144
来た来た、ついに来たよ! 教国正規軍が攻めてきましたよ!
いや、攻めこんだのは俺だから、奪い返しに来たっていうのが正解か?
でも返してあーげない! もう俺のものだもーん!
攻め取った村や町は、もう大魔王建築有限会社の手で再開発されてるしね。伊達に【大工】
再開発された町は【並列思考】の効果もあって、かなり快適になっていると自負している! ジフフフ。
まぁ、防壁があるのは最前線の町だけなんですけどね。初期に占領した村や町は、ただの住みやすい町になってるんですけどね。
いや、物資の輸送は【時空間魔法】で楽勝なんだけど、物量には限りがあるじゃない? 石材は錬金術でいくらでも作れるけど、鉄とかの在庫には限りがあるんだよ。
それに、支配領域が広がるほど防衛線も長くなって、必要な物資の量も増えていくんだよね。
だから防壁とかは後方から最前線に移築して再利用してる。リサイクルですよ。
その甲斐あって、防衛線に綻びはない。完璧。
「ぬぅ、なんという長大な防壁か。これは一筋縄ではいかんな」
今回教国の軍約一千を率いてきたのは聖者のひとり、剣の聖者。
教国に潜入して知ったことなんだけど、教国で言う聖者って、他の国で言う名持ちのことらしい。何かの称号を手に入れて名持ちになると、教国では聖者と呼ばれるようになるんだそうな。
独自のシステム作ってるんじゃねぇよ! 分かり難いだろう! 国際標準に準拠しろ! お前は中華の衣料品か! サイズが小さいんだよ!
で、剣の聖者っていうのは、他の国で言う剣聖のことらしい。【剣聖技】を持ってるってことだな。
教国には、他に
昔は王族や教会から謂れなき差別や迫害を受けてたりしたのかね? 信頼できるのはアライグマと鳥だけだったり? それは無いか。
聖者じゃないけど、それに準ずる聖女も過去にはいたらしい。これは称号も聖女で、癒やしの魔法が使えたんだそうな。
……皇国の変態の街にもひとりいるんだけど、聖女。あの娘もひょっとして癒やしの魔法が使えたりするんだろうか? 確かめておいたほうがいいな。
剣の聖者は、短髪白髪に切り揃えられ髭のおじいちゃんだ。いかにもだな。
けど着ているのは羽織袴や着流しじゃなくて、普通にリングメイルと手甲足甲だ。提げてる剣も両刃の直剣一本だし、普通にファンタジーの騎士って感じ。
そりゃそうだよな。俺が
教国軍一千というのは、総兵力の三分の一くらいだ。
教国は国軍として約三千の兵士を保有しているらしいんだけど、三分の二は各地の治安に派遣していたり休暇だったりお偉いさんの護衛だったりで、すぐには動かせない戦力らしい。
なので、一千はすぐに動かせる全数ってことだな。おっつけ、予備兵力として一千くらいが送られてくるらしい。残りの一千は各地の治安維持のために動かせないんだとか。
っていうか、大魔王軍は三千以上いるんですけどね。三分の一の兵力でこの防壁を破れると本気で思っているんですかね?
攻め手三倍の法則っていうのをご存じないんですか? 守るほうが有利なんだよ?
っていうか、他の聖者を連れてきてないってどういうことよ? 戦力小出しにするとか、本当に勝つ気あるの? 舐めすぎじゃない?
まぁ、舐めてくれて、楽に倒せるならそれもアリだけどな。こちらとしてはありがたい。
現実はハードモードよりイージーモードなほうがいいよね。イケメンで名家でお金持ちは最強だよ。人生ラクショーだよ。人は生まれが九割だよ。
おっ、攻めてきたな。ジワジワ盾兵が距離を詰めてきてる。そのすぐ後ろに弓兵がいる。
騎兵は……いないか。俺に近づくとウマが暴走するっていうのが、ちゃんと伝わってるんだな。ありがたい。
実に、切実にありがたい! もう喰われるわけにはいかない! 喰わせるものがない! 大魔王は既に丸裸なのですよ!
まぁ、大魔王タイプは本拠地の盆地で療養中だから、ここにはいないんだけどな。回復まで、あと十日はかかる。もっさり葉を繁らせないと。
さて、それじゃ迎撃しますかね。まだ向こうは弓の射程じゃないけど、こっちは高さがある分、遠くから撃てるからな。有利は活かさないと。
ゴブリンタイプを防壁の上に並べて弓を構え、一斉に発射! そのまま連射で矢の雨を降らせる!
「ぐあっ!」
「ぎゃあっ!」
よしよし、いい感じに当たってる。盾を貫いてる矢もあるな。我ながらいい腕してるぜ。
「なっ!? 何故だ、何故盾が貫かれる!? この威力は何だ!?」
「聖者様、危険です! お下がりください!」
種明かしは簡単。
まず弓が違う。こちらが使っている弓は、ギーの鍛えた合金の板と俺のスネ毛毟り木材を張り合わせた、いわゆる複合弓というやつだ、
機械式のコンパウンドボウを作れたら良かったんだけど、流石に構造が分からなかったからな。仕方がない。
でも素材はかなり上質だから、それだけでかなり威力が上がっている。この世界の弓の五割増くらいは性能が高い。
さらに、俺には風魔法がある。追い風にすれば射程が伸びるし、誘導してやれば命中率も上がる。相手の矢を押し返すこともできる。
さらにさらに、撃ち手の意思疎通が完璧ということもある。ターゲットを絞るも拡散させるも、瞬時に思いのままだ。弾幕に穴の開くことがない。
遠距離戦は圧倒的にこちらが有利だ。盾も役に立たない。
防壁に取りつくどころか、近づくことさえできまい。さぁどうする!?
「ええい、一旦引け! 態勢を整えるぞ!」
おや、意外とアッサリ引いたな。ムキになって突っ込んでくるかと思ったのに。
うーん、盾の聖者は直情型で頭が固そうだったけど、剣の聖者はそうでもないのか? 年の功? 亀の甲は、踏み続けるとワンアップするぞ?
随分大胆に下がるな。これはもう、今日は再戦する気がないな? 続きは明日っぽい。
いや、ギリギリ矢が届かないこともないんだけど、威力も命中精度も期待できない。有効じゃない。矢の無駄だ。
引いていくなら追撃してもよかったんだけど、追いかけると向こうの弓の射程に入ってしまうからな。さすがの俺も不死身じゃないし危険は避けておきたい。
なので追撃はしない。深追いはしない。ここは勝者の余裕で見逃してあげよう。
というわけで、さぁ皆、勝利の雄叫びでお見送りだ!
「「「イィーッ!」」」
うん、いいね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます