第12話 魔窟で開拓民登録ぅ(改)

 役所ギルドの中は、奥のカウンターが受付で、入り口から奥までの両側に、丸テーブルが並んでいた。

 乱雑な配置に、場末の酒場的な雰囲気を受ける。


 一斉に見られても、自動で発動した支援技能スキルが、気持ちを楽にしてくれた。

 とにかく身分証明書を手に入れて、後はあまり近づきたくない場所と思える。

 まっすぐに、受付嬢のいる窓口へ行く。


「開拓民の登録を、お願いします」


 目の前のド派手な女の頭には、真っ赤な三角マークが浮いていた。


「銅貨一枚」


 背もたれにそっくり返り、気だるそうな仕草で片手を出す。


「銅貨の代わりになるかしら」


 ロングブラウスの胸ポケットから、ゴブリンの魔石をひとつ出してカウンターに置く。

 エリンの身体つきでは、お腹ポケットだ。


 面倒くさそうだった受付嬢の目が、大きく見開いた。


「手」


 カウンターの下から取り出した水晶板を無造作に差し出し、必要最低限の言葉で命令してくる。

 ケイロンがハズレだと言った意味が、わかった。

 手を乗せた水晶板から淡く光が昇って、白紙状のホログラムが立ち上がる。


「……ふぅーん……いいよ。これ、書いて」


 乱雑な仕草でカウンター下に水晶板を突っ込み、魔石を摘み上げて光にかざす。ついでのように、もう片手で書類を出し、ペンを放ってきた。


 むちゃくちゃ態度が悪い。


 これがハズレなのだと諦めて、申請書の欄を埋める作業に意識を向けた。

 書き終わる頃に魔石は小さなトレイに移されて、青銅貨五枚がカウンターに乗っていた。


「冒険者カード。銅貨もう一枚」


 エリンの記憶では、石貨の次に青銅貨が最低の貨幣だと、理解している。

 青銅貨五枚で、銅貨一枚の半値だ。


 本当にゴブリンの魔石が青銅貨五枚なのか、疑わしい。それでも事を荒立てるのは、不味いと感じる。

 目の端でニヤつく男の頭上でも、受付嬢の頭の上でも、毒々しいくらいに赤黒く変化してゆく三角マークだ。


 気持ちを抑えて、魔石を三つ加える。


「いいわ、持って行きな」


 投げられたカード二枚を、すかさず空中で掴み取れば、後ろの男が奪い損ねて固まった。


「開拓地の場所は、どこでしょうか」


 ちらと流し見て、周りの顔ぶれを記憶する。ついでに防御プロテクトを発動しておく。

 舌打ちした受付嬢が、地図に印を入れて投げてよこした。


 よくよく投げるのが好きなようだ。


「地所に目印は? 」


 後ろから殴りつけてきた男が、自爆した。

 横から蹴り上げてきた男が、足を抱えてのたうち回る。


「このがきゃぁ! 」


 騒ぎ出した男たちに囲まれるが、誰も攻撃には移らない。


「てめぇらっ、うるせぇ! 」


 奥から盗賊の頭みたいな大男が出てくる。


「なにやってやがる! 」


 周りを威圧しながら、カード二枚を手にして立っている小真希と、ドン引きの受付嬢を交互に見る。

 置かれた魔石に気がついたのか、手足を抱えて転げ回る男たちへ視線を移し、やれやれと頭を振った。


 無言の小真希に対峙した男は、頷くように頭をさげる。


「悪いな、嬢ちゃん。運が無かったと思って、諦めてくれや」


 男の頭の上は、緑がかった黄色だった。


「……ええ、構いません」


 これ以上難癖を付けられないうちに、さっさとギルドを後にする。


(なんだったの? やっぱり、ぼったくり? )


 道まで出ると、通りの先からケイロンが手招きするのと、目が合った。


『面白かったな。ここら一帯に、敵対生物赤三角がいる』


 話しかけてきた精霊から、心配よりワクワク感を強く感じる。

 人の生き様を見て、愉快だと思う精霊だ。

 小真希の感覚で非難するのは、無駄な労力だろう。


「見解の相違ね。面白いなんて思えないけど」


 マップを展開して、先まで広げてゆく。

 今いる東門の周辺は、赤三角が多い。村の奥へ行くほど黄色になり、東門とは反対側の一角に、緑三角が固まっていた。

 善良と思われる青三角が無い。


 役所ギルドから相当離れるまで、ケイロンは小真希から距離を空けている。

 善良に傾いていても、さっき出会っただけの他人だったなと、唐突に思い出した。


 盾になってまで、守ってくれる存在ではない。それを酷いと思わないよに、深呼吸を繰り返す。

 小真希だって、自分の安全が第一だから。。


 マップの表示で黄色の多い区画に来て、ケイロンが横に並んだ。


「大丈夫だった? 」


 不安そうに聞いてくるのへ、なんとも言い難い気持ちになる。

 切り抜ける技能スキルがあったから、大丈夫だった。

 たぶん、エリンのままなら良いように遊ばれて、死に戻りはしないだろうが、酷い目に合ったかもしれない。


「最低の場所だったわ。村長は放置してるのね。ぁあ、村長の持ち物だったか……」


 引きつった笑みを浮かべるケイロンに、魔石の買い取りを頼める店はないかと聞いてみる。


「あ、開拓地の場所を聞くの、忘れた」


 もう一度役所ギルドまで帰るのは億劫だ。今度はどんな絡まれ方をするのやら。。


「開拓地の地番なら、わかるよ」


 さっきよりは、もう少し突っ込んだ話しをするうちに、自分たちの事情を聞かされる。

 親しくする気がなくなった小真希にとって、どうでも良いと思えた。


 ケイロンとマリウスは、ダンジョンの側にある探索者ギルドで、依頼を受けて生活している。

 初期の開拓住民か親族なら、無条件で探索者の資格を取れるが、それ以外の者が探索者の資格をもらうには、開拓地に自分の地所を持たなければならない。

 開拓地の所有権は、探索者ギルドに登録できる最低の条件らしい。


 よそ者に振り分ける開拓地の場所は最悪だ。当然、土地の所得税は高額で、開拓だけでは税も払えず、食べていけない。


 新規の開拓民を優遇し、救済する目的で、領主が施した領法らしい。

 領内だけに通じる法令は、開拓民を増やす目的に則って制定されたというが。。


 開拓が捗らなくても、税は収められる。

 嫌な制度だと思った。


「助かるわ。あんな所、二度と行きたくないし……開拓の道具も買えるように、仕事しなくちゃ」


 まずは開拓地の場所を確認して、資金稼ぎに探索者を目指そう。

 必死でダンジョンから抜け出して、またダンジョンに戻るのは辛いが、自活のためなら頑張れる。

 決心が固まったところで、前方に古びた家が見えてきた。


「ソアラ錬金薬局だ。紹介するよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る