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「ぶひっ!? それはどういう……」


 ふむ、流石にこれだけでは意図が通じなかったか。ちょっと迂遠だったかな。


「うム、アタシは大魔王様より名付けの力を授かっていル。端的に言えバ、お前を名持ちにしてやれるということダ」

「なんと!?」


 俺にもね、これがどういう仕組みで成り立っているのかは分からないんだけど、できちゃうんだからしょうがない。

 なんとなくバグなんじゃないかなーって気がしないでもない。沢山ある技能スキルやら称号やらの相互干渉で、とかね。いかにも有り得そう。


「名持ちになれば新たな技能を得ることができるだろウ。もしかしたら称号もナ。ただシ、それは完全に大魔王様の支配下に入るということダ。もう後戻りはできなくなるということダ」


 マジで眷属からの解放の仕方が分かんねぇんだよな。

 それに、名付けするとシャリムみたいに変な称号が生えちゃうこともあるし。真っ当な社会では生きていけなくなるような、こっずかしい称号が付くこともあり得る。

 いやむしろ、豚領主ならその可能性のほうが高い。十中八九、人には言えないような称号が付く。【ドMブタ】とかな。


 豚息子と焼豚婦人が顔を青くしている。だよな、お前らもそう思うよな? そんな恥ずかしい称号持ちの家族なんて嫌だよな?


「その上でもう一度問おウ。人を辞める覚悟はあるカ?」

「あります」

「貴方!?」

「父上!?」


 ノータイムかよ。しかも初めてみる真面目な顔だよ。そんな顔もできたんだな。アヘ顔しかできないと思ってた。

 豚息子と焼豚婦人も慌てている。まさかの人間辞めます宣言だもんな。身内から大恥を晒そうという者が出ようとしているんだから、そりゃ焦るよな。さもありさもあり。


「ズルいです、父上だけ!」

「そうよ、わたくしたちもご褒美が欲しいですわ!」


 そっちかよ! 羨ましかっただけかよ! やっぱり家族だなこの似たもの一家め!

 それと奴隷子ちゃん、羨ましそうに指を咥えない! 君も大分この変態家族に毒されてるな!


「う、うむ、そうだな! ロキシー様、厚かましいことは承知でお願い致します! 是非、是非に我が家族にも名付けの栄誉を!」


 ああもう、しょうがねぇなこの一家は!


「はァ、分かった分かっタ。ついでにそこの娘にも名をくれてやろウ」

「「「ははぁっ! ありがたき幸せ!!」」」

「本当に!? 本当にオラにも名前がいただけるだか!? ありがとうごぜぇますだ!」


 まったく、どいつもこいつも嬉しそうにしやがって。そんなに人間が嫌か? 俺なんて人間になろうと頑張って、ようやく一歩近づけたところだっていうのによ。

 まぁ、その一歩が【変態】なんていう、身も蓋もない技能なわけだけどさ。世の中ってままならないよな。


 今の奴隷子ちゃんには名前がない。仮の名前すらない。奴隷商のところでは『おい』とか『お前』とか呼ばれてたみたいだし、この屋敷でも『娘』とか『小娘』としか呼ばれていない。

 なので、奴隷子ちゃんが喜ぶのだけは納得だ。やっと自分の名前がもらえるんだからな。

 そう考えると、結構責任重大……いや、今更か。これまで散々名付けしてきたんだからな。


「むすメ、名前の希望はあるカ?」

「いえ、ロキシー様に付けてもらえるなら、ゴミでもカスでも嬉しいですだ!」


 この娘も大概だな。流石にそこまで酷い名前は付けねぇよ。多分。


 まぁ、こうは言っていても、内心では希望の名前があるはず。ジョゼフィーヌとかクリスチーネとか。どれどれ、ちょっと覗いてみましょうかね。


『ロキシー様がオラに名前を付けてくれるだなんて! ゴミでもカスでもいい、こんな嬉しいことはねぇだよ!』


 本心だった。

 あらやだ、この娘、本当に純真じゃないのよ。汚れた俺の心が痛い。心のひび割れに純真さが沁みる。


 ともかく、全員が人間を辞める覚悟を決めたらしい。

 なら仕方がない、やるか!


「よかろウ! ではこれよリ、お前たちに名を授けル! 命名『ボーア=チョップス』! 命名『マートン=チョップス』! 命名『ラム=チョップス』! そして娘、お前は……命名『ピュア』!」

「「「ははぁっ!……っ!」」」


 奴隷子ちゃんは純真なので、まんまピュアにした。どうか、いつまでもその純真さを失わずにいておくれ。変態一家に毒されないでね? もう手遅れっぽいけど。


 ふむ、どうやら成功かな? 全員が天の声さんのアナウンスを聞いているっぽい。初めて聞くとびっくりするよね。

 俺は……この世界で初めに聞いたのが天の声さんの声だったからなぁ。びっくりっていうか『誰? 何?』って感じだった。初々しさなんて初めから無かった。


 さて、それじゃお楽しみのステータス確認タイムと洒落込みますかね。

 豚領主、まずはお前からだ! さぁ、お前の全てを俺に曝け出せ!


――――

名前:ボーア=チョップス

種族:ヒューム(オス)

年齢:四十四歳

HP:★★★

MP:★

腕力:★★

体力:★★★

知能:★★★★

敏捷:★

技巧:★

技能:『打撃耐性』『痛覚耐性』『感覚強化』『忍耐』『話術』『直感』『説法』(『成長促進』)(『毒耐性』)(『言語理解』)(『病気耐性』)

称号:『丞相』『ロキシー教教皇』

眷属:

特記:『ボン=チキングの眷属』

――――


 ふーん、ステータスは微妙だな。知能が高いけどMPは低い。腕力と敏捷も低い。魔法使い型じゃないけど、かと言って戦士型でもない。でも体力はある。マジ微妙。

 あれ? 変態系技能がないな? 強いて言えば【痛覚耐性】か? ドMっぽいのはこれくらいで、あとは普通の技能ばかりに見える。

 そうか、豚領主は技能の組み合わせであの変態性を発揮していたのか。【打撃耐性】と【痛覚耐性】、【忍耐】で受け止めて、【感覚強化】で気持ちよくなってるんだな? なるほど。

 一見普通の人が実はド変態。うん、よくある話だ。一見普通の技能でも、組み合わせれば変態になりうる。世界は深い。


 ……って、待てーいっ! なんだその称号は!?

 【丞相】っていうのは、何かの役職名だろ? 三国志か何かで見たことがある。なんだか偉い人。それはいい。領主だからな。

 というか、なんだよその【ロキシー教教皇】って! なんで俺(の分身)の名前が宗教になってるの!?

 はっ!? そう言えばコイツ、俺のことを『我が神』って言ってたな。アレ、誇張とかじゃなくて本当にそう思ってたってこと!? マジか!

 むっ! まさか……やっぱりか! マートンにも【ロキシー教枢機卿】、ラムにも【ロキシー教大司教】の称号が! ピュアちゃんに至っては【ロキシー教聖女】だよ! 光魔法まで生えてるよ! なんで!?


 っ!

 まさか、まさか!

 ……ぎゃあーっ、やっぱりーっ! 俺にも【ロキシー教御本尊】の称号がーっ! なんでぇーっ!?


 なんてこった……変態に名付けしたら新しい宗教が生まれてしまった。

 何を言っているか分からないかもしれないが、安心してくれ。

 俺にもさっぱり分からない。

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