第11話 ミトナイ村へ(改)

「ふーん。乙女勧誘に遭って連れて行かれたのに、気が付いたらダンジョンの中だったのかぁ」


 ゆるーい喋り方をする少年が、スライムを叩いていたケイロンで、ぶっきら棒な元気少年がマリウスだ。

 ケイロンが一才年上で、元気少年のマリウスに振り回されている感じだ。


 ふたりの頭の上に浮いている三角マークは、きれいな緑色をしている。

 青と黄色を混ぜたのかなと、普通に感心した。

 精霊も口出しせずに高みの見物だし、知り合いも何もない現状で、これは頼って良いケースだと判断した。


 今も薬草を探して採集しているのはケイロンで、木の枝を振り回して、角鳥を追いかけ回しているのがマリウスだ。

 角鳥は、太って飛べなくなった鳥の魔獣だと言われている。

 錬金術の触媒になる角が一番高く、羽はペンに、肉は食用だ。

 一番お金になる角を粉砕した弁償に、薬草採集を手伝っている。


 手伝いながら、今までの事をケイロンに聞かれていた。

 小真希は、乙女勧誘に遭ったとだけ話した。

 売られたとか、特別な乙女とか、足のつくような事は言いたくない。


 国が率先して行っている乙女勧誘の対象は、恵まれないスラムの少女や、貧乏な片田舎で口減らしになる少女だと、民は


 豊かなこの国を侵略しようとする隣国に対抗するため、掻き集められた乙女は、生涯をかけて神に祈りを捧げなければならない。異界の英雄を召喚するために。。

 一度祈りの神殿へ招かれた乙女は、二度と俗世には帰れない。

 そういう事になっているらしい。


(知らないって、理不尽よねぇ。仕方ないけど…)


 勧誘された乙女がどんな末路を辿ったかなんて、知らない一般庶民には、関わりのない話だ。

 いちいち下民の行方を気にかける庶民はいない。

 変に喋ってややこしい騒動に巻き込まれたら、何をされるか分かったものではない。


「まぁな、いいんじゃねぇか、自由のほうが。黙ってりゃ、何に巻き込まれたかなんて、誰もわかんねぇよ」


 さすがに王都や衛星都市の富裕層からは、乙女を差し出した話は聞かない。

 ケイロンの居る開拓村でも、乙女勧誘に遭った話は聞かないと言う。

 エリンの身体は、やせ細って小さい。

 乙女勧誘に遭う下層民と、同じに見えるらしかった。


「着ている服が上等だから、勧誘した後で放り出されたかもしんねぇな。下民の子供じゃないし、身内に訴えられたら困るだろ」


 乙女を勧誘する役人も、揉めるような身内がいる少女は狙わない。

 着替えておいて、ほんとうに良かった。


「ひどい目に会ったな」


 山の神殿へ連れて行かれた挙句に、向こうの都合でダンジョンへ飛ばされた、かもしれない話を、信じてくれた。


 ダンジョン開拓村は王都の東端で、エリンの居た村が北西の端。

 王都を挟んで、ほとんど反対側だ。

 どちらにしろ独立して村を出ているから、帰る選択肢はない。

 エリンも、帰りたいとは思わないだろう。


「おーい。集まったか? 」


 奇声を上げながら、角鳥を追いかけ回して疲れたマリウスが、木の枝を振り回しながらやって来た。


「あぁ、集まった。もう帰るか」


 帰り道で、身分証が無いと話しをすると、開拓民申請をすれば身分証を貰えると教えられた。

 鑑定を受けて犯罪を犯していないと証明できれば、開拓民証明書が貰える。合わせて冒険者カードも発行してくれるらしい。


「なら行こうぜ。遅くなったからな」


 誰かが手伝わないせいで遅くなったのだが、自分の事はなんとも思っていないようで呆れる。

 結局は角鳥を狩れないマリウスに、心の中で文句を言った。


「えっとぉ。おまえ、名前を聞いてないぞ」


 散々喋った後に、マリウスの一言で、自己紹介をしていなかったと思い出した。


「……ほんとはエリンって言うの。でも、小真希って呼んで」


「ぇえー。なんだよ、それ」


 不満げなマリウスを、ケイロンが宥めた。


「人には事情があるって、じいさまも言っていたろ? 良いよな、マリウス」


 以外とこういう話は、ケイロンの方がリードしているようだ。


「……わぁかった。よろしくな、コマキィ」


 ちょっとだけ、イントネーションと発音が気になる。


「どうした? コマキィ」


 気にはなる。が、このままで良いかもしれない。 


「うん。よろしくね、マリウス」


 森を抜けた草原の彼方には、壁で囲われた町があった。

 壁の上にたくさんの屋根が見え、それほど堅牢な囲いではないと思われる。


「ミトナイ村だ。もうすぐ町になるけどなぁ」


 のんびり案内してくれるケイロンが、荷物を抱えなおしながら色々と教えてくれた。


 一番に入植して土地を興した開拓者がミトナイという名前で、五年のうちに税を納めて村長に任命された。

 村長になった時、この辺りの領主から、村に名前を付けても良いと許可されたそうだ。

 それから二十年。ミトナイ村は、町に昇格する。


 村の門は四つあるが、普段から開いているのは、この東門だけだ。

 マリウスとケイロンのおかげで、顔パス状態で村に入れた。

 きちんと石畳が敷かれた村は、ケイロンの言う通り、もうすぐ町になるのだろう。


 上水は井戸しかないが、下水は完備されている。やはり伝染病を恐れて、下水道には力を入れているとマリウスは自慢した。

 そこら辺を疎かにした近辺の開拓村が、いくつか伝染病で壊滅している。


 中世のような不潔感満載の場所でなくて良かったと、ホッとする。

 レンガと漆喰で統一された家並みは、緑深い森と調和して、清潔に整っていた。


 目指す開拓民の役所と冒険者ギルドは、東門を入ってすぐの建物だ。

 開拓民証明書を発行する役所と冒険者ギルドは、村長の管轄にあり、同じ窓口で受け付けている。


 二階建ての大きな田舎家が、冒険者ギルドを兼ねた役所で、元は村長の家だったそうな。。

 村長の新しい家は、村の奥に立て直した豪邸だと、またもやマリウスの自慢が始まる。

 村長の息子かと聞いたら、そんなわけがないと、キッパリ否定した。


 先に入り口から覗き込んだケイロンが、マリウスは来るなと手を振る。

 その合図で、他人の顔をしたマリウスが通り過ぎて行った。


「悪いなぁ。今日はハズレだ。嫌な気持ちになるだろうけど、酷い事まではされないと思うから、受付で開拓民登録をしたいって、言ってくれるか? 一緒に行かない方が絡まれ難いと思うし、マシだと思うなぁ。村の男が一緒だと、マジギレするんだぁ……」


 すまなそうなケイロンに促されて中へ入ると、赤い三角マークと黄色い三角マークが散らばっていた。

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