第78話 次の目的地
「せっかく頑張った試験の結果は知らなくていいのか?」
レイナに指摘されてワロウはようやく思い出した。そもそもこんなに苦労したのは元はと言えば昇格試験のせいでもある。
「ああ...そういやそうだった。昇格試験だったんだよな...」
「一番大事なところではないのか?」
「ちっとばかり色々あり過ぎてな。...で?結果はどうなんだ試験官さんよ」
試験官はレイナなのだから彼女が合否を決める権限を持っている。なので、いちいちギルドに行かなくても結果だけは知ることはできるのだ。
流石に対象の魔物レッドウルフは完全に倒しきったのだから、合格はしている可能性が高い。だが、結果を聞くまではわからない...ということもある。
その場にいる全員の視線がレイナに集まる。その当の本人のレイナは首を振るとダメだと言わんばかりに指でバツを作った。
「結果は今朝ギルドに伝えておいた。直接ギルドで聞くんだな」
「ええー!なんでよ!今教えてくれないの?」
「当たり前だろう。試験に関する情報を試験官が漏らしてどうする」
アンジェの不満そうな態度にも一切動じず、ダメの一点張りである。これはギルドで聞くしかなさそうだ。
「...ま、仕方ねえな。どうせギルドにはいかなきゃならねえし」
ワロウは元々そこまで期待してなかったのであっさりと諦めた。真面目で堅物な性格のレイナがここで合否について教えてくれるとは思っていなかったのだ。
それに、結果だけ知ったところで、結局ギルドカードを受け取るためにはギルドまで行かなくてはならない。手間は同じだ。
全員でギルドへと向かっている最中。レイナがふと問いかけてきた。
「ちなみに...次はどこに行く予定なんだ?」
「次は...そうだな...」
答えにつまるワロウ。さっさとこの町から移動することは決まっているが、じゃあどこへ行くんだと言われると、そこまでは考えていなかったのである。
「なんだ。決まってないのか?」
「まあ、行きたい方角は決まってるんだがな」
ワロウが目指しているのはこのハルラント王国のはるか北にあるガイルトンという町だ。
そこにかつての仲間たちがいる...はずだからだ。古い情報なので、今はどうかわからないが、手掛かりがない今そこを目指すほかない。
なので方向的には北に行きたいのだが、どこの町がいいかはまだよくわかっていない。こうして急に出発することになるとは思っていなかったので、そこら辺の準備もできていないのだ。
「どっちの方角だ?」
「北さ。はるか北まで行くのが目的なんでね」
ワロウが来たに行くと告げると、レイナは少し考える仕草を見せた。
「...そうか。では、ネクトに行ってみないか?」
「ネクト?」
ネクトの町。少し前に火竜の襲撃にあった町の名前だ。この付近の中ではかなり大きな町で、冒険者もなんとBランクパーティが所属している。
だが、そのBランクパーティのいない間に火竜が襲ってきて町に多大なる被害を及ぼしたのだ。当然、けが人も大量に出た。
そのとき、ワロウはハルト達とともに薬草を集め、火傷薬を大量に作ったという経緯がある。
まさかここでその町の名前が出るとは思ってもみなかった。だが、よくよく考えてみると確かにネクトはここから北の方角に位置している。
(悪くはねえが...)
「ちなみにそのネクトの町の領主は大丈夫なのか?」
「ネクト付近は王国派の貴族の領地です。安心していただいて構いませんよ」
一応キール少年に確認してみると、彼は笑顔で頷いてくれた。どうやら貴族関連の問題は起きなさそうだ。
で、あればネクトに行くこと自体は悪くはなさそうだ。だが、なぜレイナはネクトを提案してきたのだろうか?
