第14話 登録試験 かな?(改)

 朝早くからミトナイ村を出て、ダンジョンへの道を行く。

 付かず離れず着いてくる数は、赤三角が三個だ。


 小真希の開拓地へ行くなら、山裾に敷かれた道を行けば良い。

 裾野を引いて張り出す尾根の縁を、目的の開拓地まで曲がりくねって行く道だ。


 マップで確認すると、ダンジョンは緩やかな弧を描く山脈の、中央あたりにあった。

 ゆるい弓形の山脈で、抱かれるような位置にミトナイ村がある。山脈の北側は、さらに急峻な連山へと繋がっていた。


 ミトナイ村を囲む平原は、すでに他の開拓団に開墾され尽くして、広大な穀倉地帯が広がっている。

 これなら山脈沿いの麓に沿って、村を広げるしかない。


 ダンジョンとミトナイ村は、とても近い。

 もしも魔獣氾濫スタンピードがあれば、一瞬で壊滅する近さだ。


 ダンジョンから北へ登り、高台にある細い森林地帯を抜け、高い尾根を越えた先に、小真希の開拓地があった。

 感覚的にはダンジョン山脈と、もう一段高くなった山脈の尾根を越え、裾野に下りた辺りだ。


 直線で行けば、びっくりするほど近い距離だった。

 標高の高い尾根だが、山越えくらいはやってみても損はない。

 当然、強い魔獣も出ると思うが、それはそれ、これはこれだ。


(やる前から諦めたら、ダメでしょ)


 行ける所まで行ってみて、魔獣が強すぎたら諦める。ただ、ダンジョンの最下層にいる魔獣より強い魔獣が、地上にいるとは思えない。


 昨日通った道を逆に登る。

 幌仕立ての店が、坂道に沿って階段状に立ち並ぶ場所へと、行き着いた。


 道の北側を確認しながら登るうち、店と店の間にある細い道を、幾つも発見した。

 立ち止まった小真希を追い越して、探索者らしきグループが入って行く。


 付いて行こうかどうか迷って、思い直した。

 ひょっとしてグループだけの狩場とか、縄張りとか、特定の許可がいるとか、ややこしい決まりがありそうなら、先に確かめた方が良い。


「おじさん。この道は、どこへ行くの? 」


 細道の手前、皮の分厚い果物を売っている店で、ふたつほど買い物をする。


「嬢ちゃんは、探索者……の、身内か何かか? 」


 警戒の色が濃いのは、喋りたくない意思表示か。。


「今から登録に行くのよ。昨日、開拓の許可をもらったから」


 首から下げた開拓者登録証明証を、掲げて見せた。


「なら、ギルドで聞きな。あんまり余計な首は、突っ込むなよ」


 意外と親切な返事と同時に、頭の三角マークが赤から黄色に変わった。


(なるほど、状態変化もあるのね)


 形は悪いが、もうひとつオマケをくれるとは、黄色でもいい人だと思い直す。


「ありがと、そうする」


 昨日は前ばかり見ていたせいか、まったく気づかなかった。

 探索者ギルドは、ダンジョン入り口の北側。崖の真横にあった。

 山の斜面に沿って、奥へと伸びる長細い建物だ。


 入ってすぐに受付カウンターがあり、建物の奥は扉がたくさん連なっている。


「おはようございます」


 カウンター窓口で、黄緑三角マークの受付嬢おねぇさんに声をかける。

 年頃は小真希くらいか。見るからに優しそうだ。


「はい、おはようございます。ご用件を伺います」


 感動ものの丁寧さに、傷付いた昨日の出来事が、鮮明に……。


「……はぃ。探索者の登録を、お願いします」


 受付嬢おねぇさんの笑みが貼り付いた物に変わり、困惑が浮き出てくる。


「えっ……とぉ……お嬢さんが、探索者に……ですか? 」


 聞かれて、逆に首を傾げた。


「ぁー、はい。おかしいですか? 」


 しばらく考えていた受付嬢おねぇさんは、何かを決めて立ち上がった。


「少々お待ち下さい。上の者に相談いたします」


 背後にある扉に入って行った受付嬢おねぇさんを、手持ち無沙汰で待つ事しばし。。

 受付嬢おねぇさんは、巨大な熊を連れてきた。


 熊は適当に羽織った上着を、はためかせて近づいてくる。 

 凶暴危険のシールを、額の皺に張っているのかと問いたい。


「お前が舐めた口を聞く小娘か」


 開口一番。

 大声で聞かれた内容に、思い切り首を傾げて、何か粗相をしただろうかと考える。


(ん……わからん)


 律儀に返事を待ってくれるのか、威嚇で睨み付けているのか、熊の動きまで停止していた。


「あのぉぅ……探索者に、なりたいのですが。年齢制限とか、ありますか? 」


 小真希を睨みつけながら、熊が自分の頭をかきむしった。


「おまえがっ? 」


「ぁ、はい」


「ダンジョンだとぉっ」


「…そうです」


「舐めてんのかっ! 」


「……舐めません」


 こんな凶暴な熊なんて、不潔で舐めたくない。

 もう一度頭をかきむしって、熊が目を剥いた。


「よぉ〜し。なら、現実を思い知らせてくれてやる! 」


 何かくれるらしい。

 首根っこを掴まれて連れて行かれたのは、屋根付きの運動場?。

 無言で指差された壁に、刃を潰した武器が並んでいた。


「好きな獲物武器を選べ。相手をしてやる」


 どうやらチャンバラごっこをするらしいが、エリンの見た目は男の子にみえるのだろうか。


『良い! やれ殺れ! 気に入ったっ』


 テンションのおかしくなった精霊が、空中回転しながら応援してくれる。


(おかしい……探索者の資格って、開拓民だった気がするのに)


 とりあえず痛いのは嫌なので、防御プロテクトをかけておく。

 壁から小太刀くらいのショートソードを二本取り、深呼吸して指定された場所に立った。


『サバイバル技能スキル発動。強化・支援・干渉を起動します。肉体操作マリオネット準備完了』


(ん? なんで? )


 気がついた時。小真希は刃を潰した大剣ロングソードを、片手で受け止めていた。


「な゛……くそったれがっ」


 ぎちぎち押さえ込んでくる大剣ロングソードを片手で止め、熊も小真希も吃驚びっくりだ。


 勝手に身体が動いた反動で、熊がなされて後方へ飛んだ。


「なんっだよ! はっ、まさか、魔獣の変異か」


「もう! わたしは人間ですぅ」


 許可も取らずに、勝手に人を魔獣にしないでもらいたい。


「……そうか。だが、多少できても、簡単にダンジョンへ入れると思うなよ。小娘の分際で、思い上がると死ぬぞ」


 熊から悪役の仮面がちょっとだけ外れて、調子が狂う。


『殺れ! 殺ってしまえ』


 精霊の応援が、かなり負担になってきた。


「大人しくしないと、器はあげないから」


『な……なんと……非道なことを』


 急にシュンとなった精霊が、天井付近へ漂って行き、膝を抱える。

 せっかく応援してくれたのに、いじけたかもしれない。


(どうしよう。最下層の魔獣みたいに、殺ったらダメよね)


 自動で動く自分を、制御できない。

 何かないかと見回した先に、土豪を積んだ盛り土と、金属製の鎧を着せた杭が映る。


(アレだ)


 思い切り後ろへ跳び、駆け出した小真希は、鎧を目掛けて剣を振った。

 殴ったような音とは違い、妙に澄んだ金属音がする。


「……げっ! うそだろぉ」


 斜めに切断された鎧が地面で跳ね返った時、熊の雄叫びも運動場に跳ね返った。

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