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やっと来たか。もう村四つ占領しちゃったよ? 外壁まで作っちゃったよ?
ちょっと派兵が遅いんじゃないの? そんなことじゃ国民の皆様に支持されないよ?
数も少なくない? ひぃふぅみぃ……たくさん。いや、百人くらいか。
君たち、俺が皇国の先遣隊を殲滅したことは知ってるんだよね? なのにそれと同程度の数しか送ってこないって、何を考えてるの? 生贄? 足止め?
あ、馬に乗った偉そうなのが出てきた。……手強そうだな、あの馬。乗ってる奴はどうでもいい。
「我が名はモロゾフ=シャトレーゼン! この地を治めるシャトレーゼン伯爵家の嫡男なり! 当領地にて非道を働き、世を乱す諸悪の根源、大魔王に名誉の一騎打ちを申し込むものなり! 我が武勇を恐れぬならば、いざ尋常に勝負!」
ほほう、美味しそうな名前だな。洋菓子系、神戸っぽい?
ふーん、伯爵家ねぇ。ああ、国軍じゃなくて伯爵家の軍なのか。だからこんな人数なのね。
嫡男ってことは、ご当主は引き籠もってるのか。どっちがビビってるのやら。
まぁいい、相手をしてあげよう。そろそろ軍と戦う練習もしておきたいと思ってたんだよな。丁度いい頃合いだ。
開門! 丸太を組んで作られた城門が左右に開いていく。動かしているのは二体のゴブリンバージョンの俺。
豪華な輿に乗った大魔王バージョンの俺を、二十名くらいのゴブリンバージョンの俺が担いで門の外まで運ぶ。乗ってるのも運ぶのも俺。つまり自分の足で歩いてるのと同じ?
むぅ、俺って生木だから意外に重い。でも筋トレだと思って気合で運ぶ! そいやっそいやっ! 筋肉ないけど! 植物なので!
まさか本当に大魔王が出てくるとは思わなかったんだろうな。ゴディバ……じゃない、モロゾフ君が顔を引きつらせている。
馬は荒ぶっている。よだれを撒き散らすな。やっぱ臭いかね?
「良かろう。余は慈悲深い。身の程知らずに世界の広さを、余が直々に教えてやろう」
地面に降ろされた輿からゆっくりと立ち上がる。このスピードが大事なんだよ。威厳のある動きはゆっくり目。ここ試験に出るから。
「の、望むところだ! 我が槍の前に果てるがいい! い、いくぞぉっ!?」
モロゾフ君が言い終わるや否や、馬が駆け出す。というか、あれは勝手に駆け出した感じだな。暴走。
馬の目が血走ってる。モロゾフ君が振り落とされそうになってるじゃねぇか。興奮し過ぎだ。
馬に乗ってるモロゾフ君よりも、立ち上がった俺のほうが視線が高い。なんなら、ヤンキー座りしてもまだ俺のほうが高い。
あんまり大きくてもやり辛いんだよな。しゃがむか。
ヤンキー座りする大魔王というのもなかなか無い絵面だよな。世間一般の大魔王っていうのは、だいたい玉座に座ってるか立ってるかだ。レアだよ、レア。
おっと、俺のナイスガイがボロンしちゃうところだった。トーガで隠してっと。
なんてやってるうちに、モロゾフ君が目の前に……目の前に……いない? あれ? 馬だけ?
あらら、振り落とされちゃってるじゃないのよ。大丈夫?
馬は一心不乱に俺のトーガに喰い付いてる。このトーガは俺の葉を変形させたものだからな。この草食動物め!
まぁ、痛くないからしばらく喰わせておこう。満足したら離れていくだろう。
さて、モロゾフ君は……死んではいないみたいだな。でも気絶してるっぽい。兵士たちに担がれて後ろに運ばれていく。これはもう一騎打ちは無理だな。
しょうがない。あんま練習にはならなさそうだけど、やるか。
「ふん、興醒めよな。話にならん。お遊びに付き合うのはここまでだ。者共、やれ」
「「「イィーッ!」」」
輿を運んでいたゴブリンズを兵士たちに向かわせる。大魔王は輿に戻って座る。馬はまだ俺のトーガを喰ってる。夢中で喰ってる。
「うわぁーっ!?」
「怯むな、戦え! 背中を見せたらやられるぞ!」
「くるな、くるなぁーっ!」
うーん、あんまり訓練にならないかもなー。リーダーのモロゾフ君がやられて……自滅して、集団的な行動ができなくなってる。
ちょっと偉そうなオッサンが声を荒げてるけど、全体を統率するまでには至っていない。逃げる者、立ち向かう者、てんでバラバラ、てんバラだ。
その点、俺のゴブリンズは完璧だ。大声を出さなくても意思疎通は完璧。全員俺だからな。
たまに『イーッ』『イーッ?』『イィーッ!』みたいなやりとりはしている。意味はない。
まずはあのオッサンだな。曲がりなりにも指揮を執ろうとしている。最初に
「ぐっ!? ぬぅ、ぐあっ!」
ハイ終了。頭を殴打して気絶させたった。
うーん、普通? これが平均的な兵士の強さなのか? よく分からん。俺は名持ち級の
「うわぁっ、隊長がやられた!」
「もう駄目だ、逃げろ!」
おおっと、総崩れ。
なるほど、これが指揮官を叩く効果か。実に分かりやすい。
まぁ、逃さないんですけどね。全員捕縛して【闇魔法】で記録映画鑑賞の刑なんですけどね。
さぁ、お前たち、やっておしまい!
「「「イィーッ!」」」
ここは『アラホラサッサー』のほうが良かったかも? まぁいいか。
んー、楽勝だな。百対二十でも、俺のほうが圧倒的に強いらしい。これが名持ちと一般人の差か。
そう考えると、アローズはそれなりに有能な軍人だったんだな。今は鍛冶屋の見習いだけど。次の機会には戦場で指揮を執らせてみようかな?
おっと、もう終わったか。あっという間だったな。後ろに運ばれていったモロゾフ君も縛られてる。
さて、それじゃお待ちかねの記録映画鑑賞会を始めますか。楽しんでいってね! それじゃレッツスタート!
って、いつまで俺のトーガ喰ってるんだよ馬! それ以上短くなったらボロンしちゃうだろ!
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