第5話 装備は必須です(改)

 Yをタップしたスマホは、大きなタブレットに進化した。


「ふぅん。こうなってるんだ」


 よく覚えていないがの鑑定では、職業が初級の盾士で、クズ技能スキルシールド修復リペア洗浄クリーンしか無く。ゴミ技能スキルのサバイバルだけだった筈。


 斎藤小真希エリン(弾かれし異邦人・別の生を生きる者)

 盾士 ★★★★★(恩恵にて位階上昇=上級)

 結界師 ★★(恩恵にて位階発現=初級)

 一般技能ノーマルスキル

 ・シールド=★★★★★

 ・防御プロテクト=★★

 ・修復リペア=★★

 ・洗浄クリーン=★★

 固有技能ユニークスキル

 ・サバイバル▽

 恩恵経験値 

 ・倍増=★★

 時空精霊の加護 時戻り・異空間収納


 熊を討伐した恩恵経験値で「倍増」の技能が増えた。それにも星がふたつ付いている。

 おそらく星ふたつが初級、四つで中級、五つを越えれば上級に上がるのだろう。


 職業も星が増えて、上位互換の結界師に位階が上がったようだ。

 一般技能ノーマルスキルも、防御プロテクトが増えていた。

 さすがにゴミとは思わないが、それほど優秀な等級ではないのだろう。


「でもさ、廃棄処分にしなくても良いでしょうに。わたしってば人間なんだよ? 」


 つらつらと物申したいが、常識の範疇はんちゅうが異なる相手に何を言っても無駄だ。抗議する気もないし、殺されかねない環境から、もう一度やり直したくもない。


 時戻りするなんて、きっぱりさっぱり遠慮する。


『良く見よ。サバイバル技能スキルの後ろに、注意印があるであろう』


 時空精霊の言葉使いが仰々しくなり、ちょっぴり気に触る。


『我は希少な精霊だ』


 文句を浮かべた心の声は、そっと見逃してほしかった。


「はいはい。アリガトウ。カンシャシテルワ」


 確かに、三角マークがある。


「なんだろ? 」


 何気なくタップした下段に、文字が現れた。


 固有技能ユニークスキル

 ・逆境を生き抜く処世術サバイバル

 ▽

 一般技能ノーマルスキルの強化・支援・干渉

 ・強化=肉体強化1〜100%・精神力魔術強化

 ・支援=恐怖耐性・忌避的感情緩和・精神安定・心身回復

 ・干渉=一般技能ノーマルスキル自動発動オートコントロール

 ・重複展開・並列思考・肉体操作マリオネット

 サバイバル限定技能オリジナルスキル

 =鑑定・隠蔽・把握・生活魔法▽


「えっとぉ……ち…チート? ぅぅわ。サバイバルって、逆境を生き抜く処世術? まさかイン◯ィー◯ョー◯ズみたいな展開? やだ。えんりょしたい」


 小真希は秘境に興味はない。

 お宝は好きだけど、命のほうがもっと好きだ。

 転がる大岩は大嫌いだし、一分も水に潜れないトンカチ体質。

 推理はお先真っ暗で、冷静には程遠い。

 表彰されそうな勢いで、冒険に向いていないインドア派。

 お布団が友達の住民に、神様、無茶を言ってはいけない。


 神様がいるかどうかは知らないが、小真希には分不相応な待遇だ。


「どうしてこうなった……」


 茫然自失の小真希は、絞り出す勢いでため息を吐き出した。


『サバイバル限定技能オリジナルスキルを発動し、解体及び収納しますか? Y/N 』


 繰り返し頭に響く声と、視線を捉えるタブレット。


「自動で解体と収納をしてくれるなら、とても幸せです……ポチッとな」


 別に、出来ると思ったわけではない。

 肉体操作マリオネットを発動し、自分の手で解体するのだなと覚悟して、諦めた上での軽い冗談だ。


『了解しました。サバイバル限定技能オリジナルスキル発動。自動解体、自動収納及び、保存を始めます』


 肉体操作マリオネットで解体を始めるかと、覚悟を決めた小真希を裏切って、熊の屍体は異空間に取り込まれた。


 自分の遺体と同じ場所かと真っ青になったが、目の前のタブレットに表示されるフォルダは、異空間内を細かく仕切る便利機能で、安堵の息をいた。


