第35話 嫌われる冒険者
「そうだな...今度はお前たちが”倒す側”に回ったときの話だ」
「倒す側...」
「そうだ。今回で言えばそのBランクパーティみたいな奴らのことさ」
「つまりサポートする側ではなくて、自分たちが魔物を倒す方になったらということですよね?」
シェリーの言葉にワロウは頷いた。
「正直...お前らには才能があると思う。オレなんかよりもずっとな」
「え...ホ、ホントっすか?」
「ああ。シェリーの魔法の腕もそうだが...お前ら二人もEランクにしてはかなり動ける方だ。オレがいままで一緒に仕事をしてきたDランク冒険者とも引けを取らないと思う」
その言葉に3人の顔に喜色が浮かぶ。ワロウは基本的にあまり世辞などを言わない。そのことをわかっているからこそ、ワロウが本気でそう思っていると感じたのだ。
とはいえ、だからすぐにDランクになれるかと言われるとそういうわけではないので、
“戦闘だけでDランクになれるわけじゃないぞ?”と念を押しつつワロウは続けた。
「....いいか?もしお前らが強くなったとしても、さっきの話を忘れないでくれ」
「...どういうことですか?」
ワロウは一瞬言葉に詰まった。この話をどう伝えたらいいのか一瞬悩んだのだ。
「...強くなって強大な魔物を倒す。町を救う。素晴らしい。文句のつけようがない。だが、そこで傲慢になっちゃあいけねえのさ」
「傲慢...っすか」
「町を救ったのはオレだって思ってるとそれが態度に出てきちまう。そういう冒険者は強いは強いが、周りからは嫌われる。偉そうな奴だってな。いるだろ?そういう奴」
ワロウの言葉に3人は激しく頷いた。残念ながら上級冒険者の中には自分の強さをかさにかけて散々な振る舞いをする連中もいるのだ。迷宮都市でもそういう冒険者がいるのだろう。
「そういうやつらは大体長生きできない。...なんでかわかるか?」
「むかつくから、他の冒険者に闇討ちされるとかか?」
「流石にそんな短気な人はいないと思いますけど...」
ハルトから過激な発言が飛び出すが、いくら冒険者が荒々しい人間が多いとは言っても、さすがにむかつくという理由だけで闇討ちをやったりするほど短慮な人間は少ない。ギルドに指名手配されてしまうからだ。
一度指名手配されてしまえば同業者の冒険者達からだけではなく、荒事専門の賞金稼ぎ達からも狙われることになる。そうなってしまえばもはや平穏な人生を送ることはできないだろう。
「例えば、お前らが嫌いな冒険者がいたとする。もし、そいつが行く場所に危険なところがあるという情報を持ってたとしても、それを教えようと思うか?」
ダッドは少し考える様子を見せたが、すぐに結論が出たようだ。
「まあ、確かに...わざわざ自分から言おうという気持ちにはならないっすね」
「そうだろうな。だから、手に入る情報が少なくなる。危険な冒険者生活でそれは致命的なのさ」
「致命的...。確かにそうかもしれませんね...」
「お前たちにはそういう冒険者になってほしくないわけだ。だからさっきの話を頭の片隅でもいいから覚えておいてほしい。自分一人でどうにかしてるわけじゃないってことをな」
これで話は終わりだと言うようにワロウが手を軽くたたくと、3人は無言で頷いた。今まで見たことのある”傲慢な冒険者”には彼らだってなりたくないのだろう。
「むーん...成程。実際俺たちも魔物を倒した奴だけが偉いと思ってたっすからねえ...さっきの話を忘れないで、みんなから嫌われないようにするっす!」
「いい返事だ。他の二人もいいな?」
「はい。忘れないようにします」
「...まあ、オレも自分のやったことを軽く言われたら腹立つしな。気を付けるよ」
ワロウのまじめな話は3人にきちんと伝わったようだ。今はまだEランクの彼らだが今後もっと上へと行ける才能がある。その彼らにこの話を伝えられたのはよいことだ。そう思ったワロウは満足げに笑みを浮かべたのであった。
「よし、じゃあさっきも言ったように今日は解散だ。そういや武器屋に行くとか言ってたか?」
「その予定っす。でも、さっきも言ったっすけど、残念ながらお金はないんで見るだけっすねえ...ホントは武器とか防具とか新調したいんすけど...」
彼らの装備を見ると、ボロボロとまではいかないがあちこちが破れていたり、欠けている部分がある。これは確かに買い替えた方がいいだろう。
「武器とか防具をケチってるといつか痛い目見るぞ?大体なんでそんなに金がないんだよ。依頼とか採取とかやってるのか?」
「Eランクだと大した報酬にならないっすよ。採取の方もまともに取れるのはにおい草くらいしかないっすからね。他の教えてもらったやつは区別が怪しくて、とてもじゃないけど儲かりそうにもないっす」
言われてみれば確かにEランクの依頼では大した報酬にならない。その日の生活ができるか...くらいの金額なのだ。
また、採取の方も芳しくない様子である。におい草は初心者でも簡単に区別できるし、採取しやすいのだがそのせいで買取価格はそこまで高くない。かといって他の薬草を集めようにも区別が難しいものが多いため、経験の浅い彼らでは難しいようだ。
どうやらワロウの想像していた以上に彼らの懐事情は厳しいらしい。これはきちんと金策を教えなければいつまでたっても武器を新調することができなさそうである。それは今後の試験のことを考えてもあまりよろしくない。
ワロウは考えをめぐらせた。そして、一つの案を思いついた。これならワロウの用事ついでに彼らに金策を教えられそうだ。
「...そうだ。オレは今日これからギルドに行って火傷薬を作るのを手伝いに行こうと思ってたんだが、お前らも来るか?」
「いいんすか?というかそれって報酬はどうなるんすか?ギルドからでるってことっすかね?」
「多分そうなるはずだ。火傷薬の作り方は教えてやるよ」
「うげ...また覚えなきゃいけねえのか...」
ハルトは新しく物事を覚えるのが苦手なようでうんざりといった顔をしている。彼にとっては採取を覚えることだけでおなかいっぱいなのだろう。
「馬鹿、薬を作るのも大事な金策の一つだぞ。自分で薬草取って来て自分で薬を作って売れば結構な儲けになる。薬の作り方は絶対に覚えておいた方がいい」
「でもさぁ...火傷薬の作り方なんて覚えても、そもそも俺たちだけじゃゴヤク草は取りにいけないから意味ねえよ」
確かに自分たちで採取できない薬草を使う薬の作り方を聞いてもあまり嬉しくはないだろう。彼らは冒険者で金を稼ぎたいのであって薬師になりたいわけではないのだ。
「....わかった、わかった。におい草からの薬の作り方も向こうで教えてやる。出血大サービスだぞ?本当なら薬の作り方を教わろうとしたら結構な金額要求されるんだからな?」
「ホントっすか!?におい草の処理はすごい知りたいっす!」
「それだけでも結構稼げるようになりますね...助かります」
元々火傷薬の作成だけをやるつもりだったがこうなっては仕方がない。指導員として冒険者としての金策の技術を習得させるため、ワロウは3人を引き連れてギルドの薬部屋へと向かうのであった。
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