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「森に生き物を捨てていくのは感心しないですの」


 人聞きの悪い言い方をするなよ、捨ててるわけじゃねぇよ。飼育できる場所に連れてきてるだけだっつうの。


 ウマ、計十三頭。


 あれから何回か教国の貴族と戦闘になって、その度にウマが、ね。

 なんでお前ら、ウマに乗って来るんだよ? 歩いて来いよ、その足は飾りか?

 馬車ごと突っ込んできたこともあったよ、二頭立て。御者が慌てて領主(?)を連れ出してた。ってか、馬車で戦場に出てくるなよ。


 おかげで、ウマに喰われて大魔王のトーガはボロボロ。もう腰巻きくらいの長さしか残っていない。

 これ以上喰われると全裸に編み上げサンダルというヌーディストビーチスタイルになっちゃうから、今は侵攻を止めてるくらいだ。

 ヌードのまま決められたエリアの外に出てはいけないのですよ。カメラ類の持ち込みも禁止です。捕まります。


 むっ? そういう意味では、ウマは効果があったのか? 実は遅滞戦略? なんという遠慮深謀、敵方には孔明がいる?

 まぁ、教国側あちらさんも『大魔王はウマを暴走させるのか!?』『猛獣大魔王の再来!?』とか言ってたから、多分意図的ではない。孔明は居ないっぽい。周瑜くらい?


 トーガに喰い付いたウマは例外なく眷属になっちゃったから、処分するわけにもいかないし。さすがに眷属を処分するのは、ねぇ?

 かといって、このままトーガを喰われ続けるのは困る。将来『丸出し大魔王』と呼ばれることになる。いや、今も実は丸出しだけれども。木なので。


 だから森で放牧だ。ロリ先輩が管理するこの森なら安心だからな。

 当然、お世話もロリ先輩に丸投げだ。俺がやると喰われちゃうし。


「はぁ、しょうがないですの。狼とユニコーンとは別のエリアに放牧しておくですの」


 さすがロリ先輩、頼りになるぅ。

 またウマが増えたら連れて来るから、よろしくね?


「……森に生き物を捨てていくのは感心しないですの」


 それは教国の貴族に言って。


「それはそれとして、侵攻状況はどうなんですの?」


 まぁまぁ順調かな? いまのところ村五つと町三つを占領してる。


「それは重畳ですの。それで、再開発はどうですの?」


 まだ村三つだけだねぇ。建物全撤去して区画整備して住宅建てて農地整理して水路引いて〜だから。とにかく手間がかかってさぁ。


「まぁ、仕方ないですの。それは今後のために必要なことですの」


 うん、教国に支配されてたときより快適な環境を提供するためだからな。


 人が統治者に不平不満を持つのは、生活水準が低下した時だからな。物価や税金が上がったときとか。

 逆に、以前より生活が楽になれば統治者に悪い印象は持たない。むしろ支持してくれる。人っていうのはそういう単純な生き物だ。

 統治者変更でより生活が楽で快適になれば、以前の暮らしに戻りたいと思う者はほとんど現れない。たとえそれが大魔王の統治下でも。

 まぁ、楽な方に流されるのを良しとしない頑固者も偶にいるけどな。

 けど、そういう奴も理由があれば流されてしまうものだ。例えば、生まれ故郷に戻るためには受け入れるしか無い、とかね。

 で、一度流されると、あとはもう流されるまま。行き着くところまで流されるのみ。


「本当、悪辣ですの。そういうところは大魔王らしいですの」


 いやぁ、それほどでもぉ?


「褒めてないですの」


 うん、分かってる。オ・ヤ・ク・ソ・クだからね。


 けど、今回はやり過ぎなくらいでいい。もしかしたら、まだ足りないかも。

 なにしろ、教国の国教である聖教だか正教だかを捨てさせなければならないからな。宗教という世界で一番面倒くさい問題だ。


 もう既に、侵攻したエリアの元住民たちには『教会の真実』ってやつを【闇魔法】で見せてある。

 だから信仰心はかなり下がってるはず。

 それでも、なかなか捨てられないのが信仰ってやつだ。犯罪カルト集団なんかでも、なんだかんだ理由を付けて現状を維持しようとする人が多い。

 生活の一部になってるんだろうな。それを捨てるってことは、それまでの人生を否定されるような感じがするんだろう。そりゃ捨てられねぇよな。


 でも、今回は捨ててもらう。『大魔王絶対殺す教』なんて許可できねぇからな。


「当然ですの。アタシも殺されちゃうですの」


 ロリ先輩も魔王だからな。他人事じゃない。棄教は絶対条件だ。


「そうですの! どうせなら例の新宗教を布教すればいいですの!」


 うっ、あれかぁ……あれはなぁ。


「あの宗教は御本尊が大魔王(の分身)ですの。大魔王の領地の宗教としては、これ以上はないですの」


 いや、それはそうなんだけど……えぇ〜? アレを広めるの?

 だってアレ、変態全肯定宗教だよ? 教国の宗教の真逆だよ? ある意味、究極の邪教だよ?


「何を今更、ですの。大魔王が邪教の神、邪神になったところで大差ないですの」


 いや、凄い差じゃね? 邪神って大魔王よりもワンランク以上上だと思うけど?


「それでも、もう世界は動き始めてしまったんですの。他ならぬ貴方が動かしてしまったんですの。なら、その責任は取らなければならないですの!」


 うーん、それはまぁ、そうなんだよなぁ。責任、かぁ。


「人々には心の支えが必要なんですの。そのひとつが宗教なんですの。それを捨てさせるなら、代わりの何かが必要なんですの」


 それなぁ……仕方ないか。

 ブタ領主のところから誰か派遣してもらおう。もうそろそろ宣教師のひとりくらい育ってるだろう。


 そうだよな、どのみち世界の統治手段として利用するつもりだったんだし、ちょっと早めに拡散するだけだよな?

 よし、そうと決まれば、占領地に教会を建てるか! 無駄に立派なやつ!

 やるならトコトンだ!

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