第28話 フォレストボアとの戦闘

森の方の門へとたどり着くといつもの門番の二人は休みのようで、今日は違う門番がたっていた。軽く会釈をして門をくぐるとワロウたち4人は谷の方へと歩を進めた。


 谷へと向かう途中、ワロウの後ろについてきている3人は森の中を歩きながら、今回の依頼について話し始めた。高額な報酬に少し浮かれているようだ。


「それにしても金貨15枚だぜ。4人で分けても相当な金額だな」

「そうっすねえ。やっと新しい武器に変えられるかもしれないっす。昔からずっと使ってるからいい加減ガタが来てるっすよ」

「流石に足りないと思いますけど...一番安いロングソードでも金貨10枚くらいしませんでしたか?」

「むむむ...そういえば迷宮都市よりこっちの武器屋は高かったすね...今回は修繕を頼むくらいかな...」


 どうやら、武器を変えたいらしいが資金が集まっていないようだ。そんな話を横耳で聞きつつワロウは辺りの様子を探っていた。すると、ある木の根元の部分に染みとひっかき傷があるのを見つけた。


(これは...森狼の痕跡だな。この様子を見るに最近のものだろう)

(やっぱり縄張りは変わったまま...か。夜まで時間をかけるのは危険だな)


 更に森の奥に進んでゆくと、ワロウが飛び降りた谷が見えてきた。辺りは開けていて非常に見晴らしがいい。ここにいるのならばお目当ての魔物を見つけるのは難しくなさそうだ。


 だが、中々ことはそううまくいかず、4人はしばらくそこでフォレストボアがいないか探してみたが、残念ながらこのあたりにはいないようで見当たらなかった。


「仕方ねえ。見通しはあまりよくねえが、森の中で探すしかなさそうだな」

「了解っす。はぐれないように気を付けるっすよ?」

「なんで俺を見ながら言うんだよ!」


 ダッドがハルトをからかうと、ハルトはすぐにそれに噛みつく。そして、しばらく森の中を進んでゆくと、ワロウが物音に気がついた。


「おい、お前ら...聞こえるか?」


 3人がよく耳を澄ますと、木々の奥の方から荒い鼻息と何かをぶつける音が聞こえてきた。音の方向を見ると、木の陰になってよく見えなかったが、そのシルエットから推測するにどうやらお目当ての魔物が見つかったようだ。

 

 ワロウたちは音をたてないようにこっそりとフォレストボアの近くまで移動した。そのおかげでフォレストボアの全体が良く見える。


 そのフォレストボアは全体的に茶色の体毛に覆われており、大きさは高さだけでワロウの腹の高さぐらいまであるかなりの巨体だった。特に特徴的なのはその頭に生えている牙で、かなり大きく鋭くとがっている。生半可な防具では貫通してしまいそうなほどだ。



 当のフォレストボアは鼻息荒く牙をシャベル代わりに地面を掘り返している。どうやら土の中にいる虫を捕食するのに夢中なようだ。向こうはしばらく動く気配がなかったので、その間にその場を少し離れ作戦会議をすることにした。


「あれがフォレストボアだ。どうだ?初めて見た感想は」

「思ったよりも大きいですね...あれが普通くらいですか?」

「いや...少し大きいな。普通ならこれくらいの大きさなんだが」


 ワロウは自分の腰より少し下の位置に手を当てる。それが本当ならば今回のフォレストボアはかなり大きめの個体であると言えるだろう。


「げげっ普通よりも滅茶苦茶でかくないか?」

「まあ、多少でかくてもやることは変わらん。今回の作戦はシェリー以外の3人であいつの動きを押し込めて、そこに魔法で一発ドカンで終わり。簡単だろ?」


 至極簡単でシンプルな作戦だ。だが、言うは易し行うは難しである。魔法で一撃というのはいいとしても、あの巨体を拘束するのはそう簡単ではないと思われた。


「簡単に言うっすけど...そもそもあいつの動きを止められるんすかね?俺でも突進を真正面から止めるとかは流石に無理っすよ」


 フォレストボアの突進力はすさまじいものがある。このパーティの中ではダッドが一番大きい盾を持っており、パーティの盾役を務めているがフォレストボアの突進はEランク冒険者が真正面から止められるものではない。だが、その突進力がゆえの弱点もある。


「アイツは突進中は方向を変えられないからな。一回わざと突進させるんだ。そして、頭を木かなんかに激突させる。そうするとふらついて動きが止まるから、それを抑え込む」

「ええ...突進を避けなきゃいけないんだろ?...結構危なくないか?」

「最初から避けるつもりで構えてりゃそこまで難しくはない。最悪盾を構えてればふっ飛ばされはするが死にはしないさ。...牙に貫かれたらその限りじゃないけどな」

「うげえ...やだなあ...」

「3人のうち誰に突進してくるかはわからないから、自分の方へ来ないことを祈るんだな。...よし、いいな?行くぞ」


 作戦会議が終わった4人はフォレストボアがいたところへと戻った。そこでは先ほどと変わらず地面を掘り返しているフォレストボアがいる。まだ食事中のようだ。4人は気づかれないようにこっそりとフォレストボアの後ろに回り込んだ。


(よし...大丈夫そうだな...行くぞ)


 ワロウは目線でハルトとダッドに合図を送る。二人も頷き、それぞれ武器を構えた。

その間もフォレストボアは相変わらず地面を掘り返していたが、さすがに疲れたのか一回掘るのをやめ休憩に移ろうとした。


(今だ!)


