第73話 もう一つの目的
(...もう動けねえぞ...)
あの後、ワロウたちは町まで無事にたどり着くことができていた。最後の方はもはや疲労で誰も口を開かずにひたすらに黙々と歩き続けたのだ。
町に着いた頃には、すでに店も閉まっているような時間帯で、かなり遅い帰還となってしまった。レイナは泊っているところが違うので町の入り口で別れ、キール少年とワロウとバルドは共にゴルフェンの宿へと向かった。
流石は超高級宿なだけあって、こんな遅くになってもきちんと受け付けの人間は起きており、すんなりと宿の中へと入ることができた。
そして、自分の部屋にたどり着いたワロウは早速ベッドの上に倒れ...こまなかった。流石にこの血だらけかつ泥だらけの状態で寝るのは嫌だったからだ。
限界に達しつつある体を引きずりながら何とか宿の人間に頼んで湯を用意してもらい、体を洗い流しつつも、ワロウは今日のことを振り返っていた。
(...今日ここを出たときにはまさかこんなことになるとは思ってもみなかったぜ...)
レッドウルフとあのつぎはぎの化け物との連続の戦闘。ワロウの今までの人生の中でも一位二位を争う激戦だったことは間違いない。
ただ、あの一人で森狼で立ち向かったあの時よりも、はるかにうまく戦えていた。それはもちろんワロウ自身が強くなっているということもあるが、なんといってもシェリーのお守りが強力だったおかげだ。
レッドウルフのときも一回咆哮を防いでくれたし、化け物との戦いのときには相手の魔法を無効化して、その隙に奴に大きな一撃を加えられた。
結局その一撃だけでは倒せなかったものの、その一撃があの化け物を葬り去るきっかけになったことは間違いない。
(魔法を無効化する...か)
(まさかあれだけの魔法を無効化できるとは思ってなかったぜ...)
記憶にもまだ新しいあの化け物が使ってきた炎の魔法。それはかつての弟子だったシェリーの放つ魔法に酷似していた。
その威力は当たった場所の地面を抉り出すほどで、万が一喰らってしまったらそのままその部分が消し飛びかねない威力だった。
このお守りはその超高火力な魔法を防ぎきってしまったのだ。
(流石にいくらでも強力な魔法を防げるってわけじゃあないだろうが...)
いくらこのお守りが優秀だとしても、さすがに際限なく魔法を防げるといったわけではないだろう。だが、あの炎の魔法を防げただけでも十分な性能...というよりかは高すぎる性能と言ってもいい。
(もう一回使えるようになるまでは大体3時間くらいなのか...?)
ワロウが咆哮を喰らってから、更に一か八かであの化け物が放った炎の魔法に突っ込んでいったのは大体3時間くらい経った後であった。
つまり、このお守りは3時間に一回魔法を防げるということなのだろうか。もちろん防げる魔法には限界もあるのだろうが。
(幸い奴があまり魔法を使って来なかったからどうにかなったが...)
(魔法主体の敵と戦えば...厳しいことになるだろうな)
魔法を連続で打ってくるような相手に対しては、3時間という時間はあまりにも長すぎる。防げるのは最初の一回だけだろう。
(だが...最初の一回でも防げるということ自体が大きい...か)
あの化け物との戦いもそうだった。まさか自分の魔法が消えるとは思っていなかった化け物は大きな隙をさらしてしまっていた。その隙にワロウは大きな一撃を決めたのである。
(使い方を考えればかなり強力な武器にもなるっつーことだな)
ようは馬鹿とはさみはなんとやらという奴である。例え一回しか魔法を防げないとしても色々と使い道はあるはずだ。
お守りのことについて考えている間に、あらかた体は拭き終わった。ところどころまだ汚れているところがあるような気もするが、流石に全部を洗う気力もない。
ワロウは汚れたお湯の入った大きな容器を廊下に出した。こうしておけば後は勝手に回収すると宿の人間が言っていたからだ。
体も清め終わり、これでもうやることはない。ワロウはすぐにベッドの中へと潜り込んだ。
(...最高だ...)
