第13話 裏の事情はどこまでも(改)

 ミトナイ村に住んでいる村民は、村長が入植した時に同行した人々と、それらの人々の次世代と三世代だ。


 当時の開拓村は、現在の中央広場に建物が集中していた。

 領主に認められて村に名前がついた時、住宅区を広げて発展した記念に、旧住宅区は更地に還して公園広場が造られた。


 村に昇格する前。

 発展し始めた頃はいさかいも少なく、治安も良かったらしい。

 それが、十二年前のダンジョン発見によって、狂い始める。


 ダンジョンからの収益を見込んだ冒険者ギルドと、ダンジョンのような秘境を専門にする探索者ギルドが、争うようにミトナイ村周辺に支部を立ち上げていった。


 最初に村長と話し合った冒険者ギルドが東門付近に支部を開き、領主と直談判した探索者ギルドが、ダンジョンの入り口付近に支部を開いて、両者の睨み合いが始まった。


 領主にしてみれば、両方のギルドから税収がある美味しい状況なので、特に口は挟んでこない。


 ダンジョンから上がるアイテムの買い取りを巡って、冒険者ギルドと探索者ギルドの抗争が激化しようと、村長にとっても人頭税や賃貸料に変わりはないため、無視と放置が横行している。


 現状、迷惑を被りたくない村民は村の奥へ、常に流動する冒険者荒くれ者は東門付近で、住み分けがなされていた。

 赤黄緑の三角マークが、それぞれきれいに村の中で住み分けしている意味を、小真希は理解した。


 村長が放置した役所は冒険者ギルドに飲み込まれ、開拓者登録の業務も、実質は冒険者ギルドが牛耳っている。

 名目上は村長の後妻が開拓村の役場職員で、開拓者登録を担っていた。

 さっきのアレ受付嬢が、村長代行の後妻らしい。


 村長と後妻の年齢に開きがあると思ったら、先妻の娘と後妻の年齢が一緒だった。

 娘の敵対者幼馴染を後妻に迎えた村長を、村民は冷ややかに見守っている。


 あれこれと喋り続ける店主にうんざりしたケイロンは、採集した薬草の代金を受け取るなり、さっさと逃走した。


 役所ギルドの前に放置した時よりは、すまなそうな顔をしていたが、違う気がしてならない。


 薬局の待合室で、店主が出してくれた薬茶を頂きながら、ミトナイ村のあれこれを拝聴している。

 結構な長話ながばなしに、そろそろお暇したい小真希だ。


「それで? 開拓地の地番は? 今からじゃ遅いから、隣の宿屋に部屋を取った方がいいわ。食料や道具は、探索者ギルドの方が安心ね」


 お茶受けの焼き菓子を足して、店主のソアラが地図を要求する。

 ものすごくお姉さんに思えるが、小真希より年下で、エリンより年上だった。

 渡した地図を見たソアラが、顔を顰める。


「山脈北側の奥だわ。あいつ、初めっから失敗させる気、満々じゃない」


「どういう事? 」


 苛々と怒るソアラに首をかしげるが、新しく出してくれた菓子が美味しくて、もう少し話しても良いかなと思い始める。

 香ばしい焼き加減のお菓子を、お土産にできないものか。。


「この地番は、ルイーザが気に食わない登録者に割り振る場所なの」


 ちなみにルイーザとは、あの受付嬢村長の後妻の事だ。

 小真希に割り振った場所は、何人も開拓に失敗して、荒地に還っている曰く付きの物件だそうな。。


(ルイーザ、許すまじ)


 山脈は南へ行くほど、尾根が低い。

 なだらかな丘程度の麓なら、開拓地もなだらかで開墾が進む。

 ダンジョン発見前に入植した者が大半で、収益も安定した村民の開拓地だ。


 対して尾根を北へ行く未開拓地は、急峻で岩が多く、開墾の前に山肌を切り崩し、土地自体を広げる必要があった。 


「北の一番奥で端っこだから、ミトナイ村へもダンジョンへも、めちゃくちゃ遠い所よ。今までの入植者も、それが原因で失敗しているわ」


 よりにもよって、なんて所を割り振ってくるのだろう。

(絶対に許すまじ、ルイーザ)と、決心を新たにする。


「ところで、売り物があるとケイロンから聞いているけど。ここに出してもらってもいいかしら」


 お茶もお菓子も美味しくて、すっかり忘れていた。

 ゴブリンの魔石がいくらなのか気になって、差し出されたトレイに十個を乗せた。


 さっきはひとつで青銅貨五枚。

 開拓民登録料と冒険者カード発行料で銅貨二枚。魔石に換算して四つ分だった。

 手のひらで魔石を転がしていたソアラが、真剣な目を向けてくる。


「これ、ダンジョン産のゴブリンの魔石でしょ? に、何個くらい渡したの? 」


 嫌な予感がする。なんだか勝手に喉が鳴った。


「四つ」


 聞いた途端に、ソアラの顔が鬼になる。


「くっそ……あま……ざっけんじゃないわよ! 」


 可愛らしい外見には、絶対に似合わない言葉スラングだと思った。

 懇々こんこんと続く説教じみた解説に、項垂れて復帰できない。


 実際、開拓民登録と冒険者登録は、セットで銅貨一枚だった。

 銅貨三枚分の魔石は、ルイーザのポッケにナイナイみたいだ。


 それはそれ、これはこれで、開拓の闘志が湧いてくる。


『ほぅ。やっぱりお前は、面白い』


 高みの見物以上に、居眠りしていると思っていた精霊が、なんだかキラキラして元気になっていた。


 翌朝。

 ソアラの紹介で安くしてもらった宿を出て、朝市の屋台から必要そうなものを買って行く。


 昨日の魔石は、まとめて銀貨一枚と銅貨二枚。銅貨十二枚分とは、結構なお値段で引き取ってくれたものだ。


 屋台を回って、ソアラお勧めの食料を買い出す。

 パンは皮がパリッと、中はしっとりの丸パンを選び、となりの屋台で葉野菜、そのとなりで削ぎ肉を挟んでもらう。

 大葉の葉に似た大きな葉っぱに包み、同じものを十個。

 それとは別に、パンを十個買った。水は水筒で賄える。


 夜具も兼ねる分厚めのマントだけ購入する。

 一度、自分の開拓地を見たいのと、距離の把握をしたいので、軽装備で現地まで行くつもりだ。


 昨日の今日で、治安に不安がある。

 展開したままのマップに、赤三角の尾行を認めて、悪い笑みを抑えきれない。


 小真希は聖人君子でも聖女でもない。

 危害を加えてくる輩に、配慮はいらないと割り切った。


(さぁて、どこまで着いて来れるかな)

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