第3話 いつもの日常②

県立K高校へは徒歩で通っている。

家から歩いて15分位なので、朝はぎりぎりまで布団を被っている。

こんな話をすると立地条件で高校を選択したように思えるが、実はK高校はいわゆる進学校なのである。

先の件で頭が悪いイメージを持たれてしまったかもしれないが、数学以外はそこそこの成績だ(たぶん)。

更に言わせてもらえば、今回の中間テストの単元である『確率』は相性が悪いと思う。

学習の費用対効果が低い、つまり学習に費やした時間の割に全く成績が上がらない。

「ほどほどに頑張る」がモットーである俺は、テストの勉強時間もほどほどだ。

確率は、詰まるところ、全ての事象と求める対象の事象を各々数えて割り算をすればいい・・・という理解まででテストに挑んだ。


丁寧に一つ一つの事象を数えていたのだが、数が多く、どうしても数え漏れが生じてしまう。

 1つでも漏れが生じればそこで不正解になる。

 とてもシビアな学問だ。


「う~ん、どうしようかな。苦手意識が拭えないんだよなぁ。確率のとこ。ここは久しぶりに優秀な友に教えを乞うしか…」


「おーい!はじめちゃん待って~」

 優秀な友が追いかけてきた。


「あれ?千代、部活は?」


「…えっと。今日はちょっと体調悪いから休んじゃった」

「千代が体調崩すなんて珍しいな。大丈夫か?」


「うん。大丈夫。ありがと。それより、はじめちゃんこそ追試大丈夫なの?」


「実は確率よく解らなくて。一週間頑張ってみるけど。…できれば、千代に・・」


「私が教えてあげよっか?」

 千代子が食い気味に提案してきた。

こちらの要求を向こうから提示してくれるとは…彼女は神か!?


「それは助かる!よろしくお願いします」

 感謝の意を込めて一礼すると、千代子は満足そうな笑みを浮かべた。


「OK!任せなさい。それにしても、はじめちゃんに勉強を教えるなんて久しぶりだね。高校入試の時以来じゃない?」


「あの時はお世話になりました。千代に教えてもらわなかったら、マジでK高受かってなかったよ」


「そうだね~w」

 これは誇張のない事実である。

当時俺は県立K高校を第一志望としていた。

理由は、進学校であり、自宅からも近い(←主にこっち)という点である。

ただ、このK高校は受験者層のレベルが非常に高く、俺の成績では合格は絶望的であった。

そんな時救いの手を差し伸べてくれたのが千代子だった。


千代子はうちの近所に住んでいる。

いわゆる幼馴染というやつだ。

千代子は自分の成績についてほとんど語ったりはしないが、俺は天才だと思っている。

彼女の教え方は学校の先生より断然上手だし、何より分析力が飛び抜けていた。

彼女の予想問題の的中率は90%を超えるのではないだろうか。

はっきり言って超能力者ではないかと疑うレベルだ。


ただ、千代子が言ったように高校生になった後は、俺は千代子に勉強を教わっていない。

というのも、受験勉強をしている間、千代子はほぼ付きっ切りで俺に勉強を教えていた。

当時は必死だったので好意を受けさせてもらっていたが、冷静になって考えると彼女はいつ自分の勉強をしていたのだろうか。

人に迷惑を掛けてはいけないという両親の教えと、千代子に対する悔恨の情から俺は高校生になったら独力で頑張ろうと思っていた…。

だがしかし、その決意も2学期半ばにして頓挫することになった。



「ねぇ、はじめちゃん。神社寄っていこうよ」


 千代子の声に反応して前方を見ると、小高くそびえ立つ丘陵が見えた。

捨剥神社とはこの山の頂にポツンと建つ神社である。


「いや、止めとこう。てか、ここの神社って階段を何段上る必要あんの?」

捨剥神社は市内にあるのだが、神社に辿り着くまでに千段以上の階段を上る必要がある。

そのため、俺は一度も捨剥神社を訪れたことはない。


「うーん、何段だろうね?数えたことない。でも、神社でお参りすると願い事叶うらしいよ」


「俺の母ちゃんが言ってたけど、この神社の神様って願い事を叶えるっていうより、頑張りを後押しするだけだって。結局、神頼みしている暇があったら自分で頑張りなさいってことだよ。それに、こんな長い階段上ったらそれだけで疲れるわ」


「確かに。疲れて勉強できなくなったら、そっち方が問題だね」


 神社に続く道を通り過ぎ、しばらく歩くとT字路に到着した。

ここから俺と千代子の家はそれぞれ逆方向にある。


「じゃあ、はじめちゃん。今日は何時から勉強する?」


「えっ?今日はいいよ。自分でやるから。さっき体調悪いって言ってたじゃん。明日からお願いするよ」

「えーっと…そうだね。じゃあ明日から頑張ろう」


「うん。じゃあ、バイバイ」


「バイバーイ。また明日」


 千代子と別れて、自分の家へと歩を進めた。

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