第27話 新たな依頼
最初の依頼達成した日から2週間が経った。ワロウは彼らにギルドのルールや採取の仕方、依頼についてなど様々なことを教えた。彼らは若さもあるのだろうか、それらの知識をスポンジのように吸収しどんどん一人前の冒険者へと近づいて行った。
戦闘に関しても工夫をするようになっており、シェリーの炎玉の使い方や光矢の使い方そしてその連携など、初日にゴブリンを討伐した時と比べると大幅に戦闘力が上がって来ていた。
そして、今日はその成果を見るために強い魔物が出る依頼がないかと探しにギルドに来たのである。
ギルドに入ると、相変わらずそこは冒険者達で賑やかである。しばらく依頼受注用の受付の前で並んでいると馴染みのギルド職員のサーシャが見えてきた。早速今日の依頼で良さそうなものがないか聞いてみる。
「サーシャ、なんかそこそこ強い魔物の討伐依頼出てないか?」
「そこそこ強いですか...Dランクでも大丈夫ですか?」
Dランクの魔物の討伐依頼であっても、相手によってはEランクからの受注が可能な場合がある。厄介な特性持ちで無ければ一つくらい上のランクの魔物でも倒せることが多いのである。もちろん適正ランクよりも人数は多く必要になってしまうが。
「Dランクか...Eランクの魔物のはないのか?」
「ちょうどさっき受けたパーティがいてもう依頼がないんですよ」
その言葉にワロウは一瞬考えた。今のパーティはEランク4人相当であり、Dランクの魔物の相手は危険かもしれない。だが、普通のEランクパーティとは異なりこのパーティにはサーシャという魔法火力がいる。
その魔法の威力は折り紙付きで並のDランクの魔物であれば一撃で倒せるであろう威力だ。もしかしたら多少厄介な相手でも倒せるかもしれない。聞いてみるだけ聞いてみよう。そう思った。
「今依頼に出てるのはなんだ?」
「えーと...森狼の群れの討伐...これは受注資格がないですね...クイーンアントの討伐...これは草原の方の依頼です...オークの討伐...これも草原の方です。後は...あ、ついさっきフォレストボアの素材納品の依頼が来てました...これは森の方ですね」
「フォレストボア...ね。これ、ギルドの依頼じゃないな?ゴゴットあたりの依頼だろ」
討伐依頼は基本的にギルドが出すことが多い。その目的は魔物が増えすぎないように間引きをするためだ。が、今回の依頼の場合は少し事情が異なる。フォレストボアという魔物は少々特殊なのだ。
「よくわかりましたね。そうです。ゴゴットさんからの依頼で達成条件はフォレストボアの素材の納品ですね。採れた肉の量で報酬は変わりますが、ギルドで査定しますのでご安心ください」
今回、ワロウが目星をつけたフォレストボアは高級食材として有名な魔物の一つなのだ。
フォレストボアは元々そこまで知能が高い魔物ではなく攻撃も突進とかみつきくらいしかないため、脅威としてはそこまで高くはない。
だが、その代わりに皮が非常に硬く防御力が高い。まともな攻撃手段ではダメージを与えられず、長期戦になりがちでる。そこで、集中力やスタミナが切れた冒険者がまともに突進を喰らって死亡する場合もたまにあるのだ。
なので、まともな攻撃手段がないEランクくらいの冒険者にとってはかなり荷が重いし、Dランクの冒険者であっても、火力が高いものがいないと中々厳しいものがある。Dランクに十分な実力があるのだ。
今回の依頼はギルドではなく料理屋の主人のゴゴットから依頼が出ている。ゴゴットもフォレストボアの食材目当てに依頼をしたのであろう。
「目撃情報は?一から探さなきゃいけねえってなら考えなおすぜ」
「それは大丈夫です。採取に出ていた冒険者達が森の谷の近くで目撃したみたいですよ」
「谷...ね」
(あそこらへんにはあまりいい思い出はないんだがな...まあ仕方がねえ)
ワロウの脳裏には、キール花を採取しに行ったときに散々森狼に追いかけられて谷へと飛び込んだ記憶がよみがえっていた。だが、いい思い出がないからと言って行かないというわけにもいかない。昼間ならば森狼が出ることもないだろう。
「わかった。その依頼を受ける。お前らもいいか?」
「えーと...報酬は査定で決まるんすよね?普通だと大体どれくらいなんすか?」
ワロウが後ろにいた3人に確認すると、ダッドが質問してきた。2週間の間に報酬関連の情報はしっかりしておかないといけないと認識できているようである。
「そうだな...普通の大きさの個体なら金貨15枚くらいいくんじゃないか」
「そうですね。大体それくらいです」
ワロウとサーシャが大体の報酬金額を答えると、3人は目を丸くした。
今まで受けてきた依頼では高くてもせいぜい金貨3枚程度の報酬だったのだ。その5倍もの報酬が出るかもしれないと聞いて驚いたのであろう。
「マジか! 滅茶苦茶高いじゃないか!」
「今まで受けた中で一番高額っすね!」
「...高いのはいいですけど、何か裏があるんじゃないんですか?」
ハルトとダッドは高額な報酬を聞いて素直に喜んでいる様子だったが、シェリーは少し不安そうな様子だ。あまりにも高額な報酬を疑っているようである。
「...いいところに気づいたな。高額な報酬だからってポンポン受けると痛い目にあうぞ。今回のもそうだ」
「えっ...そうなんすか?」
「フォレストボアの討伐自体が結構面倒なんだ。向こうの攻撃自体は大したことないが、やつらの皮が硬くてこっちが普通の攻撃をしてもダメージが通らん。倒すだけなら毒を使えばいいが、食材としての価値は0になる」
もちろん、食材として使えなくなってしまったら納品できないので自動的に依頼失敗になってしまう。今回の依頼では毒を使って討伐することはできないのである。そのことを聞いてシェリーはピンときた様子だった。
「そういうことですか...私の魔法なら毒を使わずに倒せるかもしれないということですね?」
「...察しが良くて助かるね。その頭脳を他の二人にも少し分けてやってくれ」
「...なんか流れで馬鹿にされたっす...納得がいかないっす...」
フォレストボアは皮が硬くて、非常に倒しにくい相手だ。だが、シェリーの炎玉の威力はすさまじく、うまくいけば毒を使わないでも倒せるのではないかというのが今回のワロウの目論見である。
普通に安全に倒そうとするとDランク冒険者4人は必要な依頼なのだ。なので、報酬もそれに見合った金額になっているといえるだろう。
「まあ、そんなわけでこの依頼は魔法という攻撃手段があるオレ達にぴったりっていうわけだ。わかったか?」
「うっす。了解っす」
「じゃあ、受注手続きをしますね」
そういうと、サーシャは手元の書類にささっと記入を済ませる。これで受注完了だ。
早速ワロウたちは目撃情報のあった森の谷へと出発するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます