 小真希のどこに反応するか判らない技能スキルに、思わず悪い笑みが浮ぶ。


「ありがと…あー、もう寝るわぁ〜」


 歯磨き代わりに洗浄クリーンをかけ、マントに包まって目を閉じた。


 最近は朝が早い。

 一日中歩いて、適度に食事。夜はテレビもないので、即就寝。

 これの繰り返しで、夜明けと同時に目が覚める。


「んー、おはよー」


 実に健康的な毎日だ。

 宙に浮いたまま眠っている精霊に声をかけるが、むにょむにょと何事か呟いて寝返りをうたれた。

 精霊には睡眠が必要なのか。。

 そういえば大地の精霊は、ビックリするほど長い間、眠っていたような。。


(眠るのが仕事? )


 欠伸を噛み殺しながら熾火おきびをかき回し、小枝を乗せる。すぐに大きくなった火に、小鍋をかけて湯を沸かした。


「結構、冷えるようになってきた」


 日中は心地よいが、朝晩が冷え込む。

 熱いお茶と丸パンでお腹を満たし、目的地を目指して立ち上がる。

 昼前には、小真希の地所へ着けるだろう。

 昨日と同じ速度で、踏み出した。


 崖下の獣道が、ゆっくりと舗装されて道幅を広げ、強化された崖に魔物除けモルネリ草が繁茂する。

 何日も続けて見る風景だが、ちっとも飽きない。

 崖を覆い尽くしてゆくモルネリ草で、鼻がスウスウするのにも、いい加減耐性がついた。


「ぅう、でも……寒い」


 鼻が冷たく感じる魔物除けモルネリ草のせいばかりではない。実際に季節は、秋に向けて変化している。


「開拓しても、本格的な作付けは来年かな……」


 寒い間はダンジョンに籠って、税金対策で一杯一杯になりそうだ。

 つくづく受付女ぼったくりの悪辣さが、腹立たしい。


「ほんと、いつか絶対に、ギャフンと言わせてやるんだから」


 開拓が捗って助成金制度の適用から外れた納税額が、正規の額になった時、ギャフンと言うのは小真希だと思うのだが、面白いことを期待する精霊が黙っているのを、本人は知らない。


 太陽が天頂にかかるまで、ゆっくり道を造成しながら歩く。

 獣道がしっかりした舗装路に仕上がった先で、やっとこさ待望の地所に到着。

 崖を崩したり石垣を積んだり、段々畑を造ろうとした努力の跡がみえる場所へ、踏み込んた。


「……ものすごく、頑張ったんだろうな……」


 通り過ぎてきた地所と比べ、格段に開拓状況が良い。


修復リペアか時戻りか……どっちがいいかな」


 この辺りの谷は深い。

 三段ほど石積みした段々畑には、びっしりと雑草が生い茂っていた。

 傾斜した畑の端に、谷底へ向かって水路らしき溝があり、それぞれの畑へ水が流れている。

 水路を辿れば、崖の途中から滲み出した清水を見つけた。


「水の確保までしてたのに、続かなかったんだ……」


 相当な横槍が入ったのかも。。


「ますます許せんわ! やっちゃるやってやる。速攻で開拓やぁ! 」


 燃えに燃えて? サバイバル全開の小真希。


『了解しました。最適な状態まで時戻りし、崖部分を強化。谷底までの階段と、岸辺を整備し、食料川魚など調達を可能にする設備を加工クラフトにて創造します』


「…ん? ……そうぞう? って……」

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