 生活魔法のフォルダ内で、▽マークをタップすると、もっと細かく分類分けされたフォルダがある。

 解体のフォルダ内で自動解体されたものが、最適保管フォルダに振り分けられて保存される。小真希の遺体は特別保管枠に入っていた。


 画面を見ている間も、次々と各フォルダが埋まっていく。

 「食」のフォルダに部位別された熊の肉が収まり、「住」のフォルダに大きい毛皮が、「衣」のフォルダに小さい毛皮が表示される。

 分類別フォルダ「錬金」に熊の魔石やら内臓各種が収まって、自動解体・最適保管が完了した。


『ほぉ、魔石か。赤色熊レッドベアの魔石は高く売れると、エリンが言っていた』


赤色熊レッドベアって、さっきの熊? 魔石の値段が高いってことは、もしかして普通に強い魔物じゃないの? 」


 収納から取り出した魔石は、片手で包める大きさだった。


討伐難易度クラスは、中級より少し上だ。それほど珍しくもない』


 わたしは初級以前だ。駆け出し前の素人だと、声を大にして言いたい。


『まだ上には、四段階の討伐難易度クラスがあるぞ。中級ならマシだと思え』


 単なる脅しにしては、怖すぎる。


『初級は小物だな。中級の上位が、さっきの熊だったか。あとは上級に特級。天級に災害級で終わりだ。天級と災害級に出会ったら、諦めるか逃るの二択になる』


 絶対に聞きたくないのに、ニマニマして教えてくれる精霊が、大嫌いだ。


「……もぅ良いよ。あんたってば、理解不能だわ。ねぇ、ここから脱出するの、助けてくれる気はないの? 冷たくない? 」


『対価は? そろそろ安全だと思わぬか? 身体をくれるなら、外への道を教えてやらなくもないぞ』


 ちょっと考えても、遺体を差し出せば放置されそうだ。

 精霊の興味は、身体にしかないと断言できる。


『お前では無理だが、我なら外へ出る方法を知っている』


 精霊の浮かべるニマニマが、ニタニタに変化していた。


「いい。自分で探す」


 物凄く自分勝手で、欲しいものを手にすれば、小真希など捨てて行きそうな精霊だが、こんなに気味の悪い場所を歩くなら、そばにいて欲しい。


 そう、思った。


 熊の脅威がなくなって、それでもおっかなびっくりで、地底湖の岸へ近づいてゆく。


 湖の中心辺りがほの明るいと思ったら、水中から伸び上がるように樹木が生えて光っていた。

 水中でゆらゆらと枝がたわみ、湖面より上に張った梢から、とめどなく立ち上る光の粒。。


『精霊の子供たちが生まれている。こんな所に精霊樹が生き残っているとは、存外に、しぶといものだ』


 聞き様によっては揶揄しているが、精霊の横顔は穏やかに優しい。


「この水って、飲める? 」


『飲めるとも。人間どもは、精霊水とか名付けて、売り買いしていたな』


 ご利益のありそうな湖面を両手で掬い、夢中で口をつける。


「! ……うん……うっまぁ」


『食用に適したヒュバル苔の実があります。採集しますか? Y/N』


「はい! 」


 満足するまで水を飲み、後はマップで瞬く青点滅を目指して、さくらんぼ大の実を集める。美味美味うまうま。。


 昨夜と違い、湖の砂地は柔らかくて、寝心地は最高だった。


 翌日は、爽やかな目覚めに気分は上々だ。

 出発しようと改めて見回した洞窟内は、地底湖の縁をかすって、でこぼこした一本道が通っている。


 切り立った高い天井の所々から薄日が差して、光のきざはしを下ろしていた。

 外の光か、何か超自然的な物なのかは分からないが、ずいぶんと明るい。


 再び歩き出してから、昨日より酷くなった足の裏の痛みに立ち止まった。


「はぁ…靴が欲しい」


 なんとなく呟いた言葉にスマホが浮き出し、保存画面を表示する。


「ん? 「衣」……ぁ、スニーカー」


 紙飛行機の送信音と共に足元へ落ちたのは、小真希の履いていたスニーカーだった。

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