第25話 ボルドーへの報告
ノックをして部屋に入ると、ボルドーは椅子に座って大量に積まれている書類の処理を行っていた。だが、ワロウ達が部屋の中に入って来るのを確認すると、書類をいったん手放しこちらに視線を向けた。
「帰ったか。依頼はどうだった?」
「達成したぜ! ほら、これ見てくれよ」
ハルトがゴブリンの討伐証明部位を袋から取り出そうとすると、ワロウがそれを止めた。
「待て待て、ここで出すんじゃねえよ。床が汚れるだろうが」
「いや、別に構わない。元々、そんな綺麗な床でもないしな」
「ほらいいって言ってるぞ! ...見てくれ、これだけ狩ったんだ!」
ハルトが自慢げにボルドーに袋の中身を見せると、ボルドーも中を覗き込みその数を数え確かめた。
「ほう、10匹分か...中々じゃないか。草原に行ったんだろう?よく見つけられたな」
「まあ、たまたま運良くな。普段じゃ見つけられねえよ」
草原ではそもそも魔物の数自体が少ないのだ。ゴブリンを10匹も見つければ運のいい方なのである。
「運良く、か。繁殖しているというわけではなさそうなのか?」
「それもないだろう。痕跡を見るに数は増えてなさそうだ」
「ならいい。ゴブリンどもが減って何よりだ」
ボルドーはゴブリンが繁殖しているのではないかと疑ったようだ。確かに運良く出会ったというよりかは元々の数が増えているという可能性も十分に考えられる話だ。
だが、今回ワロウが草原内のゴブリンの痕跡を見る限りでは、ゴブリンの数が増えているという印象は受けなかった。
「そう言えば...今、受付が混んでるだろう?今ここで依頼を達成扱いにしてもいいぞ」
この時間、受付が混んでいることはボルドーも知っている。普通に受付をちんたら待っているとそれだけでかなりの時間を食ってしまう。その待ち時間を無くそうとボルドーは気を利かせてくれたようだ。
「え?いいんすか?」
「ああ、受付に言っておく。報酬を受け取るだけならそんなに時間はかからんだろう」
「ついでに薬草の買取もやってくれねえか?お前なら査定できるだろ?ボルドー」
ついでといわんばかりにボルドーに薬草の査定を押し付けるワロウ。普通、ギルドマスターにそんなことを頼む冒険者などいない。ワロウとボルドーの仲だからこそできることである。
押し付けられたボルドーもそこまで嫌な顔はせず、あきれたようにお手上げのポーズをとるだけだった。
「全く、図々しい奴だ...仕方ないな。じゃあ、採取した分をここに置いておけ。後で査定して受付に伝えておく」
「やった! ありがとよギルドマスター!」
「じゃあ報酬が確定するまで外で少し待っててくれ」
「了解っす!」
そういうと3人は心なしか軽い足取りで部屋の外へと出た。ギルドマスターに呼び出されて緊張していたのが解放されたからかもしれない。ワロウもその後に続こうとすると、ボルドーに呼び止められた。
「待て、ワロウ」
「なんだ?」
「どうだった?お前の目から見てあの3人組は」
ボルドーの問いはひどく抽象的なものだった。自分から見た3人といわれても何が聞きたいのかが全く分からない。
「えらくぼんやりとした聞き方だな...」
「なんでもいい。お前が感じたことを話してくれ」
「...まあ、戦闘能力はそこそこあるんじゃねえか。剣の使い方とか盾の使い方は特に教えられることはなさそうだ。まあ、そもそもオレの実力自体が微妙ってのもあるが」
戦い方はまずかったが、それは迷宮以外で戦ったのが初めてということもあるので仕方がないだろう。ゴブリンを狩っているときの動きに関しては、ワロウの目から見ても十分だと感じていたし、むしろ若さもあって自分よりも彼らの方が動きはいいかもしれないとまで思っていた。
「そんな謙遜しなくていい。お前もEランクは十分にある。そのお前から見て問題ないならEランクとしては十分な実力なんだろう。...それで、シェリーはどうだった?魔術師と聞いているが」
「ああ...あれはすごい。くらったゴブリンの上半身が吹っ飛んでたぜ。当たったらDランクの魔物...それこそ大蜘蛛とかだったら一撃で仕留められるんじゃないか」
「なに?そこまで強いのか?」
「ああ、威力はかなり強い。ただ、速度が遅いからデカブツ以外に当てるのは難しいんじゃねえか。炎矢とかいう魔法も使うみてえだが、可燃物があると火事を起こすかもしれないから今は使えなさそうだ」
シェリーの炎玉の魔法は、ワロウの印象に強く残っていた。なにせ喰らったゴブリンの上半身は焼けこげるどころではなく吹っ飛んで無くなっていたのである。当てられる状況を作れれば一撃必殺の攻撃手段に化けるだろう。
ただ、今回のゴブリンの戦いから、強敵一体との戦いなら十分力を発揮できそうだが、対多数で素早い相手にはあまり向いていないようだった。そこが欠点とも言える。
「そうか...他の魔法は使えないのか?」
「光系の魔法も使えるみたいだ。光矢とかいう魔法と...後、明かりの魔法...光玉っていったか?それを使って目くらましみたいなことは今日やってみてうまくいった。...まあ、魔力消耗が大きいみてえだが」
「光の魔法も使えるのか! かなり珍しいな」
「そうなのか?明かりの魔法なんて誰でも使えるんじゃないのか?」
「いや、そういうわけでもない。個人には使える属性が決まっていて、ほかの属性の魔法は全く使えないんだ」
魔法には属性というものが存在している。属性は火、水、土、風、光、闇の六属性があり、自分の持っている特性以外の魔法はたとえ初級の魔法でも使うことはできない。
シェリーが持っている火属性の方はそこまでレアな属性ではないが、光属性持ちの魔法使いは魔法使いの中でもかなり珍しい存在だった。
「後は...迷宮でやってきたからだと思うが、依頼の受け方とか広い場所での戦い方、後は採取のやり方とか冒険者の基本的な部分がわかってないところがあるな」
「ふむ。まあそんなことだろうとは思っていた。そこは今後のお前の指導の腕前の見せ所だ。...お前の言うことはちゃんと聞くか?」
「ああ、怖いくらい素直だな。...今のところは」
「そうか、ならいい。...順調そうだな、師匠殿?」
「茶化すなよ。まだ、手探り中さ」
ボルドーは3人がワロウの言うことをきちんと聞いているかを気にしていたようだった。
このギルド初の指導員試験ということもあり、ボルドーも慎重に経過を見つつ進めていくつもりのようだ。
「話は終わりでいいか?あいつら、あまり待たせるとうるさそうだからな」
「ああ、早くいってやれ...今から飯に行くのか?」
「うん?そのつもりだが...お前も来るか?」
「いや、俺はこれから書類を片付けないといかん。ほら、もってけ」
そういうとボルドーはワロウの方へ指で何かを弾き飛ばしてきた。
ワロウは慌ててそれを手で受け止めた。手の中を見ると金貨が二枚あった。思わずボルドーの方を見やると、彼はニヤリと笑った。
「この町での記念すべき初依頼達成だ。それで少しいいものを食わせてやってくれ」
「太っ腹だな、ボルドー。あいつらに言っておこうか?偉大なるギルドマスター様のおごりだって」
「やめろ、やめろ。別に恩に着せようってわけじゃねえんだ。お前がおごったってことにでもしておいてくれ」
「...ま、神様からのご褒美ってことにしておくさ。じゃあな、ありがとよ」
「ああ、楽しんで来い。...おっと薬草に関しては明日に報酬を用意しておく。忘れるなよ」
返事の代わりに手をひらひら振るとワロウはギルド長室を後にした。
受付に戻ると首を長くした3人がワロウのことを待っていた。
「遅いっす! おなかと背中がくっつくくらい腹減ったっす!」
「早く飯! 飯に行くぞ、師匠!」
「わかった、わかった。そんな騒ぐんじゃねえ。依頼報酬は受け取ったか?」
「これですね。銀貨10枚です」
シェリーがお金の入った袋を差し出してきた。中には銀貨が入っているようだ。
「今日一日でこれだけっすよ...一人当たり銀貨2枚と銅貨5枚...これじゃ生活できないっす」
「師匠、もっと稼げる依頼受けないとオレ達干上がっちゃうぞ」
「落ち着けよ。まだ薬草の査定が出てねえだろ?それを加えりゃ銀貨5枚くらい行くぜ」
「あ、そうか。薬草のこと忘れてたぜ。いつ貰えるんだ?」
「明日だってよ。...他はいいな?じゃあ、飯屋に行くぞ。オレの馴染みの店があるからそこでいいか?」
「どこでもいいっす! とにかく早く食べたいっす!」
「飯!飯!」
「子供じゃないんだから...すみませんワロウさん」
「わかったつーの。ほら、さっさと行くぞ」
これ以上待たせると、本格的に騒ぎ始めそうな雰囲気だ。さっさと飯屋に連れて行った方がいい。というわけでワロウは3人を連れ、ギルドを足早に去ると馴染みの店へと急ぐのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます