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「うわぁー!? なんだあの化け物はっ!?」
「ひぃぃっ! 坊や、坊やはどこ!? 早く逃げるのよ!」
「うわぁーん! ママァー、どこぉ!?」
善は急げ、悪はもっと急げ。じゃあ、大悪は
いやいや、悪じゃありません。自己防衛と名誉挽回ですよ。大善です。
教国は俺の命を狙っているし、我が心の友『猛獣大魔王』に大悪のレッテルを貼った仇敵だからな。攻め込む大義名分は十分。
ということで先手必勝、大魔王軍進撃開始! この村が最初の生贄だ!
はははっ! 見ろ、人がモブのようだ! いや、正しく
うむうむ、いい感じに阿鼻叫喚だな。パニック映画を生で観てる感じ。4DXとか目じゃないくらい臨場感がマックスだよ。見ろよあのオッサンの焦り顔。プププッ。
ボンちゃん大魔王バージョンを連れてきてよかったな。やっぱ見た目のインパクトは大事だよ。
あのまま地下の玉座に座らせておくだけじゃもったいないからな。見せるために作ったんだから、どんどん見てもらわないと。さぁ、アタシを見て!
引きこもりじゃ、自宅警備大魔王のレッテルを貼られてしまいかねないしなぁ。
いや、大魔王ならそれでいいのか? 本拠地から出てくる大魔王って聞いたことないしな?
進軍のお供は苗木ちゃんズ。【変態】
青い肌で鷲鼻、ツリ目のギョロ目、ギザ歯で大口、とがり耳の猫背という、ちょっと悪魔っぽいタイプのゴブリン。ペル◯ナの◯ゴールっぽい感じ。ベルベットルームに引きこもりのあの人ね。でも髪はある。
服は、ボンちゃん大魔王バージョンに合わせたトーガ風の布と編み上げサンダルにした。やっぱ統一感って必要だよね。
武器はギー特製の槍とか剣とか、いろいろ持ってきた。死蔵してたからな。よかったね、使う機会があって。
この村は……名前は忘れた。なんか、教国の中では俺の住んでる盆地に一番近い村。サイハテ村?
とりあえず、近いところから順番に制圧していこうかなと思って。
いや、いきなり教国の首都を落としても良かったんだけど、それじゃちょっと宣伝が足りないじゃん?
俺の身の安全を図るだけならそれでも良かったんだけど、猛獣大魔王の名誉を回復させるなら、教国の非道を全世界に喧伝する必要があるんじゃないかと思って。
それには人から人への口コミが必要なんだよね。この世界には新聞とかテレビとかが無いから。情報がすぐには伝わらない。
なので、近場の村からひとつずつ、絶妙な具合に追い立てていこうかなって。
小さなことからコツコツと。蹂躙は毎日の積み重ねです。
「くそっ、オレたちの村を潰されてたまるか!」
「家族はオレが守る!」
「や、やってやる!」
粗末な槍や剣を持った男たちが、逃げる村人と俺達の間に割って入る。この村の自警団かな?
その意気や良し! 正義とか大義とかじゃなくて、自分の大切なものだから守るっていう考えはとても理解しやすい。具体性もあるしな。
教会の教えだからだとか人の道に反するからだとか、中身のない言葉に踊らされて命を落とすなんて馬鹿馬鹿しい。ただの無駄死に犬死にだ。ワンコが死んだら悲しいけどな!
でも、悲しいけど、これって戦争なのよね。
「やれ」
「「「イィーッ!」」」
無駄にイケボで大魔王がゴブリンズに命じる。返事は伝統の『イィーッ!』だ。『いいよ!』を略して『イィーッ!』。
って、命じる必要も応える必要もないんだけど。全員俺なんだし。形式美だよ形式美。それがイィーッ、それでイィーッ。
「ぐあっ!?」
「ぎゃっ!」
「あいたっ!」
ゴブリンが数匹、人には出せない速さで自警団ズに接近し、峰打ちや槍の石突きでの殴打で無力化する。命じてから二秒かかってない。
なにしろ【槍聖術】と【体術】、【剣術】があるからな。素人相手じゃ話にならない。このゴブリン、こう見えて雑魚じゃないんですよ。
「み、ミーシャたちがやられた! 早く、早く逃げろ!」
「いやーっ! 坊や、坊やはどこっ!?」
いや奥さん、まだお子様を探してたのかよ。ほら、そこだよ、その井戸の影のところに
視点が高いと見つけやすいな。大きいことはいいことだ。
もう、しょうがねぇなぁ。
「うわぁーっ!? やだぁー、ママぁーっ!」
「坊や!? 坊やが! 誰か助け、ひぃっ、こ、こないでっ!?」
ゴブリンがお子様をとっ捕まえる。四歳くらいか? 赤毛で肌が白いな。教国に多いタイプだ。あーあ、鼻水垂らしちゃって。
襟首を掴んで、持ち上げて運ぶ。お子様が抵抗して暴れるけど、所詮お子様。その程度では壊れスペックの俺からは逃れられんのだよ。ご飯いっぱい食べて、もっと強くなれ。
お母さんは尻もちをついてないで立ちなさい。
「イー」
「ママぁーっ!」
「え? あ、いいの? どうもありがとう?」
「イー」
お子様を母親に渡してやる。お子様が母親にしがみついて泣きわめく。
いや、お礼とかいいから早く行けよ。手に持った槍で先を指し示して促す。
まぁ、逃さないんですけどね。ゴブリンズで誘導して、村の広場に追い込んでるだけなんですけどね。
どれどれ……うん、【気配察知】にも引っかからないし、これで全員かな。
大体百人くらいか。小さい村だな。
まぁ、最初だからこれくらいでいいか。実験には丁度いい。
あっ、誰だよ火の始末し忘れたの! 火事になっちゃうじゃん! それピュピュっと大魔王水流。よし鎮火。
さて、それじゃ始めますか!
