第15話 追跡は、命がけだってば パート1(改)
案内された個室は、シンと静まり返っていた。
鎧を切った直後、両手を地面に着いた熊を見て、小真希は失敗したと冷や汗をかいた。
ギルドの備品を壊した弁償代が、幾らになるか不明だ。
借金ができてしまう。
小真希のほうが、両手を着きたい。
すっかりしょげ返って、ちんまりとソファーに沈む小真希の前に、
テーブルを挟んだソファーにも、項垂れた熊が座っている。
「もぅ、いい加減にしゃんとしてください。ギルマスが挑発しすぎたからでしょ? 負けたぐらいで何ですか。男らしくない」
よく分からない単語が聞こえたような。。
上目遣いした先で、ぶすくれた
「……おれが、探索者ギルドのマスターだ……おまえ、何者だ」
そうか、熊がギルドマスターかと、妙に納得してしまう。
「ぁんだとぉ? 」
慌てて口を押さえる小真希。どうやら声に出ていたらしい。
「まぁいい、合格だ。あれだけできれば、文句は言わねぇよ。ただし、ランクは通常通りだ。一階層から始めて、
どこか拗ねた気配を残しつつ、熊ギルドマスターは出て行った。
弁償うんぬんは、忘れていいかのか? と、びくびくする。
「許可も下りましたので、ここで手続きをしましょう。わたしは探索者ギルドの受付で、ライランと申します。これからよろしくお願いしますね」
「はい。小真希です。よろしくお願いします」
簡単な手続きで、小真希は探索者の資格を手に入れた。
初心者は、一階層の植物
一定数の
ランクを上げれば相応な下層へ進めるが、いまだに最下層への攻略はできていない。
現在の最高到達階は三十階層で、
ランクは青銅から
片隅にパンチ穴が開いており、開拓者登録証明証と合わせて、紐に通しておく。
冒険者カードが邪魔だなと思ったが、どのカードも紛失すれば再発行にお金がかかる。
失くして追加金など、恐ろしい。
特に、冒険者ギルド登録証明証が。。
仕方がないので、三枚綴りのカードを首にかける。微妙に重たい。
「これからダンジョンに潜りますか? 」
聞かれて迷う事なく、開拓地へ行くと答えた。
「ぁあ、そうだ。ひとつ聞きたいんですが、北へ向かう道を行くと、何があるのでしょう。……入って行く人を見かけたので」
困ったような笑みで、首を振られる。
「入って行っても、かまいませんか? 」
軽く握った指で口元を支えてから、難しい顔をするライラン。
聞いてはいけなかったなと思い始めた頃に、吐息を吐いた。
「コマキィさん。割り振られた開拓地は、どの辺りでしょう」
なんだか秘密の相談めいていたので、もらった地図を黙ってテーブルに置く。
場所の確認をしたライランの怖い顔つきが、なぜだか錬金薬局のソアラと双子な気がした。
「……あなたなら、行けるでしょう。後を付けられないように、警戒していただけるなら…ですが」
はっきりと言葉にしない会話が、何故か成立したように思える。
「山脈の尾根を、越えた人はいますか? 」
非常に不味いものを口に放り込まれたように固まったライランが、はっと気を取り直した。
「……いやいやいや、それは無いです、コマキィさん。なだらかに思える南山脈側からでも、尾根の絶壁は登れません。まして強靭な魔獣が蔓延る北山脈側からなど、論外です。今までたくさんの探索者や冒険者が挑戦しました。ですが、登頂する事は叶いませんでした」
尾根を越えた者がいないなら、山脈の裏側へ行く開拓者たちのルートが分からない。
今までの会話から、ライランは教えてくれないだろう。どうしても行きたいなら、自分で切り開けと言う事か。。
「わかりました。では、これで失礼します。二、三日うちには、ダンジョンに潜りたいと思っていますので…」
探索者ギルドを出て、すぐに脇道へ入る。
しばらく進んだ頃合で、再びマップに赤三角が近づいてきた。
なんとかしないと、開拓地へ行くルートがバレてしまう。
どこにあるのかは知らないが。。
追ってくる相手は、冒険者ギルドの荒くれ者に違いない。
マップを確認していた小真希の顔が、容赦のない笑みに変わった。
*****
「おい、大丈夫なんだろうな」
麓へ至る道から逸れた男三人が、怯えながら森の中を進んでいた。
道はあるような無いような、途切れ途切れの獣道だ。
三人の内ひとりは【探知】の
目視して標的を定めると、魔力が切れるまで気配を追える
「この方向でいい。やっぱり
小真希の気配を追いながら、探知
「そうだよな。何年前からだった? 切捨てるのに裏へ割り振った
恐々と周りを見回す赤三角三人が、気を紛らわすのに口を軽くする。
「せっかく見回りに行っても、開墾されてねぇ。それでも地所の税は、きっちり収めやがる。無理して踏ん張っているんだろうが、すぐに諦めると思ったのによぉ」
ちょっとした物音にビビり、だんだん赤三角の足は遅くなる。
「ダンジョンの
一番怯えているのに虚勢を張った
「あの小娘が、おとなしくルイーザの玩具になっていれば、こんな苦労はしなかったんだ。黙ってヤらせてくれれば、面倒も起きなかった。ああっ! 思い出したら腹たってきた」
ずっと探知し続ける気疲れが、探知赤三角の苛々を煽る。
「けど彼奴らは、ざまぁなかった。小娘にやられて、使い物にならなくなっちまってよぅ」
震えているのにもかかわらず、赤三角トリオの馬鹿笑いが森に響いた。
「癇癪を起こしやがって、ルイーザのボケが。小娘に手も足も出なかったくせによぉ。潰してこいだとぉ? 何様のつもりだ」
一番後ろから着いて行く
「ルイーザなんかの言いなりになるリーダーなんぞ、もう知るかよ。小娘を渡したら、おれは村を出る。やってられるかっ」
朝からずっと付き纏ってきた赤三角三人が、ようやっと小真希に追いついていた。
「北、だな。
他人を嵌めて潰す瞬間の快感を、赤三角たちは予想する。
ほくそ笑むそれらに向かって、小真希が接近を開始した。
山が深くなれば強い魔獣が出る森の中、無謀な者たちが執拗に追いかけたのは、身に降りかかる災厄だったのだが、知るには遅すぎる。
「燃えてきたなぁ、おぃ」
だらしなく緩む顔が引きつるまで、あと少し。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます