…が見る夢は

ひすい輝石

…が見る夢は

寝いる男の首にナイフを突き立てた。

たったこれだけで人は死ぬ。

ナイフを引き抜くと血が噴水の様に吹き出し、私の顔を汚す。

今回も仕事が終わった。

死んでる男のために用意された寝酒を瓶から直接飲む。血のように赤いワインを。

酒を飲まずにはいられないぐらいのつまらない仕事だ。

さて、そろそろお暇する時間のようだ。

駄賃代わりに年代物のワインをいくつか頂戴して屋敷を後にする。

本当に酷い仕事だ。


「奥様、何か面白い記事でもありましたか?」

食後のお茶の時間。私の主人である奥様は面白そうに新聞を見ている。

見ている新聞はいわゆるゴシップ誌で、壮大に記者の妄想を垂れ流しにしている。

「えぇ。とても興味深いわ」

メイドが淹れた紅茶を一口飲み、新聞を私に見せた。

「私が議員と恋仲になっているみたい」

「左様ですか」

記事によると、3日前に奥様が議員と観劇をしたと。観劇後に夕食を共にして、議員の屋敷に行ったと。

3日前と言うと・・・

「3日前と言うと夜会の日でしたね。奥様と間違えるとは失礼な者ですね」

あの日、奥様はワインレッドのドレスをお召しになっていた。記事によると赤いドレス。

この記事は色の識別ができないみたいだ。こんなんで記者が勤まるのだろうか?

仮に勤まるとしたら新聞社のレベルもしれている。まぁ、ゴシップ誌にそこまで求めるのは酷なことだろうが。

さて、そろそろ・・・

「奥様、私はそろそろ失礼いたします」

お暇するとしますか。

「えぇ、そうね。また遊びにいらっしゃい」

奥様の許可をいただき、私は屋敷を後にした。

あの記事には続きがある。議員が昨日死んだと。


寝ている男の首にナイフを突き立てた。

たったこれだけで人は死ぬ。

ナイフを引き抜くと血が噴水の様に吹き出し、私の顔を汚す。

今回も仕事が終わった。

路上に男を放置した。朝になったら騒ぎになるだろうが、私の知ったことではない。

酒を飲まずにはいられないぐらいのつまらない仕事だ。

まだ開いている店を探そう。

その店で1番良いワインを1本飲もう。

本当に酷い仕事だ。


「奥様、何か面白い記事でもありましたか?」

食後のお茶の時間。私の主人である奥様は面白そうに新聞を見ている。

見ている新聞はいわゆるゴシップ誌で、壮大に記者の妄想を垂れ流しにしている。

「えぇ。とても興味深いわ」

メイドが淹れた紅茶を一口飲み、新聞を私に見せた。

「あの記事を書いた記者についての特集よ」

「左様ですか」

記事によると、その記者はとある議員について3年前スクープをしたと。

3年前と言うと・・・

「3年前と言うと新しい犬を飼った時期ですね」

あの年は忙しいかった。旦那様が若くして大臣に就任したのだ。

その就任祝いに奥様が旦那様に犬をプレゼントなされたのだ。

しかし、その犬は不慮の事故で亡くなってしまった。奥様は大層悲しんでおられた。私から新しい犬をプレゼントいたしましょうか?

さて、そろそろ・・・

「奥様、私はそろそろ失礼いたします」

お暇するとしますか。

「えぇ、そうね。また遊びにいらっしゃい」

奥様の許可をいただき、私は屋敷を後にした。

あの記事には続きがある。記者が昨日死んだと。


寝いる女の首にナイフを突き立てた。

たったこれだけで人は死ぬ。

ナイフを引き抜くと血が噴水の様に吹き出し、私の顔を汚す。

今回も仕事が終わった。

死んでる女のために用意された寝酒を瓶から直接飲む。血のように赤いワインを。

なんて不味いワインだろう。しかし、つまらない仕事にはピッタリだ。

さて、そろそろお暇する時間のようだ。

駄賃代わりに年代物のワインをいくつか頂戴して屋敷を後にする。

本当に酷い仕事だ。


「旦那様、何か面白い記事でもありましたか?」

食後のお茶の時間。私が使える旦那様は面白そうに新聞を見ている。

見ている新聞はいわゆるゴシップ誌で、壮大に記者の妄想を垂れ流しにしている。

「あぁ、とても興味深い記事だ」

メイドが淹れた紅茶を一口飲み、新聞を私に見せた。

「私が不倫をしているらしい」

「左様ですか」

記事によると、昨日、旦那様と若い女が観劇をしたと。観劇後に夕食を共にして、旦那様の屋敷に行ったと。

昨日と言うと・・・

「昨日は私と一緒でしたね。不倫と間違えるとは失礼な者ですね」

昨日、私は赤いドレスを着ていた。記事によるとワインレッドのドレス。

この記事は色の識別ができないみたいだ。こんなんで記者が勤まるのだろうか?

仮に勤まるとしたら新聞社のレベルもしれている。まぁ、ゴシップ誌にそこまで求めるのは酷なことだろうが。

さて、そろそろ・・・

「旦那様、私はそろそろ失礼いたします」

お暇するとしますか。

「あぁ、いつでも屋敷に来なさい」

旦那様の許可をいただき、私は別邸を後にした。

あの記事には続きがある。奥様が昨日死んだと。


寝いる旦那様の首にナイフを突き立てた。

たったこれだけで人は死ぬ。

ナイフを引き抜くと血が噴水の様に吹き出し、私の顔を汚す。

今回も仕事が終わった。

死んでる旦那様のために用意された寝酒を瓶から直接飲む。血のように赤いワインを。

私とあの娘が入れ替わったことも気づかない愚かな男。

酒を飲まずにはいられないぐらいのつまらないあの娘の仕事だ。

さて、そろそろお暇する時間のようだ。

駄賃代わりに年代物のワインをいくつか頂戴して屋敷を後にする。

あの娘の好きな銘柄は墓前に供えよう。

本当に酷い仕事だ。



「奥様、ひとつよろしいでしょうか?」

食後のお茶の時間。私の主人である奥様は不思議そうな顔を私に向けた。

見ている新聞はいわゆるゴシップ誌で、壮大に記者の妄想を垂れ流しにしている。

「えぇ。何かしら?」

メイドが淹れた紅茶を一口飲み、私に許可出した。

「奥様の命を頂きたく思います」

「あら?」

旦那様からは3日後に奥様の命を頂くよう言われた。その後一緒に年代物のワインで乾杯しようと誘われた。

3日後と言うと・・・

「3年前になるのね。あなたに出会って」

あの日、私は奥様に拾われた。私のたった一人の主人。

主人の命令で旦那様に使えている。しかしこの男は無能である。

こんなんで大臣が勤まるのだろうか?

仮に勤まるとしたら賄賂の力であろう。まぁ、末期の国に清廉潔白を求めるのは酷なことだろうが。

「それで、貴女はどうしたいの?」

「私は奥様になりたいのです」

たったこれだけで奥様は私の意図を理解できる。

だからこそ邪魔になったのでしょうか。いつもの様に私に仕事を命令した。

私の主人が誰であるかを忘れて。まぁ、無能だから仕方ないのでしょう。

「わかりました。貴女の最後の願いは何?」

慈悲深い奥様に甘えて私は願いでる。

「では、奥様のワインレッドのドレスを頂きたいです」

「いいですよ。衣装部屋にありますから自由にしなさい。その代わり貴女の赤いドレスを貰います」

私と奥様は立ち位置を入れ替えた。

さて、そろそろ・・・

「貴女には悪い事をしました。あの人の凶行を止めなかった私も同罪です。貴女は私も恨んでいますか?」

暇を頂きますか。

「いいえ。お慕いしております」

奥様は驚いた顔をした。私はニッコリと笑い衣装部屋に向かった。

きっと今晩飲むワインは不味いだろう。


最後の時ぐらい奥様と一緒にワインを飲む夢を飲むぐらい許されるだろうか?

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