第16話 追跡は、命がけだってば パート2(改)
獣道から北に入って、赤点を目指す。
「居た」
優雅に食事中のところ、ミニ
野生だから油断はしていないと思うが、あの体重で驚異的なジャンプを披露してくれた。
振り向いた奴としっかり目が合った途端、地面を抉り込んでダッシュしてきた。
追ってくる
身体強化に馴れた身体が、羽のようだ。
「さぁぁ、しっかりとついて来なさいぃ」
ダンジョンがある山の中腹より後方は、尾根の絶壁に突き当たるまで、樹海が広がっている。
そこは、驚くほど豊かな森だ。
尾根を越えた向こうにある開拓予定地より、この高台を開墾する方が利益を生むと思う。けれど。。
マップに映るこの森は、浅い谷が波打ちながら登る複雑な地形だった。
これらの低い尾根を崩し、浅い谷を埋め、さらに露出した岩を粉砕するか、移動するなどできれば、豊かな土地にはなる。
豊かにはなるが、住処を追われた魔獣との争いを、人は勝ち抜けるだろうか。
一頭でも強大な力を有する魔獣。それと戦うのは、弱小の人の手に余る。
ドラゴンの尾を踏む愚か者はいない。
はからずも小真希は、ダンジョン最下層で踏み抜いたが。。
(すごい魔獣の数)
身体強化で駆け抜ける小真希の周りは、小物から大物までの魔獣が
太い帯状で広がる高台の森林地帯は、土地の高低差が微妙で足場が最悪な樹海だ。
食料になる果樹の多さに驚くが、小動物の繁殖状況にも驚く。
食物連鎖が完結している地域なのだろう。
(獲物を追って、大型の魔獣が里へ降りる心配がないんだ)
エリンの記憶より、サバイバル
展開したマップの端に映り込む、高台の中央奥。
尾根に埋まる形で、物凄く大きな赤点が鎮座していた。
(んん? マップの範囲が、とっても広がっている件について、答えはくれるのかな? )
しばらく待つが、返事はない。
(ま、いいか。あんな怖そうな赤点には、会いたくない。もうすぐ赤三角と合流するし……)
軽快に駆けながら、小真希は猛り狂う赤点を誘導した。
*****
追跡してきた赤三角のうち、ひとりが立ち止まった。
つられて他の赤三角も、立ち止まる。
「魔力切れかよ」
魔力切れの兆候もない【探知】持ちの赤三角が、首を傾げた。
「おかしい」
首を捻る赤三角に、別の赤三角が注意を促す。
「引き返そう。嫌な勘がする」
この赤三角は、【危機察知】の
「わかった。引き返そっ」
もうひとつの赤三角が指示を出す前に、目の前の藪を突っ切って、大猪が飛び出してきた。
直進する牙に引っ掛かった【探知】持ちの赤三角が、勢いのまま吹っ飛んで行く。
「にげろ! 」
二方向へ散った赤三角の片方が、大猪の獲物と認定された。
枝にまたがった小真希は、真下の【探知】赤三角を鑑定して、
さっき気づいたが、
思い立ったらなんとかで、真下には練習材料がいる。これを逃す手はないと、わくわくしながら木の上から発動する。
「【
変な風に曲がった腰が、ムクムクと元の形に戻っていく。
瀕死で気絶しているはずの赤三角が、
どうやら元通りになる過程で、受けた痛みがぶり返すのかも。。
(でも、人命救助)
時戻りなら簡単に行える治療を、続行して完治するまで
(ぁ…違った。やり終えるね)
意識の無いまま【探知】赤三角は泡を吹いたが、鑑定して無事の確認は行った。
マップに、逃げて行った赤三角ふたつと、赤点が見える。
赤点が止まっているのは、たぶん餌を仕留めたからで、動いている赤三角ふたつが、ミトナイ村方面に走っていた。
(よかったよかった。みんな無事で)
赤点を誘導しなければ、下で寝ている【探知】赤三角も無事だったわけだが、北の開拓地への道は教えられない。
知らないものは教えられないけど。。
(まぁね、どこにあるのか教えてもらえなかったし。自分の開拓地へ行くには、自分で道を開かなきゃ、いけないのかもしれない)
敵にやすやすとバレるような道なんて、ダメに決まっている。
小真希の地所は一国一城。防衛戦は、きっと正義だ。
「よし、納得した」
自己承認して枝から飛び降りた小真希は、青い安全進路が示す表示に従って、森の奥へと入って行った。
高低差のある森の中は、ギザギザとアップダウンに富んでいて、急峻な尾根に向かい登りが続く。
だいたい高台の中頃かと思う場所で、人の手が入った区画を見つけた。
戸建てくらいの空き地の中心で、草の塊に見える丸木小屋。
切り開らかれた地面には、雑草がぼうぼうで。。
(って……なに、この匂い)
ツンとして、スッとした、とてもきつい揮発性の匂いに、なんとなく焦げ臭さが混じる独特の匂いは、どこかで嗅いだ。
「ぁ、ソアラ錬金薬局に納品したアレだ」
レモンとミントとメンソールを混ぜて、生木が燻る煙を濃縮したような匂い。
丸木小屋を包み込み、まわりの空き地も、空き地を囲む木々の根元も、かなりの範囲でびっしりと生えている。
「【鑑定】」
『モルネリ草。主に魔獣除けの薬草。人間が感じる以上の刺激臭を撒き散らす。年中咲き変わる植生。雪にも強い。分布する場所に、魔獣は近寄らない。乾燥させても、粉砕しても、効果は同等』
広げているマップに映るのは、小屋を中心とした安全圏。
だいたい直径で百メートルをカバーした範囲に、魔獣の赤点はいなかった。
おそらく周りの木々の根元には、広範囲で咲いていそうだ。
「人には無害でも、魔獣は寄せつけないんだ」
結構な大型獣が徘徊する地帯を、抜けてきた。
ここまで来られる人間も、そうそう居るとは思えない。
マップに反応する丸木小屋の中に、三角マークはなかった。
「家宅侵入は犯罪だよねぇ。次に通った時に在宅でしたら、ぜひお目にかかりたいです」
律儀に声をかけた小真希は、先へと続くマップ表示の青い安全進路を辿って、丸木小屋から離れた。
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