柔らかく、極上の布団は、激戦で疲れ切ったワロウの体をふんわりと包み込んでくれる。そのあまりの気持ちよさにあっという間に意識が飛びそうになる。
(...そういや...)
布団の中で強烈な睡魔に襲われつつも、ワロウはもう一つ思い出したことがあった。
(あの時の回復術は...)
レイナを助けようと回復術を使ったあの時。何回やっても彼女の内臓のキズを癒すことはできなかった。間違いなくあの時のワロウの回復術は効果がなかった。
(効かない...そう思った)
これではレイナを助けられない。だから、ワロウは魔力不足で意識が朦朧としながらも何度も回復術を使った。一縷の望みにかけて。
だが、何回やっても効果は一向に表れなかった。効かない回復術を使い続けても意味はない。...当然のことだ。いや、当然のことだった...はずだった。
(そうだ...あの時、いきなり光が強くなった)
魔力切れでふらふらになっていたあの時。朦朧とする頭の中で腕輪の声が聞こえたような気がしていた。
その瞬間に魔力が回復し、しかも回復術の光が強くなった。しかも今まで全く治る気配のなかったレイナのキズが回復したのだ。回復術が強化された...そう考えていいだろう。
(前みたいに剣の腕が上がったわけじゃあねえが...回復術の効果は上がった)
(この腕輪...か)
ベッドの上で腕輪を顔の前まで持ち上げてみる。そこには今までと変わらず、見た目はなんともない装飾品と化している腕輪がある。
だが、この腕輪はとんでもない力を秘めているのだ。その腕輪の力によってワロウは今まで何度も救われてきた。...今回の件も含め。
しかもただ強力なだけの力ではない。その力はワロウの剣術や身体能力、そして回復術。それらの能力を強化してきたのだ。
(間違いなくとんでもない力なのは間違いねえな...)
すくなくともワロウはそんな遺物の話を今まで聞いたことがなかった。...遺物と言えば、たまにかなり胡散臭い話もある。
例えばその遺物を手に入れると寿命が10年伸びるだの、持っているだけで魔力回復が早まるだの...その能力に枚挙に暇はない。
だが、ワロウが今実感しているこの能力はそういうかなり眉唾物の噂話や、創作の話の中ですら聞いたことがなかった。正直、ここまで強力だと少し疑心暗鬼になってしまう。
(何かを代償にしているのか...?)
よく聞く話だと、生命力を吸って力に変換しているとか、寿命を削って強大な力を手に入れる...というような話はワロウも聞いたことはあった。俗にいう呪いの装備という奴だ。
だが、そのどれもが本当に存在しているのか怪しい。普通の人間であればそんなものは信じていないことが多い。この世に呪いの装備など存在しない...はずなのだ。
(でも...コイツ、外れねえんだよな)
うわさでよく聞かれる呪いの装備の特徴が、はずれない...ということである。そもそも本当にあるかどうかわからないものの特徴なんてものは誰かが面白半分で流しているに過ぎないとは思うのだが。
最初、この腕輪を見つけたとき、ワロウの腕にぴったりとはまるように形が変わった、それを気味悪がったワロウは腕輪を外そうとした。だが、警告音のようなものが出て、結局外せなかったのだ。
(うーん...まあ、いいか)
遺物の専門家でもないワロウがいくら考えたところで、この腕輪に関して思いつくところはほとんどない。
(会いに行く次いでにアイツに聞けばいいさ...何か知ってるだろう...)
遺物に詳しかった仲間。彼女は今どこで何をしているのだろうか。噂通りにガイルトンにまだいるのか、それとも...
そんなことを考えているうちに、今度こそワロウは睡魔に負けて眠りのはざまへと落ちていくのであった...
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