 その瞬間、ワロウは剣を掲げてフォレストボアへと切りかかった。フォレストボアの方もこちらに気づいたようだが、ワロウの奇襲に反応する余裕はなかった。

 ワロウは勢いに任せてフォレストボアの胴体に袈裟切りを喰らわせるが、全く歯が通らず大したダメージも与えられなかった。それどころか、剣が跳ね返されてしまい態勢を崩しかけてしまった。


(うぐっ...相変わらず硬えな...こりゃ剣で討伐は無理だ)


「う、うわっ! 硬っ」

「...硬いっすね」


 ハルトとダッドも別方向からほぼ同時にフォレストボアに切りかかったが、二人ともまともにダメージを与えられた様子はない。


 いきなり攻撃されたフォレストボアは少し動きが鈍っていた。多少は衝撃が通ったからかもしれない。だが、すぐに回復したようで自分の周りに攻撃してきた存在がいるとわかるやいなや、激高したように鼻息荒くこちらを睨みつけてきた。


 ワロウたちも剣を構えて威嚇をしつつ、ゆっくりと木がある方へと移動していた。避けたときにフォレストボアを木にぶつけるためである。

 しばらくそのまま膠着状態が続いたが、しびれを切らしたフォレストボアが突進の構えを見せた。ワロウたちの間に緊張が走る。誰が狙われているのだろうか。


「クソ! オレかよ! 」


 狙われていたのはハルトだった。この3人の中では一番小さいので弱いと判断されたのかもしれない。


ブモオオオォォォォォォ!!


 次の瞬間、足元で爆発が起きたのではと錯覚するような勢いで土を蹴散らしながらフォレストボアがハルトに向かって突進した。しかし、ハルトは突進が迫っているのにもかかわらず動こうとしない。たまらずワロウが叫ぶ。


「おいっ! 避けろ! 」


(まずいッ! 恐怖で動けなくなっちまったのか!?)


 ワロウが焦って、ハルトの元へ向かおうとしたが、当然間に合うわけがない。最悪の結果がワロウの頭の中によぎった。だが、実際にはそうはならなかった。


 フォレストボアの突進がハルトに直撃しようとしたその瞬間、ハルトは俊敏な動きでなんなくフォレストボアの突進を横へとかわしたのだ。傍から見るとギリギリで避けたように見えたが、どうやら本人にとっては余裕の回避だったらしい。


(クソ、ビビらせやがって...だが、おかげでうまくいったな)


ドゴッ...メキメキメキメキ...


 直前で突進を躱されたフォレストボアは、そのままハルトの後ろにあった木に衝突した。

 衝突された木はかなりの太さであったが、鈍い音を立ててそのまま折れてしまった。なんという突進の威力だろうか。


 しかしその突進の威力があだとなったのか、ぶつかった方のフォレストボアも無事ではない。ぶつかった衝撃で地面に転がると、ふらふらとおぼつかない足取りで立ち上がろうともがくがなかなか起き上がることができない。


「今だ! 抑え込むぞ!」


 そう叫ぶと、ワロウは盾を構えたままフォレストボアに体当たりして立ち上がるのを妨害する。ダッドとハルトの二人もそれをまねて盾で体当たりしたり、剣で足を切り払ったりすることでフォレストボアが立ち上がる猶予を与えない。だが、少しするとフォレストボアも回復してきたようで足取りがしっかりとし始めてきた。


(まずいな...もう回復しかかってやがる...魔法の準備はまだか....?)


 ワロウが内心焦り始めたときに、シェリーの声が聞こえてきた。


「準備できました! 行きます! 3....2....1....」


 シェリーのカウントダウンが始まった。カウントダウンが1になった瞬間にワロウ達はその場を飛び退く。魔法に巻き込まれてはたまらないからである。


 ワロウたちがいなくなったことで自由を取り戻したフォレストボアは立ち上がることができた。そしてまたこちらを攻撃しようと構えようとしたその瞬間に、シェリーの炎玉が顔面に直撃したのであった。


...ドゴォォォン!


 凄まじい音とともにフォレストボアの顔面で爆発が起こった。その衝撃で飛び退いていたはずのワロウたちも若干ふっ飛ばされる。


「イテテテ...こっちまでふっ飛ばされるとは思ってなかったぜ」

「す、すみません! 大丈夫ですか?ワロウさん」

「ああ、大したこたあない」


 ワロウはマントに着いた土を払いながら立ち上がる。そして爆発を直接受けたフォレストボアがいた場所に目を移した。


「それにしても...相変わらず凄まじい威力だな。あれだけ硬かったフォレストボアもこの通りだ」


 そう言いながらワロウはフォレストボアの方を指さした。その指の先には首より上の部分は焼失しており、跡形もなくなっているフォレストボアの姿があった。


 ワロウたちが剣でいくら切りかかっても全く効いていないほどの硬さを誇っていたフォレストボアだったが、ワロウの予想通り、シェリーの魔法の威力はその硬さをはるかに上回り一撃で葬り去ったのだ。


 こうして当初の予想通りとはいえ、フォレストボアの討伐はあっさりと終了してしまったのである。

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