「聞け、小さき人間どもよ! 我が名はボン=チキング! 魔王の中の魔王、大魔王なり!」
身を寄せ合う村人の頭の上から、大音量でご挨拶だ。挨拶は大事。まずは名乗りからだよね。
むっ、なんか小さな悲鳴が聞こえた気が。人の挨拶を聞いて悲鳴を上げるとか、なんて失礼な奴らだ。上げるなら黄色い声にしておけよ。
いや、俺は大魔王。そんな小さなことは気にしない。気にするべきじゃない。我慢我慢。
いずれそのうち、俺の名乗りを聞いただけで『きゃー、ステキー、抱いてー』ってなる日がくるさ。きっと。
「愚かにも貴様ら教国は、我を討伐せしめんと挙兵を画策しておる! しかし、そこに大義はなく、ただただ自己満足があるのみ! その増上慢、甚だ許し難し!」
あー、いかん。カッコつけようとして、ちょっと難しい喋り方をしてしまった。辺鄙な村の朴訥そうな村人に理解できたかな? うーん、ビビってるからよくわからんなぁ。
仕方ない、ここで喋り方を変えるのも変だし、このまま言っちゃおう!
「そもそも教国は、その成り立ちからして欺瞞と虚飾に塗れた度し難き国よ! 見よ、悪しき教国の成り立ちの真実を! 我が
ここで【闇魔法】と【幻術】を発動! ロリ先輩に観せてもらった猛獣魔王の記憶を村人の脳に流し込む!
コピーのコピーだから一部不明瞭な部分もあるけど、そこは俺の脳内で補完した。捏造ともいう。
いいのだ! こういうことは言ったもの勝ち、やったもの勝ちなのだ! 悔しかったら、俺以上に説得力のある情報を提供するんだな!
「こ、これは!?」
「そんな……それじゃ、今までの教会の教えはいったい……」
「嘘だ! こんな、こんなこと!」
「……もうじゅうさん、かわいそう……」
ざわめいてるなぁ。泣いてる子供もいる。効果は予想通りかな?
まぁ、今まで信じていたことが嘘だった、為政者に都合の良いように改ざんされたものだったというのは信じがたいだろう。価値観の全否定に近いからな。
でもそれが真実なのだよ! 信じる信じないは関係ない! 真実は常にひとつと不登校の高校生探偵も言っている!
それに、この情報は【闇魔法】で脳に直接叩き込まれている。だから忘れることは難しいし、何かある度に思い出され、教国への疑問と猜疑心を呼び起こすはず。
つまり、もう君たちは教国の教えを信じることができない体にされてしまったのだ! なんて悪辣な!
「観たか? ならば分かったであろう? 不幸をばら撒き続ける教国を許すことはできぬということが! 此度、貴様らは真実の最初の証人となった! ならば己が為すべき使命も分かったはずだ! ゆけ! そして語れ! この国の真実を! 過去の過ちを! そして今また為さんとしている暴虐を! 貴様ら民の手に真実を取り戻すのだ! 我が名はボン=チキング! 真実を語る者なり!」
【話術】先生はちゃんと仕事をしてくれているかな? まぁ、信用してますけど。
ゴブリンズが、家々を回って集めてきた食料や金銭を村人たちの前に投げ捨てる。ついでにじゃがいもとネコ麦も付けてやろう。これだけあれば隣村くらいまでは保つよな?
ゴブリンズが村人を追い立てて村から追い出す。悪いけど、村自体は接収するから。ここまで俺の陣地ね。空中も駄目。
まぁ、初回はこんなものかな? それなりに上手くできたんじゃなかろうかと自画自賛。
これで口コミが広まれば、猛獣大魔王の汚名も晴れるはず。時間はかかるかもしれないけどな。
さて、それじゃ次の村を目指しますか。侵略はコツコツとね。
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