「なんでネクトを?」
「実はだな...」
レイナがネクトを勧めてきた理由は単純だった。なんとレイナもこれからネクトに向かう予定だったというのだ。
レイナは元々ネクト所属の冒険者で、火竜の襲撃があったときに、レイナの所属するパーティがたまたま長期の護衛依頼受けていてネクトを離れていたそうだ。
そして火竜の襲撃があったと聞いて慌ててネクトまで戻ろうとしたのだが、マルコムの町でギルドマスターから試験官をやってくれないかと泣きつかれたそうだ。
元々は冒険者もたくさんいるネクトの町からCランク冒険者を派遣してもらう予定だったのだが、火竜の襲撃によってそれどころではなくなってしまったのだ。
マルコムの町のギルドマスターとは知らない仲でもなかったために断り切れず、結局レイナだけ残ることにして後のパーティメンバーはネクトへと戻ったとのことだ。
「というわけで私はネクトに戻る予定なんだ。そこまでの旅路を一緒に行こうというわけだ...どうだ?」
レイナが若干上目遣いで聞いてくる。特に考えなくてもCランク冒険者と一緒に行けるのならば願ってもないことだ。目的地としても問題はなさそうだし断る理由はない。
「ふーむ...そうだな、じゃあ行ってみるか、ネクトに」
「お、そうこなくてはな。ネクトの町に関しては詳しいから頼りにしてくれて構わないぞ」
「おお、そいつぁ頼もしいね」
ワロウたちが次の目的地について話していると、ウシクがうらやましそうな顔でこちらを見てきた。
「いいなぁ...なんか随分楽しそうじゃないか」
「なんだ?お前も来るか?」
来たいならくればいい。ワロウがそういうと、ウシクは首を横に振った。
「いや...パーティの奴らもいるからな。俺の一存だけじゃ決められねえよ。それに...」
「それに?」
「ネクトの冒険者はレベルが高いらしいからな。もうちょっとここで修行してから行くぜ」
先ほども述べたようにネクトの町には大量の冒険者がいる。その中には有名な冒険者もいて、その彼らに憧れて、他の地域から名を上げようとネクトにくる若手冒険者も多い。
なので、その結果として自然とネクトの町の冒険者のレベルが高くなっていったのだ。
「ふうん...レベルが高い...ねぇ...」
片田舎のディントンでずっとやってきたワロウには少し厳しそうな環境だ。そんなことを考えていると、ウシクはにやりと笑った。
「まあ、アンタなら十分通用するだろ?」
「...どっから出てきたんだ、その無責任な予想は」
「いや、あれだけやっておいて何言ってんだ...」
ウシクがあきれたようにそういうと、その横で聞いていたキール少年、アンジェ、ソールが全員そうだと言わんばかりに頷いた。
「ちなみにネクト所属の私から見ても、君の実力は十分だ」
「...まあ、わかったよ。いざとなったらレイナにしがみついて何とかするさ」
「全く...大丈夫だと言っているだろうに...」
そんなことを話している間にもワロウたちはギルドに到着した。中へ入って受け付けの職員に昇格試験の結果を知りに来たと告げる。
職員は頷くと、少々お待ちくださいと言って受付の奥の方へと向かっていった。そして幾許もしないうちに一人の男が姿を現した。
「うむ。君たちが今回の昇格試験を受けた冒険者達だね...あれ?レイナ、君もいるのか」
その男はワロウたちのことをぐるりと見渡した。そのときワロウたちの後ろにいたレイナに気づきすっとんきょうな声を上げた。
「ええ。まあ、私はついてきただけですが」
「今回はありがとう。本当に助かったよ」
「いえ、構いません。元はと言えばネクトから冒険者を派遣する予定だったのでしょう?」
「それでも君が来てくれたのは完全に善意からだからね。感謝しないわけにもいかないさ」
男はレイナに頭を下げると感謝の念を伝えた。レイナも軽く頷きそれに応える。どうやらその男はこの町のギルドマスターのようだ。
ギルドマスターとレイナは知り合いだったようで、話が中々終わらない。
「...で?結果はどうなのかしら?」
いつまでたっても試験結果を伝えられないので、アンジェはしびれを切らしてしまったようだ。そのイライラした様子にギルドマスターは慌てた様子でそれに答えた。
「ああ、すまないすまない。話がそれてしまったね。君たちは....」
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